グッドスクールの例⑨ 麻布
グッドスクールの例⑧ 聖学院のつづき。
☆麻布学園がグッドスクールであることは言うまでもない。家庭の文化資本もいろいろな理由で相当高いし、学校自体の文化資本も破格である。何と言っても、麻布の入試問題の右にでるような問題はあるのだろうか。創造的能力をきちんと選抜できる内容であるのは、業界では周知の事実である。新しい公共人を輩出する環境も整っている。
☆しかし、その中でも学校の高文化資本について、一言確認したいことがある。それは図書館を中心に教師がいかに知的文化資本を蓄積する活動を日々行っているかということである。当然それが生徒の才能を豊かにしていく環境そのものある。
☆この写真のページは、デザイン的には目を惹かないかもしれないが、そこはよくよく注視してみてほしい。同学園の図書館のページは、これを読む外部の人間も文化資本をシェアできるほどの大盤振る舞いのサイトなのである。まずは開いてみてはいかがだろうか。
☆教師による本をめぐるコメントや図書館に入れている新着情報が、毎月発行されている。その図書館広報誌の名称は「衣錦尚絅(いきんしょうけい)」。麻布の創設者江原素六の書に由来して名付けられたようだ。中国の古典「中庸」(ちゅうよう)から江原素六がとったようだ。キリスト教と儒学の素養を学園の礎とした建学の精神が麻布の文化資本のベースであることがわかる。同サイトによると、
「衣はころも、錦はにしき、尚は加える、絅はうすぎぬ。つまり、華麗な着物をまとっても、うすぎぬを掛けて、外にあらわさないということ。2001年度から図書館月報の名を衣錦尚絅と改めました。ここでは、深い教養や学問を身につけていても、それを見せびらかさない・鼻にかけないという意味になります。」
☆ということなのだから、尚更である。
☆「衣錦尚絅」のページを進んでいくと、毎月膨大な新着情報が掲載されている。麻布の教師がどういう学問的志向性を持っているのかがわかる。それゆえ必見!なのである。時期的に、この意味がわかる方はわかるだろう・・・。
☆また、年に一回発刊される「図書館だより」も見逃せない。「衣錦尚絅」のような名称になっていないから、PDFを開かない可能性が高いが、まずは最新号を開いてみてほしい。
☆本誌は教師による「特集」論考なのである。どのような本をどのように読んでいるのか、考え方の切り口がわかるのである。
☆巻頭言は氷上校長によるエッセイであるが、最新号は、神谷美恵子の「生きがいについて」を論じている。その中で、こんな箇所を引用している。
「現に私たちも自分の存在意義の根拠を自分のうちには見出しえず、『他者』の中に見出したものではなかったか。五体満足の私たちと病みおとろえたもの者との間に、どれだけのちがいがあるというのだろう。わたしたちもやがて間もなく病みおとろえて行くのではなかったか。・・・現在げんきで精神の世界に生きていると自負するひとも、もとをただせばやはり『単なる生命の一単位』にすぎなかったのであり、生命に育まれ、支えられて来たからこそ精神的な存在でもありえたのである。また、現在もなお、生命の支えなくしては、一瞬たりとも精神的存在でありえないはずである。そのことは生きがいの喪失の深淵にさまよったことのあるひとならば、身にしみて知っているはずだ―――。これら病めるひとの問題は人間みんなの問題なのである。であるから私たちは、このひとたちひとりひとりとともに、たえずあらたに光を求めつづけるのみである。」
☆そして、氷上校長は最後の一文をこう締めくくる。
たしかなことは、「生きがいについて」というテーマは、時代を超え、状況の変化を超え、地域を超え、与えられた一個の生命をさいごまで生きぬこうとする人間にとって、すぐれて普遍的なテーマなのだということである。
☆ここには氷上校長の深い思いがある。この普遍的テーマを胸に秘めながら、ともに光を求め続けて生き抜いて欲しいという生徒への期待。しかし、その生き方は「衣錦尚絅」なのだと。時代が求めている新しい公共人の姿ではあるが、同時にそれは創設者江原素六の生き様でもある。
☆南原繁の孫である氷上先生は、戦後教育基本法成立にかかわった人材を研究している。そこには≪私学の系譜≫が流れ込んでいるのはないかという発想がある。
☆南原繁を中心とする教育基本法成立のための委員会のメンバーは、内村鑑三、新渡戸稲造の弟子であり、両者は福沢諭吉、江原素六、新島襄などの第一世代の私学人の精神を継承していると考えている。この時の活動に深くかかわったメンバーの1人に、神谷恵美子がいるのである。神谷恵美子もまた新渡戸稲造の弟子である。
☆この流れは、遠くサビーニ対ヘーゲル=ルソーの闘争を引き継いだ民法典論争にも関係する。明治という近代国家の形成過程に、福沢諭吉や新島襄、そして江原素六がどのようなポジションニングにいたのか。新しい公共人とは、結局明治国家が採用したサビーニ路線ではない≪私学の系譜≫の話なのかもしれない。そういえば、民権運動の旗手板垣退助と遊説して議員としても活躍したのは江原素六であった。
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