首都圏中学入試2012[45]
☆本日、駒場東邦の最終出願日。四谷大塚入試情報センターによると、724名だった(昨年最終=628名)。
☆昨日も、厳しい中学入試の中で、なぜ駒場東邦には生徒が集まるのかというのが関係者の中で話題になった。
☆いろいな方が、さまざまなことを言うが、本当のところはわからない。だいたい同じ見解は、駒場東邦の東大合格者の数がここのところ60人以上だからで、麻布が昨年減少したものだから、駒東シフトとなったのだろうと。
☆そのくらいの理由だとしたら少し残念である。というのも駒東のルーツは≪私学の系譜≫ではなく、≪官学の系譜≫である。獨協と同じルーツであるが、獨協は途中で天野貞祐先生がリーダーになって、≪私学の系譜≫に軌道修正している。というよりも戦後の≪私学の系譜≫の道を整備した人々の中の一人。
☆そんなわけで、駒東が、思想や理念をあまり語らないのには理由があったのだ。語ると≪官学の系譜≫の延長上の私学であるというパラドクスを解かねばならないからである。そこははっきり語ればよいだけで、今ではたしかによき私学人の結晶体ではあるのだから。だからこそ語る必要があるのだと思う。
☆だいたい駒東や獨協のルーツはただの≪官学の系譜≫ではない。この系譜を私学とあえて対峙して、つくった創始者たちだったからである。現在の官僚国家を形成した思想から出発しているということなのである。
☆これは今はそこをクリアしていることを言わねばならない。もっというならば、福沢諭吉と論陣をはったある意味立派なライバルなのである。ということは江原素六やその次代の私学人である内村鑑三、新渡戸稲造とは当然価値観を異にするのである。
☆しかし、そこはあまり語らない。そこを語らずして駒東建設に貢献した初代校長菊地龍道先生の若干の思想を語るに過ぎない。駒東創建のときに、菊地先生は「基本方針10箇条」をつくったという話が今も語り継がれている。
①大学進学を目標とし、男子校とすること。
②中学・高校を通じて6年間の一貫教育を行うこと。ただし、当分の間、高校3年の教育と併行すること。
③頭脳の資源化のために、科学教育に力を入れ、物理・化学の実験は1クラスを二分し、全員にやらせること。
④英語と数学は、1クラスを二分して少数教育を行うこと。(これは、
32年の1月頃に追加したもので、最初の入学案内には書いていない)。
⑤全人教育の立場から、躾と道義の教育を重視し、非行化と不良化を
防止すること。
⑥富士山と旭日とを組み合わせた校章とすること。
⑦制服・制帽を制定すること。
⑧有能な教師を地方から招くために、校宅を作ること。
⑨私立学校に対する一般評価は甚だ良くない。従って、世評を裏切るに足る立派な学校を作ること。
⑩校地の周囲を樹木で囲み、かつ人心を融合して、田園家塾といった和やかな雰囲気の学園にすること。
☆そして、この中で最も大切にされているのは「資源のない日本では、頭脳の資源化こそ急務であるとの考えから、科学的精神に支えられた、合理的な考え方を持ち、自主独立の精神を持つ人物の育成が大切だ」という点である。
☆東大の合格云々よりも、むしろこの科学的精神をベースにしているところが人気なのではないか。グローバル人材に必要なのは、英語は当然で、数学であり、テクノロジーであるというのは、グローバル企業で活躍している父親の価値観である。
☆ただし、≪官学の系譜≫の科学は、思想なき科学である。≪私学の系譜≫は思想ベースの科学である。もっとも科学のない思想の学校もあり、そこは生徒が集まっていないが。
☆それはともかく、思想なき科学は、中立なようであるが、簡単に2人のアドルフを生み出してしまう。核開発などの科学を止められないということ。思想だって、リバタリアンだったら同じことだが、≪私学の系譜≫でいう思想とは自然法論なのである。つまり、サンデル教授の授業で登場してくる、ロールズやカント、ヘーゲル・・・といった系譜なのである。リベラリストなのかコミュニタリアンなのかは分かれるだろうが。
☆そしてもう一つ大事なことは、思想なき科学は、民主主義のパラドクス。つまり徹底した民主主義は独裁主義を生んでしまうというパラドクスを食い止められない。ということを科学者たちが自ら証明してもいる。
☆科学的精神を掲げている駒東はこの重要な問いに真剣に答える責任があるのである。道徳主義や態度主義や適応主義の偏向を許さぬ科学的態度でそうするのが科学的精神の面目躍如ということになるはずである。
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