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転機の2012年の促進のきっかけ

☆日経ビジネスONLINE(2012年3月8日)で、松田 千恵子教授(首都大学東京大学院 社会科学研究科経営学専攻教授)は、「グローバル化したいのにできない理由 日本企業の3つのDNAを捨てられますか?」を書いている。モチーフは、次の通り。

「将来」を3-5年後ととらえれば約1/3の企業が、10年後ととらえればほぼ半数近くの企業が、売上高の半分を海外で稼ぎ出すことになりそうだ。現在、売上高の50%以上が海外から、という企業は2割に満たないことからすると、これから起こる変化は大きい。世の中の企業が挙げて「グローバル化」を唱えるのもさもありなん。だが、そのための備えは本当にできているのだろうか。

☆学校化社会が変わるには、グローバル人材の育成だと政財界が提唱しているし、海外で事業展開する流れや、社内の英語公用語化も進み始めているし、そうなるだろうと思っていたら、そうは簡単でないというわけだ。なぜだろう。松田教授はこう言っている。

「グローバル化」が、単に事業を拡大していくだけならこれほど容易いことはない。「グローバル化など我が社はとっくの昔に済んでいる。生産工場も海外にあるし、海外販売拠点も数多い」などと言う人もいる。だが、それらは“オペレーションのグローバル化”にすぎない。現在求められているものは“マネジメントのグローバル化”だ。これは難しい。経営のやり方自体を変えていかなければならないからだ。

☆たしかに、これは学校自体にもあてはまる。ただ帰国生を受け入れたり、海外研修・留学をやっていても、それはオペレーションのグローバル化にすぎず、学校の文化や組織はなにも変わらないケースが多い。では、そこを変えるにはどうしたらよいのか。松田教授によると、

「日本型経営」は確かに一世を風靡した。改めて'80年代の米国における経営戦略本などを紐解くと、こちらが気恥ずかしくなるほど日本の経営が礼賛されている。確かに、当時日本的な経営は確かに成果を挙げていたし、そこから学べるものは今でも多い。だが、次の時代に向けての変革において、もっとも障害になるのはこの種の“成功体験”であることも、皆さんご存知の通りである。時代が変わって今や裏目に出ている我々の“成功体験”としての日本型経営の特徴は、おそらく以下の三つに集約される。

(1)テレパシー経営
(2)きれいごと経営
(3)ボトムアップ経営

☆「テレパシー経営」「ボトムアップ経営」はわかりやすい。松田教授が言う「きれいごと経営」とは、グローバルだ、多様化だと言ってもそうきれいごとではうまくいかない。そんなきれいなことを言って乗りきろうなどというのは、官僚主義的で、今後はそれではダメだというのは明らかだろうと。つまり、

良し悪しは別として、グローバルプレイヤーとして名高い企業は、決してテレパシーが通じるとは思っていない。よく「多様性の受容(あるいは確保)」などと言われるが、これは要するに「テレパシーが通じないのだからちゃんとコントロールを行え」ということであり、それをしないと「競争に負けてしまうぞ」という、かなり生々しいことを言っているのである。

だが、こうした“生々しさ”は、いまどきの日本の経営からはことごとく排除されている。特に「カネ」の管理(=経営管理、経理・財務分野の管理)と「ヒト」の管理(=人材獲得・育成・管理)のインフラが、まるで映画の書き割りのように“きれいごと”すぎる。 ・・・・・・・・・“生々しさ”の欠如、言い換えれば極端なまでの形式主義、官僚主義はどこからきたのだろうか。

経済が成熟してくれば皆そうなるのだ、と言ってしまえばそれまでだが、日本企業においてはその程度が甚だしいようにも思える。これも成功体験の裏返しかもしれない。経営とは本来、消費市場の不安定性に向かう「事業」、資本市場の不安定性に向かう「財務」、人材市場の不安定性に向かう「組織」、の三つのバランスを如何にとって、自らが意図する方向へと価値を向上させていくか、というところにその真髄がある。

 だが、戦後日本の企業経営では、財務と組織の不安定性はある意味免除された。財務においては「メインバンクシステム」によって銀行が財務の面倒を見てくれ、組織においては「終身雇用、年功序列、協調型組合」という日本型経営の三種の神器によって人材の流動性や多様性への対処という不安定化要因を排除した。

☆財務と組織は官僚が守ってくれていたから、事業だけやっていればよいというのは、学校社会として学校のマネジメントも同構造。財務と組織は既得権だったし、良い教育をしていればそれでよいと、果たしてよい教育であるかどうかは、だれもチェックしてこなかった。しかし、それは今ではそうではない。

☆特に私立学校は、財務も組織も教育事業も、すべてイノベートしなくてはならない時代、それをもって転機の2012年と呼んでいるわけだが、ともあれそういう時代が到来している。

☆もはや受験市場が安泰ではないから、自前で私学市場をつくっていく財務と組織のマネジメント改革が必要だというわけであり、実際そうしている私立中高一貫校は、教育の質も向上し、生徒獲得において、つまり財務と組織もうまくいっているのである。

☆ただし、松田教授の言うようなイノベーションでは私立学校はうまくいかない。というのも松田教授のそれは既存の欧米のグローバルカンパニーの戦略で、それそのものも21世紀の今日うまくいっていない部分も大いにあるからである。

☆つまり、その戦略は、暗黙知と形式知、理想と現実、ボトムアップとトップダウンというわかりやすい二元論であり、これ自体乗り越える理屈が模索されているのが21世紀型マネジメントであり、21世紀型教育である。

☆その一つのモデルが「学習する組織」である。二元論から生態学的アプローチあるいは関係総体主義的発想にシフトするのが転機の2,012年のビジョンである。

☆このベクトル自体は、すでに1980年前後から提唱されてきたが、やや現代思想的ジャーゴンで語られすぎたために、なかなか日常化してこなかった。

☆しかし、その当時からの知の転換の流れをわかりやすくまくまとめているのが、立教大の河野哲也教授。今年東大前期の国語の試験と早稲田の教育学部の国語の試験で出題された。思想は時代に先行するから、そのときの議論が、今ようやく現実化するときが来たのである。

☆いずれにしても、方法論は多様だろうが、オペレーションだけではなくマネジメントもグローバル化するという発想が前面に出てくれば、2012年の転機は促進する。

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