八雲学園の表現
☆毎年9月以降の八雲学園の第一回学校説明会は、今年もそうであったが、体育館で行われ、参加する受験生と保護者でいっぱいになる。600人くらいは収容できるのではないか。
☆その説明会の人気の理由は、ホスピタリティ、ケア、気配り、おもてなしの心で満ちているということで評判になったというのが定説である。これについては私も同意するが、実はそれ以外にもう一つ重要なポイントがある。それは説明会の表現力の豊かさである。
☆八雲学園の説明会のプログラムは、いつもだいたい次のような感じである。
1)学園生活についてのビデオ
2)八雲学園オール在校生によるイングリッシュ・パフォーマンス
3)学校長近藤先生の教育ビジョン講話
4)進路指導について
5)教科の特徴について
6)募集要項
7)学校見学
☆流れだけ見ると、ほかの学校と変わりがないが、一つひとつの中身の質が違う。学園生活のビデオも、手作りで、学校の特徴を表現したいところを中心に編集している。外注の場合だとナレーションとかがどこの学校でも共通の一般的な声質でよそよそしいが、八雲学園は、ナレーションを司会の先生がマイクで語る。したがって、そのときは動画ではなく、スライドになる。PPTと動画のコンビネーションが巧みに編集されている。ここでポイントは「編集力」である。
☆だから早めにきた保護者のために流しておくというものではないのである。きちんと10:30開始時からプレゼンが始まるのである。
☆イングリッシュパフォーマンスは、八雲の英語教育を、オーディションで選ばれた中1から中3の生徒20人くらいで行われる。オーディションということは、自分の意志で応募する生徒が多いからであろう。英語で八雲学園の英語教育を紹介するのだが、姉妹校であるケイトスクールとの交流について、アメリカからのビデオレターも挿入しながらプレゼンする。
☆ここでポイントなのは、たんなる英語力の披露なのではない、研修や交流という体験によってつながった絆やその絆が生み出される「いま・ここで」しかわからない状況を表現するところが重要なのである。
☆ケイトスクールとの交流のガイドラインは、毎年同じだ。だからこのガイドラインに沿って話すのなら、すでにルーチン化しているからパフォーマンスなどやる必要はない。しかし、実際の交流のプロセスには毎年そのつど違うエピーソードが満載であり、その体験を編集してプレゼンすることがかけがえのない一回性のパフォーマンスになる。だから、毎年聞いていても興味は尽きないのである。
☆パフォーマンスの後は、生徒たちは、英語の体験授業の教室に移動する。ここのポイントは、こんなに多くの生徒が受講できる準備はいかにして行われるのだろうかという驚愕を説明会場に瞬間的に広める効果だ。うちの子もぜひ参加させねばという思いが、この学校に入れなくてはとシフトする瞬間なのだ。
☆そして、近藤校長の講話。プログラム上は、挨拶ということになっているけれど、私学をとりまく時代状況と時代が求めている教育という広い視野を語り、それを私学がどのようにとりまとめて21世紀型教育を展開していくかというビジョンをぶち上げるのだから、実質これは講話である。そしてその大きなビジョンを大前提に八雲学園の教育は重要なポジショニングを占めているという八雲学園の見識と実践を述べる。目の前の「いま・ここで」の生徒の育成が、しかし、将来世界の舞台でどのように重要になるか、ミクロとマクロの教育を結びつける話は、保護者にとって魅力的である。
☆たいていは、自分の学校の理念だけ話をして、それが世界にそのようにコミットメントするのかわからない挨拶が多い。もっと残念なのはその理念が教育実践のどこで結びつくのか不明な話も多い。
☆そして若き先生方が、もっと具体的な教育活動の話をする。進路指導への自信と各教科の授業の信頼性について。つまり結果と質の連関について話をするのである。
☆さらに、入試要項についてであるが、限りなく可能性にチャレンジしてもらいたいという気持ちが伝わる入試システムの話は、オープンマインドでさわやかな好印象を与える。
☆最後にもう一つすばらしいのが、学校見学だ。3・11前に耐震構造の工事が終わり、校舎全面リニューアル、図書館の新設という空間を歩くのは、言うまでもなく最高な気分なのだが、なんといってもキャンパスツアーの先生方のトークがすてきである。一つひとつの教育空間の意味づけをするトークは、見学する側に気づきを起こさせる。
☆説明会というと、理解をして帰ることだと保護者は思っている。メディアも説明会の内容という情報の確認で終わるのがほとんどだ。しかし、今自分たちが置かれている時代環境、中高生が日々どうのような状況に埋め込まれているのか、そのドラマに感動し、学び舎の創意工夫に気づきを得て感銘するという参加者の脳内を活性化する説明会になっている。それが八雲学園の知性と感性。
☆これは授業に置き換えたらどうだろうか?知識をただ受け身になって聞いてノートに写して覚えるだけの従来型の授業ではなく、自ら考えたり、感じたり、気づいたりというダイナミックな活動が脳内で起こっている授業である。そのような授業に参加しているときの様子はどうなっているか想像できるだろうか。そう没入というフロー状態になっているのである。
☆このフロー状態のとき、人間はもっともプレイフルな幸せを感じるのである。学びが遊びと同質の構造になる瞬間である。これが八雲学園の説明会の表現であり、それは日々の教育活動や授業で行われていなければ、とてもできない演出なのである。
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