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首都圏中学入試2011始まる⑨

首都圏中学入試2011始まる⑧のつづき。

☆神奈川エリアの出願情況には、従来とはやや変化がみえる。総応募者数は、まだ昨対比70%に到達していないが、そのような中で健闘している学校の顔ぶれに変化がでてきているのである。

☆男子校では、鎌倉学園①、サレジオA、栄光、聖光①、逗子開成①という順に応募者増加率になっている。昨対比100%を超えているのは、今のところ鎌倉学園とサレジオである。

☆鎌倉学園は建長寺派臨済宗、サレジオ、栄光、聖光はカトリックというそれぞれ歴史のある宗教という豊かな文化資本がベース。それに対し、逗子開成は、田邉新之助という元開成の校長が創設。田邉新之助といえば、田邉元の父親である。田邉元も開成で教鞭をとったこともあるようだが、ともかく西田幾多郎と並ぶ日本の哲学者。今、岩波文庫でやっと著作が復活した。日本文化を考えるうえで欠かせない人材。なんといっても、西田が自分の足りない視点を補うために京都大学に招かねばならぬほど、数理哲学を深めていた。

☆この深さを逗子開成は今もなお受けとめている。この受けとめ方が強くなるか弱くなるかによって、逗子開成の今後のビジョンが変わるのだが、今のところ強くなるばかりである。つまり、父と子に共通する社会を背負う道という点を極めるかどうか。

☆本物志向という男子校の道が明確になってきたか。もっとも鎌倉学園もサレジオも栄光も聖光も、実際には大学進学実績で選ばれているかもしれない。しかし、それだけではないような空気や匂いや雰囲気を了解して選ぶことが重要である。

☆あとは入学してからその漠然とした感覚を、学校の教育によって意識として開かれるかどうかである。その開く努力を学校が失ったらそれは選択者側にすぐ伝わるから、衰退するだろうが、それを感じさせない高文化資本があるし、万が一そのようなことがあったとしても、それは同窓力が解決に乗り出すだろう。それもまた文化資本である。

☆女子校は、洗足学園が神奈川エリアの女子校を凌駕する勢いがとまらないという結果になりそうだ。そして、目立たないが、聖園女学院と横浜女学院がポジショニングを上げている。

☆というのも、両校とも新設入試に生徒が集まっているからだ。昨対比とかで見ていると見過ごしてしまう。特に横浜女学院は、2月1日の午前入試が新設だというのだから、これは午後入試を設定した当時からねらっていた用意周到な戦略だったはず。それが成就し、応募者も集まっているのだから、頼もしい。

☆ある意味洗足もキリスト教主義であるから、神奈川エリアの女子校では、宗教改革が起こっているのかもしれない。伝統的文化資本にのみ拠っているキリスト教主義学校と歴史的伝統ではなく普遍的キリスト教主義の精神というか永遠の今というキリスト教精神を常に現代化しているキリスト教主義学校との闘争ということ。

☆共学校では、横浜翠陵の勢いがよい。応募者数の昨対比100%を超えているところは今のところ翠陵のみでもある。同校の国際教育は、英語力を高めるという意味で定評もあるし、同校の教師も自信を持っているだろう。そして、共学化し考える学びのプログラムを作っていて、それもまた興味深い。

☆しかし、同校の文化資本は海外のネットワークそのものにあるのだ。ネットワークの量の問題ではない。ネットワークの組み方そのもののあり方が、世界では常識であるが、日本の教育ではまだまだ了解不能な未来性がある。

☆その未来からやってきた文化資本を地道に蓄積してきたのである。それを全面に出してアピールしてこなかったところが、暗黙知の雰囲気を逆に伝える効果があったのである。つまり伝えたのではなく伝わったのである。

☆偏差値重視の受験市場の風潮が、逆説的に、ちょうど横浜翠陵にマッチしたのである。というのは、偏差値によって差別された才能の持ち主である生徒にとって、横浜翠陵の無理のないステージから徐々に、しかし、最終的にはグーンと成長するという人材育成の仕掛けこそ心地よいのである。このタイプの学校は他にもあるが、たいていは偏差値の低いことに対し学校当局は悩みがちではある。そこを逆手にとる教育内容があるかどうかがカギ。

☆グローバリゼーションには優勝劣敗成長神話と相互に成長し合う新し関係性の両方が混在している。日本では、まだまだ前者の勢いが強い。経産省の掲げるグローバル人材とは前者である。しかし、世界標準のモノサシではかれば、国際社会では後者もかなりの勢いである。その象徴がサンデル教授の正議論ブーム。新自由主義時代では悪評だったコミュニタリアニズムの復権というのだから、世の中変わったものだ。もちろん、日本ではサンデル教授にあやかって優勝劣敗成長神話の復権のきっかけづくりだったに違いないし、ハーバード大学の経営戦略でもあっただろうが・・・。

☆しかし、相互に成長し合う新しい関係性は、未来から期待されている。要するにウィン・ウィンかなんて納得されると困る。ウィン・ウィンは優勝劣敗成長神話の枠組みで、勝ち組どうしの関係を言っているにすぎない。高偏差値どうしの関係性だ。

☆これは行き過ぎてしまうと、ホロコースト・シンドロームに陥る。この症状を引き起こさないための相互に成長し合う新しい関係性を時代は要請している。医療の分野で議論になるエンハンスメント(もちろんこれは社会全体の問題なのだが)問題を解決できる発想を生み出す環境や学びのプログラムを有しているのが横浜翠陵なのである。

☆フラットなコミュニケーションは、ウィン・ウィンの関係性なのだ。新しい関係性はホリゾンタルなコミュニケーション。この差異を暗黙知的に了解している未来からの文化資本を蓄積しているのが横浜翠陵である。

☆総応募者数が伸び悩んでいる神奈川エリアで、以上のような動きが生まれているとしたら、たいへん興味深いが、優勝劣敗成長神話ベースの受験市場がこれを歓迎するのかしないのかそれが問題だ。

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