2011年中学入試の人口と経済背景
☆今年の中学入試は、やはり二極化が本格的に進んだようだ。その背景には、12歳人口減と世帯所得や個人所得の減少がある。
☆この背景に、偏差値と大学進学実績の選択指標で選択をすすめ、大学受験予備校に吸収された中学受験塾が、高校でリベンジ受験を勧めるというコントロールが強く働いたために拍車がかかった。
☆今までもその傾向はあったのだが、受験人口や所得減少が、それに影響を与えるほどではなかった。まだ経済合理的に考える層も余裕があった。しかし、今年はこの層は偏差値と大学進学実績指標でみて、その条件に合わない学校には合格しても行かないという選択をとったのだろう。
☆しかも、偏差値50以上の学校が、おそらく従来通りの歩留まりを上回ったか意図的に定員よりも多めにとったために、多くの私立中高一貫校が生徒獲得戦略において苦戦したのであろう。
☆しかし、この中学受験エリアにおける人口減と経済的背景をリサーチしているシンクタンクはなく、各模擬テストの結果や塾の、企業的思惑で入試総括が行われるために、私学の学校経営者によっては、広報担当者が力不足であると責めるだけで終わるところも少なくない。2012年入試は、ことは個別の私学の問題ではなく、私学市場全体の問題であるということに目を向けねばならない。
☆とりあえず、総務省、厚生労働省、国税庁の統計データで、12歳人口(全国)と経済的な背景のデータ(全国)をまとめてみた。(2001年が100%の項目は、2001年を起点として増減を計算している)
☆1998年・99年の私学危機を乗り越えた21世紀から統計を追ってみた。*印のところはデータを見つけることができなかった。それにしても肝心の2010年のデータが12歳人口以外は見つからない。したがって、所得減については実感体感にすぎないと思われるかもしれない。
☆しかし、データは必要であるが、あくまでそれは実感・体感を裏付ける根拠であり、大事なのはいまここでのアンテナなのである。しかし、経営陣はとかくデータを頼りにする。ならば、リサーチにきとんと投資するべきであるが、なぜかだれかが知っていると思っている・・・。これでは広報担当の先生方は報われない。もっとも、だからそういう経営陣のいる学校は生徒獲得戦略がうまくいかないのかもしれないということもあるかもしれない。
☆ともかく、2012年入試に向けて、「代理ミュンヒハウゼン症候群」が、経営陣や足をひっぱろうとする組織に生まれる私学もでてくるだろう。どうか建学の精神に立ち戻り、そのようなことのないように祈っている。
☆さて、一覧表に戻るが、実は12歳人口は、2001年を起点とすると、それほど減っていないように見える。というのも団塊世代の子ども世代の子どもの次の世代が続いたばかりで、しばらく横ばいだったのが、ガクンと減り始めるのは、2013年以降。しかし、2010年もやはり減っているはずなのだ。
☆首都圏と国全体とでは違いはあるが、この影響を回避する政策が首都圏で積極的にとられているわけではない。12歳人口減少の影響は今後、もっとはっきり見えてくるだろう。現状ではデータ上では、まだ危機感が迫っていないかもしれないが。
☆平均給与も児童のいる世帯所得の平均も確実に減少しているが、肝心の2008年のリーマンショック以降のデータがまだ集計されていない。おそらくこの減少は緩やかではないというのが、実感・体感である。
☆一方欠損法人の企業法人全体に対する割合は、増えている感じがすでにする。欠損法人とは、申告所得がゼロ以下で、法人所得税を支払っていない法人のことであり、節税目的の法人と見れば、必ずしも実質所得が減少しているということに影響しているかどうかはわからないが、最前線というか現場レベルの経済の勢いがなくなっていることを示す指標ではあるだろう。
☆ジニ係数もデータの集め方によっていろいろ変わるが、国税庁が調査して公開しているデータによると、格差が開いていることを示している。この傾向は実感・体感に合うのではないだろうか。
☆ジニ係数で興味深いのは、45歳前後の格差はここ数年横バイという点である。とすると、所得が減っているわけであるから、この年齢層には大きなダメージになっている可能性が高い。所得が減って格差がないのだから。この年齢層こそ、中学受験生の児童がいる世代である。
☆2012年入試の私学市場は、かなり苦難の道を強いられるだろう。世界情勢が国民の生活に敏感に反映してしまう昨今の状況変化も加わるだろうから、なおさらである。
☆渋沢栄一や浅野総一郎、安田善次郎、高橋是清のように、私学人は同時に起業家であり経済人でもあったということを振り返り、ステークホルダーと新しい教育事業を起業することも必要かもしれない。
☆一方で、スモールサイズでも経営できるように、教育の質に集中するという道もあるかもしれない。
☆もちろん、これまで以上に政府や文科省と交渉し続けることも重要だし、議員を私学人から輩出することなども必要かもしれない。
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