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首都圏中学入試2012[04]

☆「首都圏中学入試2012[01]」で、2012年中学入試における学校選択動向を探っていくポイントとして、

③知識基盤社会にシフトしている21世紀型社会における知識概念に対する教育の見識(つまり21世紀型教育か20世紀型教育か)

☆を挙げた。①と②については、前回までに触れたので、今回はこのポイントについて考えてみよう。

☆Knowledge based societyとは、グローバリゼーションの進化と共に生まれてきた概念。したがって、智識基盤社会とは多少違う。

大競争時代

イノベーション

Web

専門性

チームワーク

プレゼンテーション

ポジティブ

クリティカルシンキング

☆などなどのキーワードと密接に関連する概念でもある。

☆中教審や文科省でも、OECD/PISAの流れを受けて、7年以上前から使っている概念である。しかし、これがなかなかうまくいかないのが日本の教育現場。なぜだろう。それは知識基盤社会という概念が、現場ではあてはまらないからである。

☆まずは文科省のビジョンを箇条書きにしてみよう。

①GDP成長戦略の一環としてイノベーションを絶え間なく創造できる人材の育成が必須。

② 産業構造も大いに変化し、そのスピードも急速。これからは多種多様な個々人が力を最大限発揮でき、それらが結集されるチーム力が必要なのである。

③強いチームは、性別や国籍にかかわらず多様な人材により構成されるものであり、女性や外国人が活躍しやすい組織でもある。

④チームの目標達成を導くリーダーの存在が不可欠であり、高度な専門的能力かつ広範な知識を持つ博士号取得者に特にその役割期待がかかる。

⑤イノベーションの創造にはチームとしての取組が欠かせない。

⑥チームで力を発揮し先導的な役割を果たす人材の育成を図るには、大学(特に大学院)が知識基盤社会において担うべき人材の育成を充実させていくことが不可欠

⑦チームの強化は、人材の多様性を確保する観点のみならず、男女共同参画や国際交流の推進の観点からも重要である。 また、日本人が海外経験を積むことも、多様な人材を育成する上で欠かせない。チームに大きく貢献できる優れた人材となるためには、異文化、異分野の人々との交流を通じて広い視野を育み、素養・能力を向上させることが重要である。

⑧ チームの中で力を発揮できる優れた人材となるためには、若い頃から異なる組織や文化を経験し、多様な視点や発想を柔軟に取り入れられる素養・能力を身に付けることが必要である。

⑨我が国が世界をリードし続ける国であるためには、我が国を牽引し、国際的なリーダーシップを発揮できる高度な科学技術関係人材を育成することが重要である。このような人材は、産業界ではイノベーション創出の中核を担い、アカデミアでは知的価値、社会的価値や経済的価値の基礎となる研究成果を生み出し、あるいは産業界とアカデミアの協働の場で産学にまたがる知識の全体を俯瞰し異分野を融合するリーダーとなる者である。

☆かくして、知識基盤社会担い手を育成する教育は、高等教育つまり大学・大学院機関でということである。

☆多様な人材との異価値間・異文化間の交流が大切であると言いながら、その交流の範囲を限定している。本来は中等教育レベルから育成を始めていないとできないし、リンクスがあるはずなのに、それを全面的には思考しない要素還元主義=分断主義=細分化主義(⇔関係総体主義・リンクス主義)なのである。これでは、知識基盤社会などではないので、すでにビジョンが矛盾に満ちていて案の定絵に描いた餅である。

☆さらに、産業界と専門性アカデミアの話であるから、官尊民卑も否めない。これでは、教育という領域からは何も生まれない。だいたい、高校卒業生の50%は高等教育に進まない。就職するのであるから、これだけの有為な人材を育てるつもりがないのは、どういうことだろう?

☆そんなわけで、初等中等教育では、知識基盤社会は関係ないというのが、日本の教育行政である。ところが教育基本法や学校教育法では、少なくとも高校からは創造性をつまりイノベーティブな才能の開発を義務付けている。

☆創造的な才能を法律で規定するというのも、そもそもおかしなはなしのように思えるが、おかしくないのである。というのも、日本の法律は法実証主義であるから、創造を生み出す泉である自然法や一般意志の領域はないものだと考えているから、創造性といっても、精神的な話ではなくスキルや技術の話なのである。

☆公立学校の教育で、法律が規定していないものはやれないのである。規定していない領域は自由なはずだが、なぜかタブーになるというのが法治国家である。法の支配ではそこは自由に議論すべき領域である。

☆だから、教職課程や教員資格試験のテキストや問題をみればわかるように、そこには1989年のベルリンの壁が崩壊してから世界に広まった学習理論はほとんど紹介されていない。

☆89年以前の社会を支える知識を学ぶ仕掛けになっている。これは知識基盤社会の大競争時代を生き抜こうとしている産業界やアカデミアの動きとはギャップがありすぎる。このギャップが、高校卒業の時に自己責任のもとに振り分けられる。

☆だから、中学受験生や高校受験生で、将来その格差の中でサバイブしていくには、進学実績のよいアドバンテージの高い学校に進学しようというのは当然である。

☆大競争時代、つまり視聴率主義、選挙率主義、GDP成長主義、偏差値主義をもっと浸透させるのが、官僚的な知識基盤社会なのである。

☆ところが、智識基盤社会という価値観もある。すべての人間がアートの領域を含めた創造性を身に着ける教育環境を浸透させる社会である。すべての人間であるから、年齢差も性差も身分や地位の差もない。大競争時代ではなく、大共創時代を拓こうという社会である。

☆おそらくBRICsと日本は、大競争時代>大共創時代をビジョンとし、OECDや米国は大競争時代<大共創時代をビジョンとしているだろう。

☆グローバリゼーションは、その相克である。目の前に限れば、2012年は、EUの混迷と米国の選挙による進化延期により、大競争時代>大共創時代となるのだろう。しかし、そんなときに、日本は3・11を経験しているから、日本でも、大競争時代と大共創時代の両極を振り子は大きく揺れるだろう。

☆さて、そんな流れの中で、大共創時代のビジョンで、21世紀型教育を実行し智識基盤社会を推進できる人材育成が可能なのが私立中高一貫校である。公立中高一貫校は、基本官学なのだから、知識基盤社会や大競争時代社会でのリーダーを育成することしかできない。

☆そして、私立中高一貫校でも、公立中高一貫校と同じ土俵で教育をしているところもある。それをエリートスクールやトラディショナルスクールとした。戦略的スクールとグッドスクールは大共創時代社会を迎える準備をしている。

☆公立中高一貫校は、大共創時代社会の準備をすることはできないが、私立中高一貫校は大競争時代社会と大共創時代社会のどちらの準備をするかは選択できる。

☆私立中高一貫校が大共創時代社会を選択した時、大事なことは教員採用システムと教員研修である。もう説明するまでもないだろうが、大共創時代に向けた教員養成システムを文科省も教育委員会も持っていないからである。

☆そして大共創時代社会の準備をしている私立中高一貫校が海外の大学や教育機関と連携したりキャリア教育をつくっていく大きな理由は、日本の教育行政は片面的であるということである。まったくもって今でもお上は、忠臣蔵どまりということか。

☆いずれにしても2020年に近づくにつれ、学習指導要領はまた改訂の活動が活発になるが、もうそのときは、外圧が大共創時代到来を望んでいるのではないだろうか。

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