中央大学横浜山手中学 シンプルで深い学びの共同体
☆中央大学横浜山手中学校・高等学校の校長田中好一先生、教頭森英人先生、副学園長横田利久先生にお会した。
☆来春から男女共学になる話や2013年からセンター北にキャンパスが移転になり新校舎で学べるようになる話とそのマーケティング・戦略についてもお聞きした。
☆しかし、会った瞬間に、そのような戦略的な話は重要であるが、本当の教育と経営の両輪を回転させるには、教育の内容というエンジンが大切であるという思いが伝わってきた。
☆それにしても教育内容とは中央大学横浜山手では何を意味するのだろうか?実に興味深かったが、そこの話には直接触れずに対話をしなければ、真意がわからない。というのも特に校長と副学園長は中央大学の実学的経験主義的伝統を身体から放っていたからである。
☆もっといえば、コモンセンスである。それが同校の基準なのである。だからシンプルである。アメリカ的なプログラムのダイナミックさや派手さがない。どうもヨーロッパ大陸的哲学とも違うのである。
☆だから習熟度だとか特別クラスなどという発想は不要なのだなと了解した。経験とは、1人で体験することを言うのではない。体験して発見したことはシェアし、検証し合って初めてコモンセンスに包含される。
☆コモンセンスは、他者との協働によって、検証され妥当性と信頼性、正当性をともに作り上げていくことである。どんなにすばらしい発見もアイデアも観念的に論理的に考えるだけでは、独善的なのである。
☆こうした考え方は、イギリス民主主義の伝統である。彼らの語る表現の自由とは、自己主張というよりもディスカッションの自由の保障なのである。ここに「学びの共同体」の本質があるのだと感じた。
☆戦略としては中央大学の附属になった時点で、すべてが論理必然的にプランが立てられている。中央大学は、MARCHの大学の中でも学部は少ないし、偏っている。となれば、他の附属中学よりも、進路指導は鮮明に特色づけられる。60%は中央大学に進学枠があるが、40%は他大学という他の附属中学のようなビジョンにはならない。40%医師薬・看護・バイオ精神学など中央大学にはない学部に進学する色を濃くすることができる。
☆共学化によってこの附属以上の附属校の特色をより鮮明に打ち出していくということだが、なるほどそれゆえ聖光学院の伝説の数学教師森先生が教頭に就任されているのだ。森先生は、男子と女子の数学に対するものの見方や価値観が違うことを知って、来年から男子を迎える準備ができたと。もし初めから男女共学だったとしたら、その違いが明確に把握できなかったかもしれないからだろう。
☆そして、何よりセンター北という地政学的ポジションである。サレジオ学院と洗足学園との緊張が走るわけである。神奈川エリアと東京エリアの境界ゾーンで、私立中高一貫校の教育の質の競争が起こることは私学市場にとっても歓迎であるが、納得のいく教師の布陣が着々と進行中というわけだ。
☆話はあちこち飛びたいへんおもしろかったが、やはり結局はそういうことなのだ。教員の授業力をどのように向上させていくかそれがカギであるし、生徒が自ら読書し、レポートを書く環境をつくっていくかがカギなのである。
☆そのために、有為な教師陣と新規教員の採用は重要なのであるという話は興味深かった。これはどこの学校もかかえている問題であるが、新しい学校づくりが始まった今がチャンスであることは間違いない。もちろん、経営という点では、いくつも越えなければならない関門があるのもわかる。しかし、新しい学校づくりは、知の英雄の旅である。
☆それにしても、田中校長が英語の教師であることが、幸いしている。学びの共同体には、学びの倫理が重要である。田中校長は英語以外に中1の道徳も担当している。道徳とは学びの倫理であり、倫理は言葉である。言葉による思考である。
☆言語学的な観点からクリティカルシキングを道徳の授業で応用されている。その授業の内容は、まさにサンデル教授の白熱教室さながらである。ディスカッション、ディベート、問答の時間と言い換えてもよいだろう。
☆これらは学びの共同体の倫理であり、コモンセンスを形成するプロセスでもある。この経験の連続が、コミュニケーションによって、生徒1人ひとりの思考のプロセスとして内面に織り込まれていく。シンプルな学びの共同体が、内面に豊かで複雑な知のシステムをつくり、それを正しく使う倫理を浸透させるのである。そしてその複雑系がシンプルなコモンセンスという暗黙知になる。
☆中央大学高等学校で30年以上キャリアを積んできた田中校長、聖光学院で伝説をつくってきた森教頭、そしてなんといっても大学人として大活躍してきた横田副学園長。組織とは人が宝である。
| 固定リンク
「Good School」カテゴリの記事
- かえつ有明 日常の学園生活こそ教育の質(2012.10.01)
- 海城学園 どこへシフトするのか?(2012.09.27)
- かえつ有明 新しいノーブレス・オブリージュへ(2012.09.26)
- 土浦日本大学中等教育学校 世界に開かれた学校(2012.09.26)
- 八雲学園 さらなる挑戦(2012.09.25)
最近のコメント