武蔵の知 伊東乾氏を通して
☆日経ビジネスオンライン(2011年5月2日)に掲載された「長期微量被曝はどれくらい危険か」の著者は伊東乾氏。同誌のプロフィールを引用しよう。
1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。松村禎三、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに学ぶ。2000年より東京大学大学院情報学環助教授(作曲=指揮・情報詩学研究室)、2007年より同准教授。東京藝術大学、慶応義塾大学SFC研究所などでも後進の指導に当たる。基礎研究と演奏創作、教育を横断するプロジェクトを推進。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で物理学科時代の同級生でありオウムのサリン散布実行犯となった豊田亨の入信や死刑求刑にいたる過程を克明に描き、第4回開高健ノンフィクション賞受賞。科学技術政策や教育、倫理の問題にも深い関心を寄せる。他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)『知識・構造化ミッション』(日経BP)『反骨のコツ』(朝日新聞出版)『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)など。
☆何という多彩多才な人だろう。しかし、このプロフィールに描かれていない大事なことが2つある。1つは武蔵中高の出身者であるということ。もう1つは「東大式 絶対情報学」の著者であること。
☆この2つを、今回の論考に重ね合わせると、伊東氏の知性が、武蔵とは関係がないとは言えない、むしろきちんと武蔵の精神を受け継いでいるということが了解できる。
☆武蔵出身であるということから、もしかしたら「鵜呑みにしない精神」「自調自考の精神」があるのではないかと期待しつつ論考を読むと、その期待は裏切られないどころか、まぎれもなく武蔵の精神の塊なのだ。
☆そして、その論考がたんに論理的であるというより、方程式という測る化もされているし、トイレットペーパーが放射能排除機能の優れ物であることなど実用的でもあるのだ。
☆思考とは、論理的に自他のコンパッションを説得力ある実践的な行為に変換するコトである。たんに客観的な知識の活用では終わらないのである。客観的知識こそ鵜呑みにしてはいけないし、実践的で説得力あるものは、自分で調べ自分で考えてみる体験以外に納得できるものとはならないだろう。
☆「東大式 絶対情報学」とは、当時の総長小宮山氏の「知の構造化」「自律分散協調系」の東大の知のビジョンを具体化した書。21世紀の知の扉を拓く方法論の道しるべの1つ。その道しるべが音楽というアートの創造体験をする伊東氏が編んだということにちょっと感動していたのだけれど、今回の論考を読んで、そのときの感動がよみがえってきた。
☆氏自身はどのように思っているか知れないが、武蔵OBらしい知だと感じる。
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