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東大合格発表の季節2012 [02] 海城と海陽

☆海城の東大合格者が増えて回復(45名)し、6年前に開設された海陽が一期生から13名の合格者が出たのは、意義深い。

☆海城は、20世紀末からの改革路線を推進し、「教授法」に新たな「学び学」を開発してきた。89年ベルリンの壁崩壊以後、学びの世界標準のベースがユネスコやOECD/PISA、ハーバード大学で探求され、そのプログラムはMITメディアラボやビルゲイツ財団が支援するチャータースクールで開発実践された。その流れを汲む「学び学」を海城も探究したことになる。

☆この「学び学」は、総合学習とも一見オーバーラップするから、世間や受験市場では人気がなく、そんなことでは大学進学実績がでなくなると揶揄されてきたものであるが、実際には、たんなる体験学習ではなく、プラグマティックな思想背景をもっているもので、大学進学実績を低迷させるどころか、海外大学への道を開くほどの世界観が広く深いものであった。

☆そういう周辺の声に右顧左眄せず、海城は独自の道を歩み、2年前にさらに、中学入試に帰国生入試をシフトし、高校入試を廃した。6年間で世界標準に対応できる教育内容にバージョンアップしたのである。

☆ここ数年グローバル人材だと政財界は騒いでいるが、同校は先駆けて改革を進めてきた。そのような環境で育った人材が、東大に大量に進学することは、東大ピラミッドの学校化社会を内側から変えていく期待値を高めるものだろう。

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☆とはいえ、海城は受験市場にも人気があるから、生徒獲得戦略としては、ⅠとⅣの両方に位置せざるを得ないが、東大のみならず海外大学への道が大胆に開かれれば、Ⅰの領域だけで生徒獲得も進路指導もできるようになるだろう。これによって、進路先教育から「起業学」へ、キャリア教育から「思春期学」へシフトが完成し、「学び学」とともに、21世紀型教育の基盤を確立するだろう。

☆同様のことは海陽学園にもいえる。3つの大企業が中心となって作った全寮制の私立男子校がゆえに、その生徒獲得戦略の企業的手法に周りは驚き、異論反論オブジェクション状態になったが、それはまたさらに注目を浴びることにつながった。

☆世の批判は、海陽学園の問題ではなく、全寮制の場合織り込み済みの少年の問題――たとえば、ヘルマン・ヘッセの学園を舞台にした少年の心の成長物語の定番の問題が起きているにすぎないのに――を、あたかも学園固有の問題のように取り扱う無教養な反応が多かったと思う。

☆しかし、海城同様、新しい道を進むとき、そんなことには右顧左眄せずに突き進んだのだと思う。もちろん、外から見ているだけだから、内実はよくわからないが、学校化社会日本であるから、利益共同体でない学校の構造は、特殊ではない。だから、発信している内容や成果を見ていれば、だいたいの推察は、当たらずといえども遠からずなのである。

☆ただし、私学として学校法人である限り、新しい≪私学の系譜≫として、ミッションを掲げる責任もあると思うが、その点の考え方はわからない。むしろ≪官学の系譜≫に近いかもしれない。それは現代の大企業のメンタルモデルであるから仕方がない部分もある。Ⅱの領域に位置するかもしれない。

☆どの立場に立つかは、価値自由であるから、どこでなければいけないなどということはない。公立のように、組織としてはポジショニングの選択の自由はなく、Ⅲの領域に位置せざるを得ないのとは違うだけのことである。

☆いずれにしても、この3つの大企業自体、転機を迎えていることは確かであり、そういう意味では、海陽学園は、これらのポジショニングとは異次元にシフトする可能性もあり、今後も行方は気になる存在である。

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