白鴎東大5名輩出についての記事
☆都立中高一貫校である白鴎(東京都立白鴎高等学校・附属中学校)の1期生から東大合格者が5人輩出されたことについて、マスメディアは注目しているが、比較的詳細に書いている記事に「都立中高一貫に期待高まる 白鴎の初卒業生、東大合格現役5人 Jcastニュース 2011/4/11 19:59」がある。
都立としては初となった中高一貫教育校、東京都立白鴎高等学校・附属中学校。2005年の開校から2011年3月に一期生たちが卒業を迎えたが、東京大学への合格者を現役で5人と「躍進」した。専門家は「目標通りの成果が出せた」と指摘する。・・・・・・朝日新聞出版「週刊朝日」(4月15日号)によると、都立高校の東大合格者数は、進学校の日比谷高校と西高校の29人、国立高校の13人、戸山高校と八王子東高校の7人で、白鴎高校の5人はそれに次ぐ人数。白鴎高校の東大合格者は直近が10年前に1人だったというから、現役で5人を輩出したのは「大躍進」と言える。また、東大以外にも、一橋大2人、筑波大4人、早稲田大38人、慶應大15人、上智大13人の合格者を出した。
☆たしかに、躍進といえば躍進であるが、その理由はというと、こう論じられている。
白鴎高校の副校長は取材に対し、「学習や生活の習慣を徹底している」と明かす。学習面では、毎日出される宿題は必ずチェックしているし、補習も行われる。また、定期的に来校するチューターと呼ばれる現役東大生や、教師たちが個別に生徒の勉強を見られる工夫をしている。
☆教科書とドリルを毎日たくさんていねいにやった。個別対応もした。つまり20世紀型教育を徹底したということだが、本当だろうか?また中高の中だるみについてはこう書かれている。
校舎が、中1・2生と中3生以上で別になっているのも特徴だという。6年間同じ場所に通う一貫校では「中だるみ」になりがちだが、場所が変わることで気分の変化を持たせる。また、校舎内には勉強のできるフリースペースがあるなど学習環境が整えられ、生徒たちは7時半の開門にあわせ、学校には早めにくるなど意欲の高い生徒も多いそうだ。生活面では、あいさつや言葉遣いの指導も行うなど、副校長は「面倒見がよい学校だ」と胸を張る。
☆中だるみとは、空間からくるものでもある。アフォーダンスとはそういう観念でもある。しかし、空間とは最終的には内面的空間の変幻自在、伸縮自在な自律空間がものをいう。それに開成は6年間同じ場所といえば同じ場所だ。麻布だともっとそうだ。それでも東大合格者は5人ということはない。
☆あいさつや言葉遣いの指導というが、本当はそれはコミュニケーション行為の一部に過ぎないだろう。面倒見がよいとは、その一部を全体につなげる活動のことを意味しているのなら納得がいくが・・・。
☆また「中高一貫校となるにあたり、新たな目標を掲げたことから、意欲の高い生徒と教師が集まり、実績にも結びついた」ともあるが、意欲の高くない生徒と意欲の高くない教師がいることが前提になっている。公立学校としての公平性はどうなっているのだろうか?
