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武相が注目されるわけ

☆今月茨木県から中学入試が始まって以降、各学校の応募者数の昨対比をウォッチしつづけている。その中で、神奈川エリアの男子校では、武相が勢いを増してきていると述べた。そんな折、不思議なもので、武相の先生及び保護者とメールで何度かやりとりができた。

☆また、武相の中高一貫校卒業生のOBの後輩あてのメッセージも手に入れることができた。28歳の若き外交官である。今でも、武相の精神「守破離」を学問とコミュニケーションに活かし続けているという。

☆教師の想いと保護者の想い、そして生徒の想いがシンクロした瞬間をいただいたが、なるほどこれが「勢い」を生みだしているのだと直感した。

☆保護者の想いは、実に深く温かい。たしかに息子は、功利主義的社会で生きていかねばならいが、果たしてその社会に適応できるだけでよいのだろうか。自分の息子の人生を偏差値や得点という限られた枠の中での競争社会で生きていく技術だけを身につけさせるだけで終わってしまってよいのか。そのような理想と現実の矛盾を解決する学校と教育はどこにあるのか。そういう想いで探し求めていたら、武相に出会ったという一期一会を切々と語ってくれた。

☆ケインズではないが、ファンダメンタルなものに価値を見出す行為は、経済合理主義の世の中にはなく、テクニカルで損得勘定で世は動くものだ。そう20世紀は考えられてきたが、21世紀はどうやら様相が違うようだと真剣に考える保護者。ファンダメンタルな想いに支えられたテクニカルなスキルを身につけることが肝心なのだと。

☆そして先生によると、ここ3年くらいで、そのような保護者が説明会に増え始めたということだ。武相の説明会の中には、理科実験やワークショップ型の社会科教室も開催されている。入試体験というイベントもある。

☆そのとき、保護者も共に脳みその汗を流すのを楽しむということである。もちろん受験生には好評で、いつも予約はすぐに満席になる。

☆武相の先生は、実に謙虚で、何か新しいことを行っているのではなく、ひたすら地道に武相の教育の質を伝えようと努力しているだけですと語るが、質の表現こそ、共感と共鳴を呼ぶのである。

☆しかし、それはたしかに繊細である。大きく響かないし、遠くにすぐには響かない。あくまで共振の連鎖が少しずつ遠くに広がっていくのである。

☆気づいたら大きな勢いになっているということだろう。まったくもって「守破離」のリズムだ。少し長くなるが、OBの「守破離」の響きに耳を傾けて欲しい。

在ハバロフスク日本国総領事館副領事竹内昌平(武相中高一貫卒業生)

1983年東京生まれ、2001年武相高校卒、2005年青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科卒、2007年上智大学大学院地球環境学研究科卒、同年外務省入省、外務省気候変動室、大臣官房、在ロシア日本国大使館を経て、2008-2010年モスクワ国立大学留学、現在、在ハバロフスク日本国総領事館副領事

1.外交官になった動機と現在までの経緯

 私が幼い頃は、ベルリンの壁の崩壊や湾岸戦争、ユーゴスラビアの民族紛争など、国際社会のダイナミズムが強く表れた時代でした。私と同年代の子供達が、戦争で親を失い途方に暮れている姿や、栄養失調で痩せ細り息が絶える映像などを毎日のように目にしました。武相中学・高校では、先生方がこのような時事問題を積極的に授業で取り上げて下さり、国際社会が抱える深刻な問題を強く意識しました。
 そのような経緯から、将来は国際的な仕事に就き、貧困問題などの地球規模の課題に対して解決の一役を担いたいと思い、青山学院大学国際政治経済学部に入学しました。青学大では、国連職員と外交官養成のための大学付属機関に所属し、ニューヨークの国連日本政府代表部をはじめ世界中で活躍されている先輩方とお会いし、そして先輩方の背中に憧れ、外交官になることを志し始めました。
 青学大を卒業後、上智大学大学院地球環境学研究科博士前期課程に進学し、21世紀になり急速に問題になり始めた地球環境問題について研究しました。文系専門であった自分が、理系と文系の知識を必要とする環境学を研究するに当たりなかなか一筋縄ではいかないところがあったのですが、中学・高校で勉強した理科や     数学の基礎知識を確認しつつ、研究に没頭しました。上智大学大学院在学中に外務省の採用試験に合格し、当時の麻生外務大臣よりロシア語の習得を命じられると共に、専門としての環境学が生かせるよう、外務省気候変動室での勤務を命じられました。その後、大臣官房、在ロシア日本国大使館、モスクワ国立大学での2年間の留学を経て、現在、極東シベリアにあるハバロフスクの日本国総領事館にて副領事として勤務しています。

