教育関連市場の方向性
☆18日、神奈川県の私立小学校の受験が始まった。大学のAO入試などはすでに始まっているから、日本列島の受験シーズンはすでに始まっているのであるが、やはり両親も子どもも正装して、手をつないでいる姿に電車で出会い、校門にはいっていく姿を見ると、受験シーズンのリアリティは増す。
☆土日は、親子連れの集団が私立中高一貫校の学校説明会に訪れる姿を見ることも多いのもこの時期である。そして同時に教育業界は、一斉に来年の戦略を立て、アクションを起こす時期でもある。
☆株式会社矢野経済研究所は、今月7日「教育産業市場に関する調査結果2011」を発表し、それを受けて新聞各紙で教育関連市場の動性・動向を記事にし始めている。
☆また、私立学校の学校説明会の参加者数や各模擬試験の志望者数の状況も公開される時期である。
☆そのような情報を受験生の保護者はどのように読んだらよいのだろうか?鋭い直観と感覚で匂いを嗅ぎ分けるというのでもちろんよいが、教育におけるグローバリゼーションの動向の情報が圧倒的に少ない教育・塾ジャーナリズムの世界の特徴がゆえに、学校選択のミスマッチも多発している。
☆教育におけるグローバリゼーション(大学は世界ランキングなどがあり、まだマシであるが)については、初等中等教育段階では、おそらくグローバル企業で働いている父親や帰国生を本格的に受け入れている私立学校以上に、グローバル教育情報を持っているシンクタンクは皆無だろう。
☆したがって、グローバル教育情報をプラスしたうえで、学校選択を考えるには、次の学校説明会に行っておく必要がある。特に4,5年生の子どもがいる家庭では、男子校、女子校、共学校に関係なく、グローバルな教育環境の情報や何より大事なグローバルな感覚を体得しにいくのが重要である。
聖学院、広尾学園、かえつ有明、土浦日本大学中等教育学校、富士見丘(笹塚)、洗足学園、八雲学園、海城学園、共立女子、茗溪、佼成学園女子、東京女子学園、順天
☆さて、教育関連市場全体を考えてみよう。矢野経済研究所のサマリーによると、
①2010 年度教育産業全体市場(主要12 分野計)は前年度比0.9%減の2 兆4,395 億円に
②2010 年度学習塾・予備校市場は前年度比1.7%増の9,150 億円と8 年振りに拡大、「子ども手当」「学習指導要領改訂による授業の難化」が、特に小学校低学年層の補習ニーズを高めた
③2010 年度資格取得学校市場は前年度比5.1%減の2,250 億円と7 年連続の縮小
④2010 年度資格検定試験市場は前年度比2.0%増の401 億円、英語関連の試験需要拡大
⑤2010 年度英会話・語学学校市場は前年度比0.1%増の2,781 億円、後半からビジネス英語ニーズが大幅に拡大、震災の影響があっても尚、堅調であった。
⑥2010 年度通信教育市場(幼児・学生・社会人向け全体)は前年度比2.8%減の2,825 億円、小学生向けの通信教育が堅調も、社会人向けが不調
⑦2010 年度企業向け研修サービス市場は前年度比1.7%減の4,630 億円、不況の影響が続く
⑧2010 年度e ラーニング市場は前年度比4.5%減の1,095 億円に、学習ゲームソフトのニーズ減る
☆①、②からは、教育産業全体の市場は伸び悩んでいるが、塾・予備校の一部は伸びたということのようだと読み取れる。日経などによると、実験教室や体験教室、習い事の領域に、塾・予備校は力を入れているようだ。この業界の市場全体の低迷から「いまここで」脱皮するには、こういう新規=新奇なことをやらざるを得ないということだろう。
☆③、④、⑤からは、資格取得学校は時間も金もコストがかかるが、資格検定試験、特に英語のいろいろな検定試験にはチャレンジしておこうという消費者のニーズがあるということか。
☆⑤・⑧は、「やはりリアルな学びの場には勝てないし、そもそもいくらでもWebの中には、お金を払わずに学べるサイトが山ほどある。スマホの活用次第で、この領域は省エネで対応できる。」ということを示唆している。
☆⑦が示していることは、「研修の時間を別にとることは難しい。一石多鳥で、効力感のあるものでなければならない。しかも、無限の知的欲求が生まれる21世紀型の研修でなければ、これもWeb上の情報で、自前で研修できてしまうのである。いつまでも量的なリサーチに頼る研修ではなく、質的リサーチを測る化・見える化できる見識とスキルをベースにした研修が求められている。」とおいうことか。
☆21世紀型教育が徐々に必要とされているが、21世紀型研修の必要性の方のスピードは今後ますます激しくなるだろう。
☆このような全体的な動性・動向をうけて、私立中高一貫校はどうであるか。大学進学実績のない学校がそこに集中した場合、一時的に人気はでても、6か年の授業や教育活動と子どものクオリティやアイデンティティとが不適合を起こすことがあるという実態が少しずつ分かってきた。だから、そのような私立中高一貫校の学校説明会の参加者数は減っている。
