麻布の考える活動力
☆麻布学園のホームページの「麻布の近況」のページに、次のような記事が掲載されている。
「図書館を使った調べる学習コンクール」で文部科学大臣賞を受賞
中3の三浦颯人君の作品「志命ー崩シテナルモノカ」が、5094の応募作品の中から、最も優秀な作品に贈られる文部科学大臣賞を受賞しました。「医療崩壊問題」をテーマとした論文で、医師不足や厳しい勤務の実情を文献調査し、現役医師へのインタビューをまとめています。政治的な観点から医療問題を考察するため、卒業生の谷垣禎一氏への取材も試みています。写真は、授賞式の後日、校長に報告しに行ったときのものです。校長室のデスクに三浦君が座っています。麻布の校長がいかに多くの書類に埋もれた生活をしてるかもわかります。
☆人間の活動力は、ハンナ・アレントによると、労働、仕事、活動、考える活動力と分類されるそうだ。本来は、これらは要素還元的に分割できるものではないが、近代は、見事にこれらを分断し、階層化してしまった。
☆しかし、学校教育というのは、まだまだこの分割をやりようによっては、未分化から分業へという就職先・進路先キャリア教育ではなく、関係総体的な人間存在の成長を促す人間教育を実践することができる。ということを麻布学園は証明しているのである。
☆つまり、分業型キャリア教育は、≪官学の系譜≫によって推進され、人間存在型キャリア教育は、≪私学の系譜≫によって持続可能化されてきたと置き換えてもよいだろう。
☆三浦君は、この論文を、労働のためにのみ行ったのではない。仕事としてのみ行ったのではない。人間関係を構築するためだけに活動したのではない。考える練習のためだけに行ったのではない。
☆生命とは何か、生命にとって大切な世界性とは何か、関係という広義の生態系とは何かについてトータルに考察することによって、医療の背景にある人間問題の解決の糸口を見出そうとしたのであろう。
☆もちろん、「図書館を使った調べる学習コンクール」はそこまで求めていない。小中高生の作品の審査基準は、次の通り。
(1) 学校図書館や公共図書館の資料・情報を活用した研究・調査であるか
(2) 発達段階に応じたテーマであるか
(3) 的確な資料・情報収集ができているか
(4)複数の資料・情報を活用しているか
(5) 使用した資料・情報の出典が明示されているか
(6) 調べる目的、方法、過程などをきちんと示しているか
(7) 資料・情報をもとに、自分の考えをまとめているか
(8) 調べる過程や作品に、主体的に学ぶ喜びが読みとれるか
(9) 情報の整理や表現方法が工夫されているか
☆したがって、そのような関係総体主義的な思考力を求めているわけではない。しかし、たとえそうであっても、インタビューを重ねる中で見えてきた重要な視点や麻布学園の教育質感に審査員の方々が圧倒される何かがあったにちがいない。そこの差異が認められたのだと思う。
☆さて、最も重要なことは、分業化あるいは役割分担が階層的になってしまっている社会の現実に対し突きつけられた震災と原発問題を根源的なところまで接近して解決するには、実は≪官学の系譜≫的発想とはまた異なるものの見方や世界観をもっている≪私学の系譜≫の成果をヒントにすることではあるまいか。
☆中学1年生が書いたものだからと年齢階級的分断という隠れた前提下で無視するのではなく、関係総体主義的世界観のものの見方を参考にするという活動が行われてもよいかもしれない。ぜひ公開してもらいたいものである。
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