2.武相中学・高校時代の経験

 武道の言葉に、「守破離」というものがあります。一般的には、師の教えを「守」り、師の教えをしっかり身につけた後にその教えを「破」り、他の考え方などを研究し、最後に先生の教えを「離」れ、自分の境地、道を確立する過程と説明されます。外交官試験の受験勉強に限らず、学問でも、スポーツでも、最も大事なことは基礎を体得することです。基礎がないのに応用だけを習得する、というのは、皆が憧れることですが、ほぼ不可能に近いことだと思います。中学や高校時代というのは、最も若さに満ちあふれた時代です。両親や学校の先生など身近な「師」の教えなんて鼻にもかけず、師の教え(基本)を破りたがるもので、時には個性(応用)ばかりに執着し、「師」の教えから「離」れたりするものです。
 私の場合も、まさに典型的な反抗期が長い間あり、学校の授業を軽視し、親の言うことなどには殆ど耳も貸さない状態だったと思います。しかし、中学・高校の担任が毎日朝6時半には登校され、毎朝、英単語の試験や授業後の補習をして下さったり、所属していた剣道部の先生が毎日基本をしっかり指導して下さり、更には土曜日まで稽古をつけて下さったことは、毎日いやだなぁと思ったりしましたが、今は感謝の思いしかありません。先生方が自分の基礎を築いて下さったお陰で、現在、応用と言えるものがあります。
 基礎というのは往々にして退屈な物で、忍耐力に乏しい中学・高校生はすぐに投げ出したがるものですが、それでも武相の先生方が辛抱強く真摯に向かい合って、基礎をしっかり教えて下さったのは、私にとって生涯忘れることのできない経験です。

3.中学生・高校生へ

 勉強(英、数、国等)と勉強以外のこと(遊び、スポーツ等)は、どちらが大切かと言えば、私は自信を持って勉強以外だと考えます。なぜなら、遊びやスポーツを通して他人と接することで、人との接し方や言葉の使い方、そして協調性や道徳心などを身に付けることができるからです。
 他方で、学校の勉強とは、人の頭の能力をきたえることです。能力ばかり優れた人が、人との接し方も知らずに、社会で活躍することは難しいでしょう。例えば、英語ばかり上手であっても、すぐに人の悪口を言ったりしては、皆から嫌われてしまいます。社会というのは、人と人の調和・相互作用によって成り立っており、他人とコミュニケーションをとれない人が社会で活躍できるわけもありません。しかし、学校で
習う科目は全て、人生で必要なことです。私が中学生・高校生の時は、「日本人なんだから国語を勉強しなくてもいい」とか「日本で生活するんだから、英語を勉強しても意味がない」とか、若さに任せてへり屈ばかり言っていましたが、国語能力も、英語能力も、全て現在の自分を大いに支えてくれています。大事なことは、目の前にあることを投げ出さずに、しっかりやる、ということです。何か1つに偏るのは一番良
くないことです。それには、先生方やご両親の話をしっかり聞き、何でも好奇心旺盛に頑張ることが大事です。先生方やご両親の言うとおりに行動するのが恥ずかしいのであれば、聞いてないふりをしてもいいと思います。しかし、師の教えというのは将来的に絶対に役に立ちますので、反抗するふりをしても、必ず耳だけは立てておきましょう。最後に、高校を卒業するに当たり、剣道部の恩師が自分の胴の裏に書いて下さった古い言葉を紹介します。「師から三尺離れ、師の影を踏まず、只管に床を磨き、汗を流し、心を洗い、稽古に精進、努力せん」。若い頃は、周りの人に反抗し、自分の好きなように振る舞いたいものですが、先生方やご両親は必ず大切にし、目の前のやるべきことは全てやり、ひたすら頑張り、充実した学生生活をおくりましょう。

☆このメッセージには、保護者が求めていた「基礎」=ファンダメンタルなものがある。それは体験なのである。人とかかわり、自然(身体も自然)とかかわり、部活という社会の構えに入門する。OBが「勉強(英、数、国等)と勉強以外のこと(遊び、スポーツ等)は、どちらが大切かと言えば、私は自信を持って勉強以外だと考えます。なぜなら、遊びやスポーツを通して他人と接することで、人との接し方や言葉の使い方、そして協調性や道徳心などを身に付けることができるからです。」と語っていることである。

☆そして、それが説明会でも同じように体験されているのである。受験生のみならず保護者も。宗教の愛では、逆説的にも衝突してしまっている国際社会。そこを横断的に突破し、協働できるのは「友情」の愛であるということかもしれない。友情は「守破離」の関係性でもあろう。友は親しき仲にも礼儀ありなのだから。私立学校が、マナーや礼法、茶道といった「道」を大事にするのは、そういうことだったのか。

☆「道」の共通体験。武相の説明会はここから始まっているのである。

Busox

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