「2011東京都私立学校展」開催 例年とは違う雰囲気
☆8月20日(土)・21日(日)、東京国際フォーラムにおいて、「2011東京都私立学校展」が開催。東京の私立中学校・高等学校全校すべてが参加し、今年も多くの受験生とその保護者が足を運んでいる。
☆来場者も昨年以上の盛り上がりであるが、参加して説明に汗を流している先生方は、少し例年と違う雰囲気であった。
☆どの私立学校も、世の偏った学校選択指標である偏差値や大学進学実績と闘ってきた。その闘い方は、大きく2つの戦略に分けられる。あくまで教育の質にこだわりながらそのうえで大学進学実績をきちんとだしていこうという戦略をとっている「グッドスクール」と大学進学実績を出していることがおのずと教育の質を証明している、つまり進学実績と質は表裏一体という戦略をとっている「エリートスクール」の2つ。
☆それゆえ、私学内競争的共在という盛り上がりがあったのだ。
☆しかし、今年はどうも様子というか雰囲気が違っている。というのも、おそらく、偏差値に関係なく大学進学実績は大いに出る時代になってきているからである。それは、大学入試自体が、少子化やリーマンショック以降の経済低迷の影響や3・11の影響で、ローカル化しているために、生徒募集が思わしくないからである。
☆当然、東京などでは、私立学校に通っている生徒は多いわけであるから、実績は私立学校から出てくるのはある意味必然である。
☆そうするとグッドスクール構想であろうとエリートスクール構想であろうと、大衆化された中学受験市場からは、偏差値の違いしか見えなくなてしまう。
☆すると、この偏差値指標とは違う別指標を表現しようとしない限り、どうしようもない閉塞感が生まれてしまう。
☆この閉塞感は、塾側にも逆説的にマイナスの影響を与えてしまう。そもそも私立中学あっての受験塾だったのに、結果的に偏差値によって、大事な私学市場にマイナス影響を与えることになっているのだから、天に唾するようなものである。
☆私立中高一貫校の理念を共有して、私学市場を支えながら塾も受験生を応援していくのが正しき道だったはずであるが、NGOでもNPOでもないからだろうが、目先の利益で動いてしまった。
☆3・11以降、従来の学習観や教育観を変えねば、日本全体の生活が危うくなるというのは、だれでもいうことだが、そこに受験業界はなかなか飛べない。
☆しかし、今回の私学展の雰囲気は、そういう諦念を醸し出していたというのではない。むしろ、静かな情熱を先生方が秘めていたという雰囲気なのである。
☆グッドスクールであろうとエリートスクールであろうと、教育の質を練磨し大学進学実績を着々とだしているのだから、偏差値という指標に対する幻想を打ち砕けば、残るは教育の質の競争なのである。
☆偏差値や大学進学実績という量の競争から、質の競争(もともとそうであることに変わりはないが、外から見てということ)へ、突入するタイミングを一堂に会することによって互いにはかっているという雰囲気だったのだと思う。
☆さて、教育の質の競争を思い切って後押しするには、何がポイントか?それは私学の先生方も実は受験業界の見識者も(ひそかに)共通して思っていることは、世界で行われている(バカロレアとかSATとか)テスト理論を、中学受験でも広めることであると。
☆テスト理論とは、授業理論でもある。授業の中で展開される教師と生徒の知のプロセスをアセスメントによって向上させていくためのものである。プロセスが順調であれば、生徒の知の構造は豊かになり、激変する世界で役に立つ知恵を働かすことができるのである。
☆この授業と評価の質を入試問題で表現することによって、私立中高一貫校に入学する学びの準備と覚悟をしてきて欲しいというのがメッセージなのである。このメッセージを塾もテスト業界も汲み取り、受験市場のための授業やテストではなく、私学で将来学ぶための準備としての授業とテストを開発すべき時がきたのである。
☆これによって、受験市場も私学市場もシナジー効果を上げることができる。もちろん、この経済状況であるから、私立中高一貫校自体の市場は、海外にも拡大する準備も必要である。それは帰国生というステージから留学生というステージにシフトすることであるが、そのためにも世界標準のテストと授業の質が求められるだろう。
☆現状の中学受験市場が形成されるまでに30年かかった。そしてリーマンショック以降転換期であるサインが見え始め、来春それがはっきりするだろう。そのときに動けるように、準備しているというのが今回のイベントに広がっている雰囲気だった。そしてそれは、今後2040年ぐらいまでの私立中高一貫校の役割を再び見出す時代となるだろう。
☆授業の質は学校の質である。テストの質は学校の質である。そしてその質は世界標準である。ここまでくると、偏差値は世界で通じないし、日本の大学進学実績もまた、世界では通用しないということは明らかになるが、まだまだ中学受験は大衆化したままである。
☆しかし、知的大衆化であることに間違いはなく、この知を大衆の反逆などと批判するのではなく、むしろ大衆のままその知の質を世界標準にシフトする戦略をとったほうが、市場創出としては成功するだろう。
☆そのためには、コーチングやファシリテーションの両方を統合する教育の組織論がポイントである。それは、Situated Learning(SLearning)を支えるDeapprenticeshipである。89年のベルリンの壁崩壊以降、多くの学習理論が紹介されたが、この理論は一部の見識者や専門家の間でしか流布しなかった。
☆もちろん、チューター制度のような形で、すでに実践されているものもあるが、これはコーチングやファシリテーションの手法の中からでもうまれてくるものであるから、SLearningは目立たなかったのだろう。
☆やはりダビンチを想い起せば、このような総合的な知の人材の育成には、現代版に脱構築したDeapprenticeship(脱徒弟制度)の探求が欠かせないというのは、説得力があるような気がする。
☆新しいテスト理論(そもそもテスト理論のものが実用化されていなかった)と脱徒弟制度に支えられた授業と教育の質が求められる時代が来ている。
P.S.
SLearningは、ハーバーマスの語用論を中心に展開されているコミュニケーション行為論ともリンクすると思われる。知識を統語論的に接近するだけではなく、語用論的に接近することは、状況に埋め込まれた文脈を解き明かしていくSLearningに近い。ただし、ハーバーマスの理論は、理想的市民という枠組みがあるが、SLearningは、実存する生活人すべての人々に対する理論であると思われる。この発想を得たのは、聖学院(キリストの弟子派)の幾人かの先生方にインタビューしたり、授業を見学させていただいたときに学んだアイデアである。
また、新しいテスト理論のアイデアは、前鴎友学園女子校長の清水先生(現在は東京私学教育研究所所長)と聖学院の校務部長平方先生(東京私立中高協会の副会長)から学んだ。
偏差値、大学実績、教育の質のとらえ方によって、私学の歩む道に特徴がでることについては、東京女子学園理事長・校長實吉先生(東京私立中高協会副会長)に学んだ。
また、これらのアイデアについて、いくつかの受験産業や教育産業のメンバーとも、共有している。新しいテスト理論!授業の質の転換!質的リサーチへのシフト!というのが今後の私立中高一貫校を取り巻く状況であり、日本の教育の未来を拓く可能性であると。
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