立教女学院の卒業論文の意義
☆3・11は世界を変えるか?この問いは、私立学校とハーバード大学のサンデル教授を中心とするプロジェクトの共通の意識であり、日本全体の認識でもある。
☆原発事故の解決を巡って、次々と都合のよい情報が発信される現状を前に、情報の正当性や信頼性について日本人のみならず世界の人々も巻き込み考え直さざるを得ない今日である。情報を鵜呑みにせず、クリティカルに情報を収集分析して、自分の言葉で考えることはいかにして可能か?日本の公立教育で、その能力を育成するプログラムは実質なかった。
☆まずはそこから変わらなければならないが、はじめであっておわりである。根源的なプログラムであることに気づくことが必要だ。しかし、ではどうしたらよいのか?
☆それはそれぞれの私立学校の独自の「情報の収集・分析・編集」プログラムがすでにあるから、私立に学ぶことである。この学びに協力するのも私学の使命であることは、私学の先生方は共有している。
☆たとえば、立教女学院の高3の卒業論文の編集は、政府は研究の対象にすべきプログラムの1つである。同学院では、「ARE学習」の一環として卒業論文を制作・発刊しているのであるが、AREとは、Ask, Research, Expressの3つの頭文字からとっている。自ら問いかけ、調べ、編集しプレゼンするというプログラムである。
☆今年も卒業論文第6集が発刊されたが、その巻頭言で平塚校長はこう語っている。
卒業論文は、既存の論文や参考文献に書かれていることをうのみにするのではなく、調べたことを自分なりに消化して、出来る限り、自分の言葉で表現する。そういう努力をすることです。既存の論文や参考文献に書かれていることをすべて信用するということは、他人が与えてくれた知識や情報に権威を認め、あたかもそれらが「真実」であるかの如く、受けとめてしまうことに似ています。自分はその問いに対して、どういう見解を導き出せるかということでしょう。みなさんはこれまで知識や情報を与えられたままに受けとめてきたのではないでしょうか。いや、むしろ、そう受けとめるよう仕向けられてきた、と言えるかもしれません。しかし、卒業論文の作業は、自分でテーマを決め、徹底的に調べ、問いを持ち、結論を導き出すものであったと思います。みなさんは卒業論文と取り組む中で、それまでの見解に対し、疑問を持ち、自分なりに敢えて問い直してきたはずです。
☆まさにクリティカルシンキング体験そのものであるのが、立教女学院の卒業論文編集過程であるというのがわかるが、平塚校長の言葉には、それ以上の意味がある。
☆その意味は、卒業論文を編集し終わったときのある生徒の感想に表現されている。
論文を書き終えたことは人生に有意義な影響があると私は思う。テーマを選び、資料を探し、知識を深めて自分で考察する。そして自分なりの言葉にして解答を導きだす。この一連の流れは「人生」という大きな流れと重なる部分があるのではないか。生きていく上では自己の決定、考察が非常に欠かせないものとなる。論文を書き上げたことでいくらかでも成長できたとすれば幸いである。
☆ここには思春期を乗り越えるポイントが書かれている。思春期と言えば、反抗期というキーワードが思い浮かぶが、なぜ反抗するのか?それは平塚校長の語られる「みなさんはこれまで知識や情報を与えられたままに受けとめてきたのではないでしょうか。いや、むしろ、そう受けとめるよう仕向けられてきた、と言えるかもしれません」ということなのである。
☆自分の判断で知識や情報を検証する体験を排除されてきたのである。そのことを無意識に感じていて反抗してきたのであろう。しかし、立教女学院では、それに気づくプロセスを教師とともに歩むのである。こうして思春期は、第二の人生の出発点になるのである。
☆第一の誕生は両親と神様からさずかったが、第二の誕生は自らの内面から生みださねばならない。それが立教女学院が卒業論文編集体験を仕掛ける根源的理由なのではあるまいか。
P.S.
それにしても、卒業論文を拝読すると、そのレベルの高さに驚愕。すでに新書を書きあげるレベルの能力が磨きあげられている。「英国パブの魅力」「ポイント制度の実態」「草食系男子の意義」「言葉の消長の要因分析」などたんなる自分の考えだけではなく、それを検証する膨大な文献やインタビューなど整理して分析して考察している。彼女たちの将来の活躍の舞台が目に浮かぶ。
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