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慶応文学部と田園調布雙葉と聖学院とニーチェと

☆慶応大学文学部の自主推薦入試で、ニーチェの「道徳の系譜」を読んで、小論文を編集する問題が出題されたようだ。

☆慶応大学というとまず田園調布雙葉を想起してしまう。100名ちょっとの卒業生なのに慶応大学に進学する生徒は10名以上。AO入試で合格したOGの評判が、慶応大学当局内でなかなかよいとも聞き及ぶ。

☆そして、「ニーチェの言葉」を素材にした授業があるのも有名である。だから慶応大学にたくさん合格するということを言いたいのではもちろんない。

☆ニーチェというアンビバレンツな思想家を題材に選ぶのは、むしろ文学部であれば当然なのであるが、大学入試の勉強でニーチェを授業で読もうというのはなかなかない。個人的に生徒が読むということはあるだろうが。

☆昨年「ニーチェの言葉」という書籍がベストセラーだったということもあるから、出題されたのであろうが、現代文や世界史、そして物理のテーマである近代社会の矛盾やポストモダニズムのスーパー個人化(これらは文科省検定教科書でも扱われてはいるのだ。丸山真男は福沢諭吉大好きだし)を読み解くにはニーチェの思想は欠かせない補助線である。

☆ニーチェといえば、キリストは死んだで有名だから、田園調布雙葉で取り上げられるというのは、実に自由な校風があることを物語っている。ニーチェはヤヌスであるから、ヒットラーの愛読書でもあったし、ムッソリーニ撃退のゲリラ部隊のバイブルでもあったという話だ。

☆世が世なら禁書ということだろう。にもかかわらず、カトリックの学校の授業で素材にするというのが興味深い。

☆先月早くも聖学院でも慶応大学の文学部の自主推薦に合格した生徒が出たけれど、この学校もキリスト教学校である。

☆もっとも、アンチ・アンチクリストというクリティカルシンキングというか弁証法的発想は、英語の教師も、国語の教師も、社会の教師も持っているから、学校文化が慶応大学のニーズに応えられるのである。そもそも数学の教師が、数学は哲学への道なのだと公言するところが素敵だ。

☆特に今年の高3担当の英語の先生は、ニーチェどころか東浩紀(東浩紀の本は英訳もされている)や社会学者などの文章を生徒と共に読み、要約や自分の考えを英文で書かせたりしている。

☆大学入試問題は、教養よりもテクニックや知識だといわれている。たしかに論理的思考力があれば、小論文は解けるだろうから、教養不要論は合格すればそれ以上でも以下でもないという功利主義的なあるいは実証主義的な考えにはピッタリだろう。

☆しかし、ここでちょっと考えてみれば、大学入試の勉強には、表面的テクニック論か本質的教養論かではないことがわかる。

☆表面的テクニックの背景には損得勘定優先の功利主義という思想や個人主義的な保守主義の思想が横たわっている。教養の背景には、リベラリズムやコミュタリアニズムが横たわっている。

☆よって、価値観やものの見方の違いであるのだ。田園調布雙葉や聖学院のようなリベラリズムやコミュタリアニズムの文化を有している学校を選ぶか、公立中高一貫校やサレジオ学院のような保守主義あるいは功利主義の学校を選ぶかは、神々の闘いで、選択の自由の問題に過ぎないのかもしれない。

☆逆に言えば、大学入試なんてテクニックだよと推奨する人は、功利主義的あるいは保守主義的価値観を強要しているということであり、ファシズム的匂いがするのである・・・?もしそうだとすると、パワハラ問題やそれに少なからず関係する権力者や権威者の失言問題は、そこに由来するのかもしれない。偏差値主義的受験勉強は、その温床であるということか・・・?それゆえ、アイヒマンはすぐに生まれる。ハシズムもそう。市の職員は、市長がだれであれ、命令に従うのが役人ですと言うのではないだろうか。公僕の弱みであり、民主主義の不確定性原理である。

☆それはともかく、カトリックだからプロテスタントだから教養主義であるとは限らない。なぜか?それは教育制度の問題なのである。私立学校も学校法人であるしかないという問題なのである。学校法人を認可するのは、バチカンでも教会でも牧師でもない。私立学校といえども、認可は日本の法律に従うのである。

☆建学の精神を捨てても、日本の教育制度と学習指導要領を遵守していれば私立学校として成立するのである。そこが修道会や教会の経営陣のもどかしいところでもあるのだろう。

☆いずれにしても、大学入試でニーチェのルサンチマンを読み解き、現代社会に斬りこむには、ジレンマ、アンビバレンツ、ダブルバインド、防衛機制、転移などについて学際的に横断的に考えるという教養があるにこしたことはない。

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