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教育における質的リサーチアプローチ

☆前回、質的リサーチのアプローチを教育に取り入れていることの重要性について述べたが、もう少し補足しよう。

☆実は、私たちの生活それ自体、毎日質的リサーチを行うチャンスの中にいるのである。しかし、その質的なリサーチのチャンスを切り捨て、量的リサーチをベースに生活を支えているケースが多い。そのことに3・11以降の日本人や世界の人々は自覚し始めているという話が、メディアを通じて語られている。

☆見失っている大事なものを回復しようとしているという流れはわかるが、質的リサーチを生活や教育に取り入れることを示唆しているとは読めないのではないか?たしかに、そうである。そこに行きつくまでには、多少説明を挿入せねばならない。

☆生活の中で、私たちは「数字」をつかって、評価をしたり、ランキングをつくったりして、いろいろな評価をしているはずだ。家庭の収入と幸せ度は必ずしも相関しないとは思うが、やはり収入高は気になる。その度合いはかなり心を占めている場合が多いだろう。

☆偏差値や大学進学実績で学校を評価し、学校選択の尺度として活用してもいる。未来の生活を豊かにするために、そうしているのだとも考えるが、多くの場合、それは大手企業への就活が目的である。

☆大手企業の場合、GDPの牽引者でもあるから、そういう目標を大切にしている家庭においては、政治経済の話にもなるし、金融資産の話にもなる。そのときの尺度は結局のところGDPの成長神話である。

☆この成長神話と表裏一体をなしているのが、原発の安全神話である。経済の量的成功を支えるのは、「安心安全発想」「合理的思考」「予見可能性」などなどである。近代経済思想のセオリー通りではあるが・・・。

☆ここまで話してくると、3・11が回復の警鐘を鳴らしているのは、量的リサーチによる、選択判断に偏ってきたことが問題で、質的リサーチによる選択判断ができる見識を回復することが要請されているという話は了解できると思う。

☆さて、質的リサーチとは何かというと、先述したように、すでに私たちに生活の中の選択判断というチャンスにおいて、行えるのである。毎日のように、子どもから大人まで、他者の評価をしているはずだ。噂話や中傷、アイドルへの憧憬、友情の尊重、裏切り・・・。ほとんどが人間関係だろう。

☆あの人は優しい人だとか、冷たい人だとか、頭がいいとか、心遣いがあたたかいとか、わがままだとか、頼りになる人だとか・・・。

☆このときに質的リサーチによって判断しているのか量的リサーチによって判断しているのか?たいていの場合、ギブ・アンド・テイクという数量的メタファーで判断するだろうから、残念ながら質的リサーチのセンサーが作動していない。

☆しかし、このときに質的リサーチのセンサーも作動させると、目の前に違う次元の世界が広がるのを体験できるだろう。

☆質的リサーチとは、己を知り、他者との関係の改善点を見出すことであり、その知るという行為や見出すということは、知的活動であり、その知的活動は、言語と記号という抽象的シンボルの操作にほかならない。

☆言語と記号という抽象的シンボルの操作とは、コミュニケーション行為である。よって、質的リサーチとは、コミュニケーション行為の状態を知り、改善していくことなのである。日常の他人の噂話からはじまり、経済活動の人材採用や人事異動などは、すべてこのコミュニケーション行為のレベルを評価しているチャンスである。

☆そうすると、教育において質的リサーチを取り入れるとは、教師、生徒、保護者、支援企業、支援自治体や国などのコミュニケーション行為のレベルを知り、レベルが低ければ改善をしていくという研究なのである。レベルというからには、スコアがでてくる。しかし、このスコアは、それぞれの局面で行われているコミュニケーション行為の構造を組み立ててから、その構造が十分に機能しているかを参加者が互いに評価し合う過程を経てくる結果である。

☆量的リサーチのスコアは、この参加者による判断を極力排除する。客観的ではないからという理由である。しかし、絶対的に普遍的客観性などというものは、人間世界に存在するものではなく、常に確からしさの精度をあげていく努力の中でしか成立していない。

☆この確からしさの精度をあげるときに、生活者や市民の参加を無視してしまうものが客観性だとしたら、それは問題であるというのが、日々の原発事故を巡る攻防ニュースを通して、時代が語りかけているのである。

☆質的リサーチは、量的リサーチの客観性という概念そのものもチェックするのである。もちろん、その逆もある。かくして、両リサーチは、複眼的思考のベースであるが、今までは偏ってきたのであろう。

☆教育におきて質的リサーチを取り入れるとは、大事だ大事だと言われてきたコミュニケーションを問い返すことでもある。授業の中で、部活の中で、行事の中で、保護者会の中で、校舎建設の中で・・・、どのようなコミュニケーションが行われているのか?

☆なるほど、質的リサーチの手法に、会話分析、談話分析、物語構造分析、役割理論、現象学的社会学、エスノメソドロジー、ヘルメノイティークという意味での解釈学、意味論、語用論、文脈学習論などなどが活用されているのは、コミュニケーションのイノベーションという基本発想があるからだろう。

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