☆「景気の影響で、私立受験が沈静化している状況だ。(白鴎高校で)結果が出たことで、都立の中高一貫校への期待も高まると考えられる」という森上教育研究所のコメントも引用されているが、森上氏が、そういう回答をするかなあ?これは例によって編集だろうなぁ・・・。
☆景気の影響で、私立が苦戦していることは確かであるが、だから都立中高一貫校に期待がかかるという因果関係は雑駁過ぎるからだ。受験生が都立の中高一貫校に流れるというのはわかるが、期待がかかるとはどんな期待がかかるか明らかではない。
☆白鴎の先生方は、おそらくここ数年で人事が変わり、他の学校との入れ替わりがあっただろう。公立学校なのだから、そこは原則通りのはず。小石川のSSHを立ち上げた先生も他の学校に既に転勤になっていると聞き及ぶから、白鴎も例外ではないだろう。
☆したがって、本当は特別意欲がある先生がいるということではなく、一般の公立の先生方で構成されているというのが本当のところではないか。そうでなければ、公立の学校は制度上いけないのである。私立学校の場合は、特別意欲があるなしという表現は使えるが。
☆それから、「進学型中高一貫教育」という表現がなされているが、公立学校において、進学型というカテゴリーは問題である。進学型であってはいけないのだが、実質進学型になっているということを断らなければならない。
☆そして実際、白鴎は、創設当時から、20世紀型教育では、学力が上位の生徒は意欲があり、学力の下位の生徒は自己否定感がつよくなるから、この格差を克服するために、ドリルや教科書中心主義、講義形式中心主義を脱しようと、創意工夫の悩みの中にあった。
☆その結果、東大合格者が5名出たにすぎない。この理由が20世紀型教育で出たのか、そうではない21世紀型教育へシフトしようという創意工夫の過程の中で出たのか、その検証をこそするべきなのに、検証の眼鏡あるいはフィルターあるいは視点が、20世紀型教育のままであることにマスメディアは自己批判しなければならないだろう。
☆文科省でさえも21世紀型教育を標榜しつつ、そのことを明らかにしないために、新学習指導要領が20世紀型教育に戻り、むしろそれを強化するように世間には映っているのである。脱ゆとりは、結局ドリル強化型に戻ると・・・。質より量の回復なのだと・・・。
☆マスメディアが来年の東大実績を期待している小石川中等教育学校では、同校ホームページによると、たとえば、次のような教育活動を実践している。
ホームルーム合宿(1学年)
毎年1学年は、4月下旬か5月上旬の2泊3日、ホームルーム合宿を御殿場で実施します。1年生にとって入学後最初の大きい行事です。ホームルーム合宿では、登山、野外炊飯、クラスの出し物作りなど、さまざまなものにチャレンジします。これらは「グループワークトレーニング」の一環として行われ、メンバーの中で役割分担し、協力して物事を成し遂げる訓練になっています。海外語学研修(3学年)
3学年は夏季休業期間を利用して、2週間、南オーストラリアのアデレードで海外語学研修を行います。生徒たちは9つの学校に分かれて語学研修に励むと共に、期間中は現地の家庭にホームステイをして、生きた実践的な英語を学びます。自然体験(4学年) *平成21年度実施
4学年は5月の新緑が美しい福島県南会津で、南会津観光公社の全面的な協力の下35軒の農家に分宿し、それぞれの農家の農作業に従事しました。 ビニールハウス造りや田圃の整備など、さまざまな農作業を体験しました。 また、2日目には田植えを行いました。南会津のみなさんと触れ合うなかで、農と食、自然環境など、さまざまなことを体験を通して学ぶことのできた3日間となりました。SSH(Super Science High School)の実践理科好き・数学好きを育てる自然科学教育の実現
母体校・小石川高校は、平成18年に文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されました。「大学・研究所・企業との連携を図り、理科好き・数学好きを育てる自然科学教育の実現に向けたカリキュラム及び教材の開発」を研究テーマとして実践研究に取り組んでいます。
☆これらは、読み書きそろばんという3R主義から体験・リサーチ・議論・発表などのプロセスを基盤とする3X主義へ移行している、つまり20世紀型教育から21世紀型教育へシフトしていることを示唆している。
☆果たして、どこまで浸透しているのかどうか、本当のところはわからない。公立中高一貫校の使命は、東大合格者を出すことではない。「中だるみ」などという表現があるが、今までの公立中学では、この体験ができない。このことは何を意味するのか。それは思春期を高校入試によって中断されるということなのである。
☆これによって、実際重要な中学から高校にかけての思春期の成長期を、把握できないできたのである。そこはすべて家庭にまかされてきた。しかし、今やそれも危うい時代である。景気がよくないとさらに共働きが増え、プログラムを考案しない限り、家庭でも思春期をサポートできない。
☆公立中高一貫校の使命は、思春期を教育機関によってどのようにサポートできるのか、学習指導要領にもない思春期学をどのように探究するのか、そしてその成果を公立学校に提供するという責務があるのである。
☆マスメディアはそこを評価しなければならないし、久しい間、そこを作り上げたのは、私立学校であるという視点で、私立学校を再評価しなければならない。
☆人生には2つのスタート地点がある。それは誕生日である。人間として生を受け、人間の心身の基礎を家庭の中で学ぶ。第2のスタート地点は、中等教育段階である。すなわち思春期。このときに自己の哲学が決まる。コミュニタリアニズムなのか、リベラリズムなのか、コンサバティズムなのか、リバタリアニズムなのか・・・、虚無主義なのか・・・。
☆大事なものを見失わないために、マスメディアはあって欲しい。
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