土浦日大中等教育学校 高い授業の質
☆授業の質は学校の質である。高い授業の質は、生徒の知性、感性、倫理というトータルな人間力を養う。そして、教師自身も学びと見識をトレーニングしていく。教育とはたしかに教師力であるが、その力は生徒とともに成長できる授業の質の向上システムがあってこそなのである。
☆昨日27日(土)午前中、土浦日本大学中等教育学校で、オープンスクールが開催。14の講座が公開された。同校の授業の質の高さは、すでに説明会で明快であるが、直接授業に参加できるチャンスであるから、参加してみた。そして、改めてその高い質に感銘をうけた。
☆それにしてもまず驚いたのは、中川弘校長自らが授業を行っていたことだ。校長が毎年中1の道徳の授業を担当しているのは有名であるが、オープンスクールで自ら教鞭を(いやパワーポイントを駆使する)とるは。
☆しかし、これがグローバルな世界で活躍する学校のリーダーシップの特徴なのである。私の知っている米国西海岸のチャドウィックスクールやローリングヒルズハイスクールなどのハイクオリティのプレップスクールでは、校長自ら新しい学習理論に基づいた授業やドラマの授業を通して、「哲学」を生徒とともに学ぶのである。
☆中川校長の授業も、道徳を通して哲学的知性を生徒と共に学ぶ点では同じである。愛情の深さ、高い知性、豊かな感性の基礎を道徳の授業を通して学ぶ。
☆その学びの方法は、講話を行うという一方通行的なものではない。勉強量や学力の国際比較のデータを読み解いていったり、漢文や英語を読み解いていったりする。つまり、知性や感性を分析するアプローチの体験をしていくのである。
☆一方で、ジュール=ベルヌとハヤブサとをリンクさせ、世界を読み解くだけではなく、自ら世界を創るイマジネーションを身に着ける作業もする。状況に埋め込まれた文脈を探索する学習は、すでにそれだけでも先進的であるが、新しい状況を生み出し埋め込んでいく学びの理論は、チャレンジグである。日本の大学だけを目指していたら、この理屈はいらないのであるから。
☆この状況に埋め込まれた学習から状況を埋め込む学習へ6年間でシフトしていくのだろうが、それは中川校長の理念にすぎないのであろうか。当然そんなことはない。たとえば、「あっ!という間に、絵がうまくなる」というテーマの美術の授業。
☆二つの描き方の比較・対象という分析をしたうえで、新しく状況を描き出すことの有効性を絵を描く活動を通して実感していく授業である。理論と創造的作業によって、生徒はフロー状態(没入)になる。無心のモチベーションの姿は、この分析から創造への飛躍がもたらすものである。この飛躍が成長につながるが、それは「あっ!という間」のフロー態勢が肝である。
☆理論と活動の統合が、土浦日大中等教育学校の授業の特徴でもある。理論だけだと、教師の独りよがりの授業になるおそれがある。活動だけだと面白い授業で終わる可能性がある。両方の統合を創意工夫するからこそ、教師も生徒も成長するし、理論があるから、教師間で授業の質を共有できる。
☆このことにはっきり気づいたのは、英語の「アート トリック」という授業を見学した時である。身体の部分を表す英単語とフルーツや野菜の英単語を覚えるのに、ただ何度も唱えて覚えていくのではない。それそれの単語をとりまく状況や文脈を活用するだけではなく、状況を作り出すことによって、覚えていく。活用するときは、分析。作り出すときはアート。分析からイマジネーションへの飛躍。この分析とアートの飛躍のプロセスが理論と活動の統合。
☆たとえば、最初は、ベジタブルやフルーツの単語をみんなで発音してみる。
☆ところが、ある時点で、画面がシフトする。先ほどみていたフルーツやベジタブルが、人の顔の一部に変身するのだ。これがアート・トリックの仕掛け。
☆今度は、顔の部分の名前とそれがどのフルーツによって表現されているのか、両方を発音していく。状況分析から状況生成へ。道徳の授業も、美術の授業も、英語の授業もみなこの流れになっている。
☆さて、このアート・トリックは、このような理論だけではなく、最終的に生徒たちが在校生のチューターのサポートによって、表情を制作するのである。
☆モデルの提示から制作活動へとシフトする授業は、よくわかるし楽しい。そしてモデルという理論があるから、複数の教師と授業を展開できる。もちろん、エンターティナーの個性はそれぞれの教師のものである。
☆理論と活動とその統合。モデルと個性とその統合。やはり、土浦日大中等教育学校の授業には3のリズムが響いていた。
☆これは、たとえば、麗澤や茗溪のリズムとは違う。両校は2のリズムである。麗澤のコミュニケーションや道徳の基礎であるコールバークの道徳の発達理論では、前慣習段階から慣習段階へ成長することが目標になっており、たいへんわかりやすい理論的根拠である。(コールバークは脱慣習段階も想定しているが、これは現実的ではないとされている。脱慣習的段階へシフトするには、語用論や状況に埋め込まれた学習の理論が必要になる。ハーバーマスやヴィゴツキーの考え方が参考になる)
☆茗溪の論文編集の活動も有名であるが、これは強い論理力と表現力を養うものであり、そのあとに創造力の育成の段取りになる。これはこれで堅実な方法論である。
☆それぞれの学校によって方法論は異なる。どの方法論がよいかわるいかはわからない。そこの価値観は神々の闘いと言われている。
☆ただし、欧米のリベラルアーツは、3のリズムなのである。日本の未来は2のリズムと3のリズムの相克である。どちらを選ぶか。そのものさしは偏差値でないことだけは確かである。
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