公立高校の悩み①
☆株式会社ベネッセコーポレーションのシンクタンク「Benesse 教育研究開発センター」では、学校の取り組みや、教員の学習指導の実態および意識を把握するため、2010年8~9月に、全国の公立の高校の校長および教員を対象に「学習指導基本調査(高校版)」を実施。「学習指導基本調査」は小・中学校の教員を対象に1997年から実施しているが、高校の教員を対象とした学習指導基本調査は今回が初ということ。
☆この調査で取り上げられている教員の悩みは、今まで教育関係者の会話の中ですでに出ていたものだが、調査によってやはりそうであったかと確証された結果となったようだ。
☆特に、教員の約8割が、「生徒の学習意欲の低さ」と「義務教育での学習内容の未定着」に悩んでいるという結果は三重の意味で衝撃だ。
☆もしこれが実態と一致しているとすれば、未来の人材はどのように育っていくのか?本当は、高校卒業後、まだまだ人間は成長変貌するわけで、ただでさえ多様なチャンスがいっぱいあるグローバル社会にあって、恐れる必要はないのであるが、それでもこの数字は不安を抱かせるには十分すぎる。
☆やはり高校入試とは、思春期をうまく通過させない障壁になっていることを裏打ちする結果になっている。思春期をうまく通過するとは、自他の意志の葛藤を処理するコミュニケーション技術を身につける過程であり、それはまた外部刺激ではなく内なる欲求と理性のエネルギーを創設する過程でもある。それが意欲になるのだが、にんじんをぶらさげられないと動けない、いやにんじんも効果がなくなるというのは、内燃エネルギーが育っていないからだ。まさに動物化する人材が生まれてくるではないか。もっとも内燃エネルギーは、現状の高校の20世紀型の領域以外で、育っているのであって、それゆえ、生徒が何を考えているのかわからないと40%の教員が感じているのは、まさに内燃エネルギーが、他次元で育っていることを示している。
☆しかし、何より恐ろしいのは、いま、ここで、目の前で困っている生徒を見て、高校教師がサポートする技術がないということを吐露しているということだ。この意欲のない雰囲気は何だろう?まさか、教師の研修制度などで、自己責任を押し付ければそれでよいということにでもなるのだろうか?そうではないだろう。教師も諦念し、生徒も意欲がないという連鎖は、システム上の問題があると認識したほうが妥当だろう。市場ではシェアが40%でも独占への道が開かれ、危うい。それが80%となると、もはや個人の問題ではおさまりきれない大きな問題がおきていると判断するのが妥当ではないだろうか。
☆この「学習指導基本調査(高交版)」の恐ろしいところは、普通科の高校を成績レンジ別に分けてクロス統計を算出しているところである。公立高校とは、成績別に分類されるように、入学者の配分がなされているというのは、日本の高校教育では、通常の事であるが、それが自己否定感やネガティブな心性の呪縛を再生産しているのではないかと思えるほど、意欲という心性を代表する精神作用が成績格差による影響をいかに被っているか、改めて認識して、恐怖を感じないわけにはいかない。
☆もっとも、これこそが、日本社会の一億総思春期通過儀礼であると言われてしまえばそれまでである。思春期を阻む高校入試準備という障壁と成績によって進路先が配分されるという優勝劣敗意識の壁。それをどのように乗り越えるか?成績を乗り越えるだけではなく、植え付けられた優勝劣敗意識という我を捨てる境地にいかに行きつくか。たしかに十牛図的悟りへの道ではある。。。
☆ともあれ、以下のような結果になっている。
*普通科では、校長調査での「貴校に入学した平均的な生徒の中学校時代の成績(評定平均)」の回答を元に、Aグループ(評定平均4.5~5.0点)、B グループ(評定平均3.5~4.0 点)、Cグループ(評定平均3.0点)、Dグループ(評定平均1.0~2.5点)の4つグループに分けて集計している。
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