☆20世紀型教育の私立中高一貫でも、すでに盤石の実績を出している学校は、それなりに集まっているが、それが選択モノサシの場合、公立中高一貫校に流れる傾向が顕著にでてきている。塾の中にも公立中高一貫校シフトしているところも多くなっている。ただし、このような流れに乗る消費者は、まったく中高一貫校の成長の教育の質のことを知らない場合が多い。
☆高校受験が、子供の人間的成長をいかに阻害してきたか、その見識がないのである。もちろんこれは、90%が高校進学配分入試制度に影響を受けていて、クリティカルシンキングができない「ゆでがえる」状態に強いられてきたわけであり、文科省と教育委員会の無意識共謀であることによるのだが。
☆趣味としての絵画教室や音楽教室、スポーツ教室はおそらく増えていないだろうが、公立学校では支えてもらえない、教養がグローバルな世界で必要であると感じている教室経営者のところには、共感する保護者が子どもを通わせる傾向にある。
☆ここは、プロの道に進む子供やグッドスクールとしての私立中高一貫校に進む子供(コストの関係でやむなく公立中高一貫校というのは大いにある)が集結している。インターナショナルスクールの生徒や私立小学校の生徒が通っている絵画教室やピアノ教室は、その可能性が大である。しかし、メディアはまだ、掘り起こしてはいない。アンテナが低いというより、グローバル教育の情報収集に投資ができない状態なのだろう。
☆グッドスクールは、21会に見られるような動きを始めていて、ダイナミックに動いているから、共感者を徐々に得ている。
☆首都圏模試の結果によると、早慶MARCHクラスの大学付属校が減っているが、これらの学校は世界ランキングが300位以下の大学に行くことが今から決まってしまう。もはやその価値固定は、安心安全でないというのは、世界同時不況の動性でピンときている保護者がいるということの証だ。
☆また、それ以外の大学付属で、いかに就活力がある大学の付属校でも、グローバルな企業への就活や起業家養成プログラムのない大学の付属校で、大学にぶらっさがって独自の動きをしていない私立中高一貫校、あるいは独自路線を大学経営陣の圧力によって頓挫してしまった(させられた)学校は、生徒が集まらない。
☆グッドスクールとは何か?しばらくそこはしっかり調べなければならない。新規でアイデアはよいけれど、継続性がないということがあるからである。
☆グッドスクールとしての信頼性の条件は、
①21世紀型教育を標榜するだけではなく、実践している。
②帰国生を本格的に受け入れている。
③IBの情報を研究している。
④学際的な教育を実践している。
⑤国内の大学に向けて進路指導もしっかりしていて、海外大学も射程に入れているところ。
⑥Art&Science教育=Matheticsを大切にしているところ。(Matheticsについて見識のあるジャーナリズムが求められている!)
⑦文章編集能力を高めているところ。
⑧ICT教育ではなく、ICT学内環境を大切にしているところ。
⑨校舎建築の設計者と教員が、ヴォーリズ、フランク・ロイト・ライト、イサム・ノグチなどの流れに共感しつつ協働できている学校。
⑩広報戦略が対症療法ではなく、教育理念と教育の質をサポートする動きになっていること。つまり多くの教員のアイデアを巻き込む生徒獲得戦略ができているところ。
☆こうした条件をそろえる流れは、塾や予備校やおけいこ教室を変容させるだろう。それを「新しい学び場」と呼ぼう。もしかしたら、本ブログで紹介した「学習塾ロジム」はその流れかもしれない。「Future Skills Project」の動きもそうかもしれない。
☆そして、この「新しい学び場」からは、グッドスクールを選択する受験生や保護者が多くなるかもしれない。
☆東大が入学試験の第三の道を模索しはじめたのは、このような学校から学生を獲得したいからである。今から準備をしないと、グッドスクールは世界ランキング100位以内の海外大学に進路を切り替えるからである。もはや東大ではないというわけである。
☆産業の空洞化だけではなく、人材の空洞化のロードマップができているということでもあるからだ。それゆえ、政府はグローバル人材を育成する事業に乗り出したのだろうが、次のEduChartでいうと、政府のグローバル人材の育成の発想は、第Ⅲ象限から第Ⅱ象限へのシフトを目指しているに過ぎない。
EduChart→「111020educhart.pdf」をダウンロード
☆グッドスクールは、第Ⅱ・Ⅲ象限から第Ⅰ・Ⅳ象限へのシフトなのである。このような差異を認識しなければならない。第Ⅲ象限から第Ⅱ象限へのシフトの発想は「青年即お金」であり、第Ⅱ・Ⅲ象限から第Ⅰ・Ⅳ象限へのシフトは「青年即未来」なのである。「青年即お金」の発想からすれば、産業や人材の空洞化はたいへんダー!ということになる。「青年即未来」の発想は、世界市民的見地に立っているから、これでよいのだということになる。
☆自分の子どもの将来をどちらのベクトルに託すか?受験列島日本に突入した秋、じっくり考えてみようではないか。迷ったら、21会のメンバー校の先生に尋ねてみると、目からウロコということになるだろう。
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