中学入試 併願作戦を考える時期(2)
☆さて、首都圏模試センターによると、受験市場としての「併願作戦」のポイントは次の3つ。
A 「なるべく数多く受ける」こと
B 「上下の幅をもって受ける」こと
C 「(受けられる限り)最後まで明るく受け続ける」ことである。
☆AとCのポイントは、私学市場と一致するポイントである。多くの私学を受験してもらうことが望ましいのは、受験市場にとっても私学市場にとっても、市場の基本原理である。
☆また、Cも同様に大事である。明るく受け続けるとは、受験市場としては顧客満足度の問題であり、私学市場としては、自己否定感を持ってほしくないという気遣いの問題という違いはあるが、そのために、複数入試を活用したり、後半になればなるほどケアする私学や塾の心遣いが、多くの受験生、保護者に感動を呼び覚ますのも確かである。そして、それが毎年中学入試のドラマとなる。
☆相対化しなくてはならないのは、Bの上下の幅を持って受けることという切り口である。これについては首都圏模試センターによると、
①チャレンジ校(第1志望校)、②実力相応校、③押さえ校(滑り止め校)、の3つを、わが子の併願校のなかに最低各1校は組み込んでおくということである。
☆ということである。実力相応校というのは生徒の偏差値相応校であるということだ。押さえ校というのも、偏差値によって選びなさいということ。しかし、私学市場からは、生徒のクオリティやアイデンティティに合った学校を探して欲しいということになる。損得勘定や功利主義的な価値観を持っている生徒であれば、偏差値で選ぶことはむしろあるべき姿である。
☆しかし、他者を思い共に道を切り開いていこうとするクオリティを持っている生徒の場合、個人尊重の自由というクオリティやアイデンティティを持っている生徒の場合、富裕層の家庭に属し、家庭の意志を尊重しようという質感をもった生徒の場合、偏差値で選ぶのは危険である。その場合は、その生徒にあったグッドスクールを探すことである。そのうえで、入れるかどうかという現実問題では、偏差値を参照すればよいのである。
☆小学校6年生の段階で、生徒の価値観やクオリティ、アイデンティティがわかるだろうか?そんな問いかけをするような塾や学校はまず選ばない方がよい。科学的に説明できないが、というよりもそこを科学で解明しようというテーマがないだけだと思うが、子どもはすでにクオリティやアイデンティティの芽をもっているものだが、最適化された成長の仕方を阻止されてしまう場合が多いというのが現状である。
☆それに、多くの保護者は、子どもの種や芽を見極めようとしている。最終的には意外と偏差値で選んでいないのも現状である。学校選択のミスマッチは、学校の質感と子どもの質感があまりにギャップがありすぎるときに起こる。私立学校で退学率が多いのも、経済上の問題も大きいが、この点なのである。
☆だから、私立学校は多様でなければならない。逆に言えば、多用であるのは、子どものすでにもっているそれぞれの質感を認めているから多様なのである。だから、偏差値という画一的な尺度だけで併願作戦を組むことは、実はどこかおかしいのである。
☆偏差値で選択できるのは、むしろ公立である。あらゆる教育内容の条件は同じであるというのが教育制度上の原則である。違うのは伝統と集まる生徒の学力レベルだけである。この制度批判をこそメディアはしなければ、ジャーナリズムとはいえないと思うが、ともすれば富裕層批判になるのがジャーナリズムである。
☆制度批判ではなく、富の批判というわけである。鈴木寛氏は、近代合理人(利己)の教育からの卒業=卒近代無常人(愛他)教育という、官僚近代と対峙してきた私学人的養成を公立に導入しようとしているが、利己というリバタリアニズムやリベラリズム、コンサバ主義を否定して、コミュニタリアニズムという価値観に限定することの是非はそれこそ熟議しなければならないし、価値選択の自由を喪失することになりかねないから、なかなかそうはいかないだろう。
☆これらすべての価値選択の自由を保障する政策や制度設計をすることが重要である。しかし、それが教育において可能なのは、今のところそして当面、私立中高一貫校の領域だけである。
☆受験市場は、偏差値による功利主義市場であるが、私学市場はそれも含めて価値選択という質の競争的共在市場である。
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