« 大学入試から見る中高一貫校[10] | トップページ | 大学入試から見る中高一貫校[12] »

大学入試から見る中高一貫校[11]

☆「大学合格者 高校別ランキング 入試速報第2弾」が掲載されているサンデー毎日(2012.3.4)は、「人気の難関大付属校が軒並み志願者減」という記事も載せている。志願者減だからどうだというのだろうか。定員確保は問題ない。

☆今年の中学入試は、志願者減のところがむしろ多く、難関大付属校に限らないだろう。軒並みといいながら、早稲田や中央大学付属横浜山手は増えているわけだから、すべてが減っているわけではない。

☆それはともかく、編集の骨子は

・付属大学進学保証があって、他大学も選択できるセーフティネット進路選択ができるという状況が大学全入によって変わり、同じ偏差値だったらはじめから進学校(できれば学費が安い)に通っておいた方が、さらに難しい大学に行ける可能性がある。

・付属校のイメージは、進学校のように教育の創意工夫とその情熱をアピールせず、相変わらずのんびりした学園生活の映像を想起させている。

☆なんのことはない、安心安全度、選択の可能性、学費のリーズナブル度、刻苦勉励度という比較考慮=功利主義=損得勘定という、サンデル教授流儀でいえば、リバタリアン的市場原理で選択の針がふれているというお話。

☆中学入試をリバタリアン的価値だけで編集するのは、勝手だけれど、それでは、≪私学の系譜≫はどこにあるのか。サンデル教授の登場は、≪私学の系譜≫の価値を見直そうという動きでもある。一般意志2.0なんて東浩紀さんの本が売れたりしているのもこのトレンド。メガトレンドになるのか?と問われそうだが、それはSNSの上場などをみていればわかるだろう。

☆つまり、このリバタリアン的ものの見方は、ポストモダニズム型市場環境のお話で、だいぶ市場の環境は変わっているから、そろそろポストモダニズム的個人化優位主義、優勝劣敗主義は、特に3・11以降見直されるはず。第2のIT革命のパラドクスをどう解決するかという新しい市場創出のステージにはいっている。そのひとつの象徴がサンデル教授や東浩紀氏の登場である。

☆したがって、コミュニタリアニズム的価値観で付属校をみたらどうなるのか、損得勘定・功利主義的価値観の選択者は志願しなかったが、今後の新しいトレンドを見抜いている選択者を引き付けることはできるのか。

☆それは、できるだろう。SNSの価値観は、リニアな発想はしない。損か得かではなく、つながりの中で損得勘定を癒していこうぜという感覚である。それには、自由な発想を大切にする時間が必要。ただし、その時間は物理的にあればよいということではない。リアルな時間とサイバーな時間が重ね合わさっているから、生まれる時間の豊かさである。

☆空間も固定していない。勉強するのは、学校や予備校や自宅ではない。歩いているときにも豊かな空間が広がっているのである。同一時間同一空間には、一通りのあり方しか考えられなかったのが、今まで。だから、量的な競争が激化してきた。スピードを高め、空間の密度を高め、効率を上げてきた。誰よりも早く正確な予見可能性の情報を取得し、先回りして、その情報格差で莫大な利益をあげてきた。

☆がしかし、同一空間、同一時間は、今や多様でハイパーでワープができ、変幻自在。対話はもはや常に1対1ではなく、多とつながっている1対多とつながっている1の対話であることが顕在化しているのである。

☆多とつながることは効率性を下げるけれど豊かであるというパラドクスを内包している。しかし、その1対1の対話の効率性はさらに上がる。21世紀型教育は、教授法ではなく、このような生徒同士の対話がもたらす学び学の広がりである。

☆進学校は、この学び学を必要としない。むしろ邪魔である。知識はツリー構造であって、それ以上でもそれ以下でもない。知識は既存のものであり、新しい知識を創造する勉強は大学受験では邪魔になる。

☆いち早くその知識のツリー構造を内部記憶に収納し、自在に引き出せるトレーニングを積むかである。そこにパラドクスもジレンマもいらない。それはノイズであり、バグである。効率よくするためには、何が最適か損得勘定という功利主義的計算のみが重要である。

☆一方、付属校は、その立場に立つ必要がない。安心安全は、進路先の問題ではなく、成長の問題である。6年間どれだけ、世界で通用する知を自分のもにできるか、友人同士とシェアできるかということである。

☆東大の秋入学のお話は、日本の大学が海外の大学と連携しないとやっていけないというメッセージである。東大ピラミッドつくってきたけれど、それでは世界は相手にしてくれない。ブランドでさえも、ドメスティックでは経営を持続可能にできないのは、シャネルやヴィトンの経営戦略が紹介されているから百も承知だろう。優勝劣敗グローバリゼーションからつなりのグローバリゼーションへシフトしているのである。

☆それなのに、そのピラミッドに猪突猛進する進学校的戦略は、あまりにもドメスティック。そこにいくと、付属校は、つながりを広めたり制止したりする交渉コミュニケーションのシステム(第二外国語習得法の一つの重要な手段でもある。多言語主義のフィンランドの教育が注目されたり、留学熱が高い中国・韓国の学生が世界を席巻したりしているのはそういうことだ。楽天の英語社内公用語もその流れだろう)をトレーニングする6年間を確保できる。情報の海から宝物の地図を探す成長期間である。

☆そのマッピングができたら、大学でいよいよ探検である。その探検探究が付属大学でできない場合は、他大学に進学すればよいし、海外大学に進んでもよい。付属大学に進んで卒業後大学院に行ってもよい。進路先はもはや多様である。探検のいくつかの関門であるにすぎない。

☆どうやって海外の大学に?SNSつながりで、いくらでも支援してもらえるようになるだろう。そのために英語を学ぶなら、モチベーションもあがるだろう。必要は能力向上を後押ししてくれる。

☆というわけで、第2のIT革命を導入できるのは、付属校のほうが速いだろう。そうそう、それゆえ数学が重要なのである。数学は具体と抽象という知のツリー構造で成り立っていない。トートロジーの物語である。SNSは、トートロジーであることの気づきとそこからの離反の繰り返しがスリリングなのである。つまり、ハレとケのストーリーを自ら生み出すことができるのが楽しいわけである。21世紀型コミュニタリアニズムというのは、社会の習慣空気に従うことではなく、その空気を自ら清浄化できる能力をもった市民が参加する場であるということ。

☆付属校はその拠点になれるかもしれない。

|

« 大学入試から見る中高一貫校[10] | トップページ | 大学入試から見る中高一貫校[12] »

合格実績」カテゴリの記事