首都圏中学入試2012[08]
☆前回は、明治維新前夜から戦後教育基本法に到るまでの、偉大なるiTL(イノベーティブティーチャー)=≪私学人の系譜≫とその仲間たち(ステークホルダー)を列挙したが、今回は、さらに続く≪私学人の系譜≫とそのステークホルダーの例を挙げてみよう。
☆麻布の氷上校長と共立女子の渡辺校長。お2人とは戦後教育基本法改正前夜のある小講演会で≪私学の系譜≫について話を聞いた。氷上校長は、南原繁の孫であり、内村鑑三そしてなんといっても江原素六の志を継いでいる。
☆渡辺校長は、石橋理事長とともに、共立女子に影響を与えたクーデン・ホーフカレルギーの精神を保守しつつ、要素還元主義的発想を排し、関係総体主義という現代思想的発想の教育を堅持している。その発想を共有する若手教員も大いに育っている。
☆東京私学教育研究所所長で鴎友学園女子の前校長の清水先生もまた、戦後教育基本法改正前夜に≪私学の系譜≫に位置する先達者について教えていただいた。その精神を今東京私立中高協会を拠点に、共に生きる、共に学ぶ私学の教育を広く深く浸透させるイベントを主催している。
☆東京私立中高協会といえば、会長の近藤先生(八雲学園理事長・校長)。新人類世代の若手教員と一丸となって、新しくグローバルな私立学校の経営と教育の両モデルを確立し、他の多くの私立学校にもその方法論や精神をシェアしている。福沢諭吉やプラグマティズムの精神であふれている。
☆東京私立中高協会の副会長の實吉先生(東京女子学園の理事長・校長)は、母校創設者江原素六の志を継ぎながら、棚橋絢子とそのステークホルダーの精神をリスペクトしながら、近藤先生と共に私学全体の道行を拓いている。
☆東京私立中高協会の副会長の平方先生(聖学院校務部長)は、一方で世界中を飛び回り、一方で学院教師と一丸となって21世紀型教育のデザインとその実行に尽力している。聖学院の初代校長石川角次郎(知られざるもっともラジカルな私学人だったかもしれない)の精神を尊重し、教育関係ステークホルダーとリフォメーションイベントをつねに作っている。
☆日本私立中高連合会の会長の吉田先生(富士見丘の理事長・校長)は、近藤先生とともに私学全体の力を強化するために、教育行政や教育政策にも発言をするポジショニングにいる。政財界に私立学校の教育の質や立場についてコミュニケーションやディスカッションをする機会をたくさん仕掛けることは、一朝一夕でできることではない。かつての私学人も政財界との交渉には相当苦労してきたのであるが、それは今も変わらない。私学の言論を保守することは内村鑑三の言葉で言えば、「勇ましい高尚なる」生き様である。大島教頭もその志を共有し高邁な生き方をしている。
☆かえつ有明の嘉悦理事長・校長は石川教頭とともに新しい共学校づくりにシフトし、新しい学びの構築に集中している。すでに当時から横井小楠は世界共和国的な発想の持ち主だったが、その意志を継いだのが創設者嘉悦孝。アダム・スミスを原文で読み、渋沢栄一と共鳴するような道徳と経済の合一説を理念とした。その理念の灯を流転する時代の変化に不易流行として輝かせ続けている。特に「サイエンス科」と「TOK」いう最も新しい学習理論の構築は、学内の教員が一枚岩となって取り組んでいて、優れた教科主任集団の頭脳と共鳴音を放っている。
☆洗足学園の前田校長は、今の洗足を教頭時代から創り上げてきた。その過程の中で、教師陣の育成にも目配りし、グローバルで学際的な視野を持っている教師が育った。英語の教育は学内外に知れ渡るほど充実している。しかし、おもしろいことに現代文を担当する新人類世代の若手教員集団もまた勢いがよい。最初会った時には英語の教師かと間違ったほど、カタカナ語が多かったが、これは新しい学習理論を設計している証拠なのである。まさにニューアカデミズムとニューサイエンスの思考と英語がクロスしている教育環境が出来上がっている。大学進学実績も飛躍するはずである。
☆順天の長塚校長もiTLのiTL。コミュニケーションベースの教育プログラムのデザインと発達理論×経験主義の進路指導プログラムのデザインは、順天の教育の質とその成果を飛躍させた。理論と実践の両方を合力にした。多くの私学や公立学校にとって、未来の教育のモデルを提示している。
☆広尾学園の大橋理事長・学園長の存在も大きい。学内は学問とアートで満ちている。校内に入ると高いモチベーションの雰囲気が伝わってくる。多くの受験生、特にグローバルな視野の持ち主の父親や医者から支持を得ているほどである。まずは生徒と保護者に密なるコミュニケーションをし、そこで感じ取ったニーズを風神のように実現していく細心の心配りと俊敏力と高邁なビジョンの実現力は凄まじい。そして、生徒にも教師にも哲学講話で臨む生き様はiTLの中のiTL。本質を見抜く教育業界の人たちからも高い評価を獲得している。
☆そして、土浦日本大学中等教育学校の中川校長も、自ら道徳の授業を行う。知られざる幕末の志士であり、近代日本の国づくりに貢献した吉田松陰の最年少の門下生山田顕義(日大の創設者)の精神をよく守り、また副校長、副教頭と共に常にその精神について対話して、学内に共有を広めている。山田顕義自身が、軍事力、政治力、教育力、語学力のイノベーターであったと同じように、英語やICTのイノベーションを生徒の学びの道具として教育を設計している。
☆さて、iTLのサポーターとしての見識者といえば、おそらく松岡正剛氏とその仲間たちだろう。2001年11月11日に松岡正剛氏とセミナーをしたときに、そう感じた。その後、しばらく私立学校の先生方と松岡正剛氏との対話やコラボが進行した。そのコラボに顔を出していたのが、鈴木寛氏であり、金子郁容教授である。
☆ただ、氏たちのコミュニティ・スクール構想と私立学校の存在は相克するところもあり、今現在は、適度な距離を保ちながらも、21世紀型教育の理念では共鳴しているというところだろうか。だから、昨年3・12に、慶応SFCキャンパスで、「新しい学びフェスタ」を再びコラボしようということになっていた。3・11によってそれは幻とはなったが、今後もなんらかのコラボはあるに違いない。
☆というのも、そのイベントをコーディネートした一人に、ベネッセの小村氏がいるからである。鹿島守之助やロックフェラー3世と親友だった松本重治が、財界人として新しい人材づくりをサポートしたように、ベネッセの小村氏や児浦氏は、私学のみならず公立学校に対しても新しい教育のデザインを根付かせる支援に日々東奔西走している。
☆2012年、世界リスクを回避し、新しい夜明けを迎える準備は、ジャーナリストが取材しないところで、着々と進行しているともいえる。インパクトのあるイベントは編集会議ではなく、現場で起きているということか。
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