知識の4つの構造的GAP 現状打破のために
☆新学習指導要領は、構成主義的で議論や論文作成などの言語活動に力を入れている。英語の4つの能力を高めようともしている。しかし、その発想が、学力低下論に基づいていたために、「外的GAP①」領域への対応策になっている。
☆ところが、「外的領域GAP①」は、ハードパワーに対するGAPであるから、基本的に何も学力観は変わらないのである。したがって、パラダイムや枠組みが変わらないのであるから、新学習指導要領の理念は打ち砕かれるのが予想できる。
☆ただし、もともと21世紀型教育を目指している一部の私立中高一貫校や国立中高は、ソフトパワーベースの知識創造の教育を実践しているから、国内の大学に進学すると、燃え尽き症候群にみえるような状態になる。
☆なにも本人は燃え尽きてはいなくて、余裕なのであるが、ハードパワー領域のメガネでみるとそう見えるというだけのことである。だから、そのことを知っているある程度富裕な家庭は、海外の大学への道を支援してしまう。
☆しかし、それでは、困るというわけで、東大の一部では、ソフトパワー重視の探求環境を創ろうとしているわけである。石渡嶺司さん・山内太地さん共著の「アホ大学のバカ学生」(光文社新書)にはこうある。
東京大学大学院情報環の山内祐平准教授は、「学習環境のデザイン」を研究している。これは「人の学習をどのように間接的に支援したら、人は賢くなるか?」という研究であり、具体的には、学習効果の高い教室や設計や、ベネッセと共同で教育教材を作ったりしている。若手科学者と高校生を電子ネットワークでつなぐ研究などもしており、「人と人のつながりのなかで、感情が動き、嫌いなものが好きになる」と述べている。山内准教授が東大に着任する数年前まで、東大には、机を自由に動かせる教室が一つもなかった。大学の授業は、ただ一方的に教授がしゃべるのを、学生が黙って聴いて、ひたすらノートを書き、レポートや試験で単位を取るものだった。
☆学習環境に合わせて授業をするのではなく、授業に合わせて学習環境をデザインするというわけである。この発想はMITのみならず、国際ランキング100位以内の海外大学では今では当たり前だろう。だから、東大もそうしている。しかし、まだまだ一部分。
☆というのもハードパワー領域というのは、リーガルマインドがドメスティックでグローバルではない。その規範を形成しているのは、国内法である。国内法の番人は、法曹であり、国家校務員である。つまり文Ⅰ出身者のシェアが高い。明治維新以来、なぜ日本の法律や外交政策が富国強兵、優勝劣敗主義になったかというと、ソフトパワーである啓蒙思想を捨てたからである。
☆啓蒙思想があると世界共和国法を導入しなければならない。つまり自然法というわけだ。それは、キリスト教や世界宗教も認めることになるから厄介なために、家父長制という村落共同体ベース国家を創るのに都合が悪かったのである。
☆内村鑑三や新渡戸稲造はそれではいけないと思っていたから、私立学校をつくってソフトパワーの思考力を絶やさないようにしてきた。それが戦後少しの間、東大の中でも灯がともった。
☆しかし、やがてポストモダニズム。自然法論なんて普遍的価値観は無用の長物とされ、個人化していった。あとはハードパワーまっしぐら。バブルがはじけて、ソフトパワー重視だと世界は叫んでいるのに、モノづくりでいけるとソフトを無視。そのつけが今きているわけだが、グローバリゼーションの影の部分だけをひっぱりだし、とにもかくにもハードパワー頼みの日本だった。
☆企業もハードパワー重視(サービス業でもそうである。なんのサービス業かということが肝心なのである)で、「外的GAP②」の領域で若者をバッシングしてそれで済ましてきた。それは東大の権力領域は、まだまだ法実証主義で、とりあえず合法的に法律になったものは法は法であってそれ以上でも以下でもないから、悪法もしかたがないよねという文化がしっかり根付いているからだ。
☆しかし、本当は、そうじゃないだろうと、数少ないソフトパワーを身につけた学生もいる。しかし、それを受け入れることができない「内的GAP②」があるのである。それが問題であることに気づいていこなかったのか気づこうとしなかったのか知る由もないが、それが今までだったし、当分は続くかのような様子。たしかに3・11以降そうであってはならないということも叫ばれているが、まだまだそうならないだろうと高をくくっている感じもなくはない。
☆しかし、そうも言っていられなくなったのも確か。すでに気づいて動いている企業の流れに乗るしかなくなっているではないか。だから、一方でグローバル人材と叫んでいるのであろう。とはいえ、「内的GAP」の①と②を埋める方法を未だ講じていないのがこれまた現状である。
☆さて、なぜ脱偏差値か?それはこの指標はハードパワーの指標であるからである。ソフトパワーは、かりに偏差値が低くても高いということもあり得るが、それではハードパワー領域を切り崩してしまう。偏差値で固めたいという気持ちがなくならないのはそういうわけだ。しかし、これは時代が要請していない。
☆時代は、ソフトパワー。できれば広く全員がもてるとよい。このようなソフトパワーを持った人材は、欧米では、今のところクリエイティブクラスと呼ばれているクリエーターである。クリエーターというとハードパワー領域では、デザイナーとかファッションやアニメなどの関連職種のことを言うようだが、ソフトパワーでは広く知性や感性のデザイナーのことを意味する。職種という鎧におしこめず、知性や感性という誰もが有している才能に注目しているのが新しい。たしかに今のところは、欧米では30%ぐらいのシェアだそうだが、もっと広げたいものである。
☆先日のベネッセとのコラボイベント「新しい学びフェスタ」で、山内准教授が、本当の意味でのギャップタームは、「内的GAP②」であることを語っていたのは、そういうことなのである。そして、そこに集まった私立中高一貫校や一部の公立中高一貫校は、すでにそのGAPを乗り越えていることが証明された。
☆教育現場では、教育革命がすでに起きているのである。
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