東洋経済を読む 本当に強い!中高一貫校2012 [01]
☆週刊東洋経済(2012.4.21)、今年も「本当に強い!中高一貫校2012」という特集を掲載。偏差値と大学合格実績という受験市場の量的リサーチの究極の編集。2つの指標(実は活用の仕方は同じなのだが)を使い切り、量的リサーチによって受験市場を完璧に表現した。
☆特に転機の2012年であるから、それを探るのにも実に大切な編集である。しばらく読んでみたい。
☆経済誌としてさすがは慧眼と思わせるところは、世間というのは質的価値観から量的価値観にシフトしているということをかつてのオルテガのように「大衆の反逆」などというジャーナリスティックな表現をしないで描ききっているところ。
☆都内の公立中高一貫校の多くは今春一期生の卒業生を出したのだが、はじめ質的な教育にこだわっていたが、結局は東大を頂点とする学歴ピラミッドに果敢に参入し、大学合格実績輩出という量的教育にシフトしたという軌跡を描いている。
☆これは、現政権の教育政策やデフレ無政策がもたらしている今日の経済状況を見事に反映した記述である。公立学校は政府官僚の政策を反映するものである。それがこんなに機敏に反応する、つまり、教育が経済ベースで語られるようになったというのは、転機の2012年の一つの重大な事象である。
☆一方で、私学は、政府官僚のデフレ無政策によって、中学受験ピーク時の2007年、つまりリーマンショック直前に比べ、年収700万から1000万円の層が17%弱激減するネガティブな影響を大いに受けている現実が背景にあるという記事も掲載されている。
☆生徒から授業料と補助金で台所をまかなっている私立学校は、こういう経済状況の打撃がストレートに響くから、公立学校以上に、経済に敏感である。そして公立学校と大きく違うのは、政府官僚の教育政策を通しての経済、つまり配給経済に敏感なのではなく、そのような政策を生み出す、日本の経済状況やそれをとりまく国際経済状況に敏感なのである。国際経済感覚といってもよいかもしれない。
☆だから、東洋経済の編集によって、大いに刺激を受けて戦略を講じるのである。世間のものの価値観が、政治や哲学ではなく、経済観念にシフトしたということは、目先の乱高下で一喜一憂する風潮になったということである。するとじっくり考えて判断する質的視点は育たない。
☆目先を重視する量的視点がものをいうのである。したがって、量的視点では質の高いなぞは、あっても視野にはいらない。だから、そこを逆手にとろうというのである。偏差値と大学合格実績を向上することで、質の高い教育に目覚めてもらおうという戦略である。
☆実は、遠い昔、最初は開成も麻布も栄光もそうだった。いや今も継続しているかもしれない。
☆ともあれ、そういう戦略を立案して動いた学校は、「6年間で伸びる学校」ランキングに入っている。ベスト10は次の通り。
1 淑徳
2 立正
3 かえつ有明
4 広尾学園
5 暁星国際
6 多摩大目黒
7 東京成徳大
8 八千代松陰
9 順天
10 淑徳巣鴨
10 履正社
10 賢明女子学院
☆大学合格実績だけではなく、高い質の教育を実践しているところがなるほど多い。質と量の二兎を追う学校である。
☆しかし、このランキング100以内に入っている学校は、必ずしも二兎を追っていない。そこをどのようにカテゴライズするかは、その必要性を感じる学校選択者は悩むところだ。説明会に足を運ぶしかない。
☆質より量で結構という学校選択者は、教育理念と通学時間とあとはこのランキング表で、学校選択のプランを立てればよいのである。こんな便利なことはない。
☆それからもう一つ。質が高いと言っても、20世紀型教育で質が高いのと21世紀型教育で質が高いのとでは、微妙な差異がある。さらにカテゴライズしなければならないわけだ。この視点は、帰国生のいる家庭、留学志向の家庭、グローバル企業の家庭などが有している視点である。
☆この21世紀型教育への実践をすでに開始しているという点で高い質の教育を実践しているのは、上記の学校の中では、「かえつ有明」「広尾学園」。この21世紀型教育の質という点で同誌の公表しているランキング100以内の学校をみると、
20 東京女子学園
33 聖学院
34 西武学園文理
72 八雲学園
91 聖園女学院
93 横浜女学院
☆が入っている。脱偏差値、つまり21世紀型教育を実践している学校であるが、果敢に戦略的な教育も実践しているところである。
☆以上の学校以外に、たいへん痛快なのは、聖ドミニコ学園である。17位にランクインしているが、まったく戦略なき普遍的教育を実践している学校である。この学園は中世社会に咲いた大輪の花聖ドミニコ(本人は野のスミレと思っていただろう)の世界平和を真理のモデルとしている。まったく世間の風潮から超越した学校である。こんなところに顔を出しているとはなんか愉快である。破格のカトリック女子校♪
☆ドミニコ会の歴史は常に破壊的創造――あのフランス革命の影の応援者とも言われている――だった。そういう知る人ぞ知る学校だから、そう感じたのかもしれない。
| 固定リンク
「受験市場」カテゴリの記事
- 【お知らせ】6月10日(日)、今年も沼津で「学校を知ろう」進学相談会が開催される。(2018.06.01)
- 伸びる学校組織と市場の関係(2017.11.11)
- 塾歴社会の行方【04】私学の力は教育の自由・経営の自由!(2017.02.06)
- 塾歴社会の行方【03】中学受験から中学入試へ(2017.02.04)
- 塾歴社会の行方【02】中学入試か中学受験か(2017.02.04)
最近のコメント