聖ドミニコ学園の対話 古くて新しい
☆聖ドミニコ学園の理事長にお会いした時、3・11のことについて話題になった。ドミニコの小学生がスクールバスの行きつく先のそれぞれの駅に着いて解散しようとしたちょうどその時に東日本大震災に見舞われた。中にはすでに電車に乗っていて、途中でおろされてしまった生徒もいた。
☆しかし、そこに偶然にも別の生徒の保護者がいて、いっしょに学園まで戻ってきてくれたり、中には心やさしい老夫婦が連れてきてくれ、全員がともかく無事だったという。生徒たちは、互いにお帰りと言いあい、次の日まで学校で待機。
☆そのときの光景を思い起こしつつ、理事長はこう語った。
児童・生徒がいのちや生き方について考える機会が多くありました。自分たちの恵まれた生活が当たり前でないことを自覚したことは、これからの彼ら、彼女たちの生き方に反映されるに違いありません。弱さの中に示された優しさ、協力、連帯は、人間が本来持つあり方を表してくれました。多くの実例から共に学びたいと思います。
☆聖ドミニコ学園は、幼稚園から高校まで一貫教育を実践している私立学校。小学校までは共学校だから、原則、中学から他の中学に進学した男子生徒の人数を中学から募集する。そのため、もちろん小学校から中学に進学しない女子生徒も多少いるから、20名から40名の間ぐらいの募集。
☆しかも、一学年の定員は80名だから、幼稚園、小学校の入試は大いに盛り上がるが、中学入試では目だたない。中学受験ではまさに秘密の花園。
☆しかも、ドミニコ会というヨーロッパのカトリックの中では、およそ800年も遡る老舗中の老舗的な存在で、欧米の思想や学問、文化の基礎を形成してきたコミュニティのため、ポストモダニズムの日本の情況に右顧左眄しない学校。それゆえ、流行などは眼中にない。
☆ひたすら真理という理念を絶やさぬように、対話し続けている学校である。この対話自体ドミニコ会の専売特許で、ヨーロッパで対話のシステムを積み上げてきた通奏低音の響きそのものである。
☆したがって、同学園の理事長や理事、校長と話をすると、その瞬間は永遠の今となり、そこに悠久の歴史と真理の豊かさの広がりを垣間見ることになる。
☆明治政府が天賦人権説を妄想と断じて切り捨てたときに、自然法論を有しているカトリックや自然法論を介さないとしても神法に依拠しているプロテスタントも同時に拒絶された。そこから富国強兵、殖産興業という優勝劣敗路線にまっしぐらなのであるが、それはGDP競争にあけくれる戦後近代日本も同構造である。
☆太平洋戦争で、その官僚近代日本社会が被曝という状況に至って、人間が持つ本来のあり方を考え、新憲法と戦後教育基本法が成立したが、まもなくなし崩し的にその高邁な精神を無化する動きが続き、戦後教育基本法はついこの間改正される事態となったが、3・11によって、再び人間の本来の存在に開かれたわけである。
☆ドミニコ会は、常にその開かれた野のスミレとして存在しているのであるが、今回もまたそうなのであろう。21世紀に入って、同学園は学園をあげて、建学の精神を問い返し、共有する対話を研修の中で繰り返してきた。
☆その共有したドミニコの精神を基準に、学園の自己評価にも取り組み、本来性からズレがちな今日の世の動きに押し流されないように強靭な共同体を維持してきた。混迷する今だからこそ、大切な教育環境である。
☆それでも世の中は、その重要性に気づくことなく、偏差値や大学進学実績にこだわる。ドミニコ学園はそのようなこだわりに左右されはしないが、生徒は将来理想郷で生きていくわけではないから、現実の中でサバイバルしていく技術も身につけなければならない。学園が大事にする対話は、その1つである。なんといっても価値観の違う相手と夜を徹して話し合い、改宗・改心させるロゴスを持っていた聖ドミニコの伝統を有しているのである。
☆見知らぬ未知の世界でコミュニケーションによってサバイバルする技術は筋金入りである。そして、自分のペルソナを社会に貢献するために大学に進学することが必要であれば、それを達成する技術も磨きあげられる。国公立、早慶上智・GMARCHの3年間の合格状況を表にしてみた。数字だけ見ていたのでは、卒業生が65人から80人(高校までに海外などに移住・転勤する家庭などがでてくるから)なので、そう多くはない。しかし、卒業生数に対する占有率を出してみると、表層的な受験勉強などせずに、本来性を見つめながらの学びで大健闘しているといえよう。
☆目に見えぬものを大切にする心根をお持ちの方、学園を訪ねてみてはいかがだろうか。
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