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首都圏中学入試2012[39]

☆先ほど、電車の中で、あの「 シカクいアタマをマルくする。」を見た。なんと竹田青嗣さんの「中学生からの哲学「超」入門―自分の意志を持つということ」(ちくまプリマー新書)から文章が出題されていた。

☆この入試問題は日大豊山女子が作成。意欲的ではないか。

☆素材として切り取られている場所は、コミュニケーション(交換)は、互いの「自己ルール」を批評し合うことであるという文章。人は個人によってものをみたり考えたり感じたりするとき「自己ルール」(たぶん自分なりのものの見方でとりあえずよいのだろう)に従う。しかしその「自己ルール」としての視線は偏りがあるものだ。互いに違う偏りの視線の交換は「視差」というズレを生む。このズレを認識し合い、さてどうするのか?

☆そこが問題になっているわけだ。まだ学校自身の解答は公開されていないが、日能研の解答はこうだ。

違いは違いとして認めたうえで、相手と自分の「自己ルール」に対する理解を深め、それぞれの「自己ルール」に問題があることに気づいたら、それを修正し、調整し合うべきだ。

☆中学受験の解答としては完璧だ。しかし、道徳主義的な解答であることは否めない。ここが、中学受験で、この文章が出題される時の限界である。何ゆえに、修正し、調整し合うべきなのか?という問いがかけられていない。

☆あるいはなぜ視差があるのか?本当に視差があるのか?そこらへんも議論されていない。竹田青嗣さんであれば、視差を道徳的に解決しようという意図はないだろう。現代思想の騎手で、フッサールに影響をうけているし、今もヘーゲルやカントを解読しているわけだから、修正し、調整し合うべきであるというのは、ある論理の限界を超えてしまうわけだから、その罠にはまらないように哲学しようねと、むしろ認識の枠組みの信頼性を暴くのではないだろうか。

☆だからどうのこうのといいたいのではない。この文章は、友人同士だけの話ではなく、教師と生徒との関係についても同じことがいえるということのほうを言いたいのである。この文章を選択した教師は、互いの自己のルールの視差を認識し合うことで、調整をするのではなく、生徒の理解を拓くコミュニケーション力をもっているのではないかということを言いたいのである。

☆このコミュニケーションは、たとえば外国語学習では、インターランゲージ(中間言語)と呼ばれている。哲学分野ではインターサブジェクト(間主観)と呼ばれているが、大事なことは学習心理学では、この教師と生徒のコミュニケーションの関係は、最近接発達領域におけるインタラクティブな関係と言われていることだろう。

☆言い方はでどうあれ、このようなコミュニケーションこそ21世紀型教育における授業だし、教授法から学びの方法へシフトする行為である。

☆おそらくこの文章を出題された教師は、つまり日大豊山女子の国語科には、そのようなサブカルチャーが浸透しているのだろう。ただ、問題としては意図とはズレてしまった。まさに中学受験と私立学校の視差が映し出されたわけだ。

☆もし、開成だったらどうだろう。竹田青嗣さんの文章は出題される可能性は十分にある。内田樹さんの文章が出題されたぐらいだからだ。ただ、問いの出題のしかたが違うだろう。問いかけるとしたら、「自己ルールが相手と違うと知った体験を書きなさい。ただし、体験の事実を説明するだけで、体験を通してのあなたの考えや感想は書く必要はありません」となるだろう。開成は、結局のところ要約以上の記述は出題しないのである。採点ができるのは論理的要素だけだからという方針。

☆麻布だったらどうだろう。竹田青嗣さんの文章自体をださないだろう。竹田青嗣さんに限らず、中学入試で論説文やエッセイは出題しないのである。過去30年に一度だけ出題したように記憶しているが。

☆それはともかく、なぜかというと、小学校6年生に論説文を出題しても、ステレオタイプな問いしか出題できないからである。つまり道徳主義的予定調和的な記述の解答を求めれば、それは記述形式だけれど、結局どれだけそのテーマの文章を学んできたかという知識を問いかけるのとなんら変わらないものになってしまうからである。

☆その点物語や詩は、日常では気づかないものの見方、つまりこれこそ大事な視差であるが、それをメタファーを論理的に再編集しなおして読解していくという意味での思考力のあるなしを判定ができるのである。知的スリリングがあって、毎年話題になるのはそこに理由がある。

☆入試問題は学校の顔であるとは、かつて灘中の日置先生が私に語ってくれたことで、その後業界内で人口に膾炙されるようになったが、なるほど真理であるなあ。

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