NHK 途方もない喪失感を孤高に転換する八重
☆2013年のNHKの大河ドラマは、綾瀬はるかさん演じる新島八重の凄まじい生き方を描くという。3・11の震災復興支援の大切な意味もあって、会津藩出身で、自らスペンサー銃をもって板垣退助率いる官軍と戦った孤高の女性八重を選択したのだろう。
☆それはともかく、大事な言葉は「喪失感」。明治維新へ向かうときに、失われた途方もない「喪失感」。太平洋戦争を完全終結させた原爆に象徴される人類史上最大ともいえる「喪失感」。そして再び会津の地東日本で起こった大震災と原発問題による取り返しのつかない「喪失感」。
☆この幾たびも再帰する「喪失感」を新しい生き方に転換する孤高の人たち。その生き様を描くのだと思うが、この「喪失感」は、いったんは深く受け入れなければならないものだろう。
☆毎年めぐる終戦の日、日本全国で黙祷の構えが広がる。3・11の場合も、世界中で広がった。ある意味、これは「喪失感」を忘却しない構えである。
☆とても大切な構えであるが、3・11の「喪失感」は、おそらくまだ共有されていないだろうし、どのように共有できるのか、いまだ模索中のはずである。なぜ模索中かというと「喪失感」の意味がいまだつながる広がりの途上であるからである。
☆だから黙祷の行為ですでに終了したものを忘れないというところまではいっていない。祈るしか何も出来ない状態としての黙祷のような行為は全く問題ないが。今は「喪失感」の意味を深く広く共にしようという途上であることを忘れてはいけないということなのだと思う。
☆そうでなければ、今も世界で「喪失感」を抱いている人々の生き方を共にする感覚が持てないからである。ミャンマーの状態、チベットの問題など、BSのニュースでときどき流れてくる情報でしか、様子を知ることはできないが、世界中に広がっている「喪失感」を想像できる共感性をどうやって研ぎ澄ますことができるのか。
☆八重は、自らがはまりこんだ「喪失感」の海を、未来の航海の海原に変えていくときに、共にいた存在が新島襄である。八重が銃を捨て教育に看護に身をゆだねる応援者が襄であった。
☆新島襄はリベラルアーツのアマースト大学で、洗礼を受けているが、そのときクラーク博士に出会っている。のちに札幌農学校で、新渡戸稲造と内村鑑三に精神の影響を与えたあのクラーク博士である。
☆もっとも、新渡戸も内村もクラーク博士には直接会っていない。それゆえ、麻布の氷上校長は、新島襄、福沢諭吉、江原素六(麻布の創設者)を≪私学の系譜≫の第一世代と呼び、新渡戸稲造、内村鑑三を第二世代と呼ぶ。
☆明治維新移行期の「喪失感」を切り捨てた官学に対し、受け入れて希望へと転換させた人々が≪私学の系譜≫にいたのである。その一人である新島襄とまさに「喪失感」そのものの存在である八重の生き様が大河ドラマで描かれるのである。
☆本ブログでは、何度も書いているから書く必要はないかもしれないが、念のため述べておくが、戦後「喪失感」を受け入れて希望に変えるために奔走した人々は、新渡戸稲造と内村鑑三の弟子たちである。≪私学の系譜≫の第三世代が教育出動した。その結晶体が戦後教育基本法である。その座長であった南原繁(内村鑑三の弟子)は、文化と教育を形成する力が、「喪失感」(実はこれは常に生と表裏一体としてある)を「希望」に転換できると考えていた。そしてそのために新しい法制度を整備しなければと。その1つが戦後教育基本法であった。この議論をしないで、教育基本法が改正されたことに氷上校長は、日本の教育の危うさを洞察し、それを阻止すする教育を麻布で展開している。東大に何人合格させるかというところにしか興味のない受験市場に背を向けて。
☆それでは、今回の「喪失感」を深く受け入れて「希望」に変える動きをしているところはどこか。政府や東電の言葉は信頼を失い、それに変わる新しいメディアや出版活動が次々と動いている。詩人の和合亮一さんの言葉は「喪失感」の響きを包含している。和合さんと共感して動き出している東浩紀さんと東さんが代表の合同会社コンテクチュアズは、新しい≪私学の系譜≫の動きである。「新しい」というのは、必ずしも私立学校経営者が動いているというわけではないからである。
☆もっともと南原繁も私学人ではなかったのであるから、物象化された意味での≪私学の系譜≫ではないという点では、単純に≪私学の系譜≫が動き出していると言ってよいかもしれない。東さん自身も「教育」が今後最も重要であると語っているし。
☆もちろん、私立学校自身の動きにも注目したい。先日東北学院中高の永井校長にお会いして、東北の情況をお聞きしたが、東さんと「喪失感」に対する共感性は同じだったと感じた。ハコダテ、ヒロシマ、フクシマ。「喪失感/希望」はいつも周縁からやってくる。≪私学の系譜≫とはまさに辺境の知そのものなのだろう。
| 固定リンク
「私学の系譜」カテゴリの記事
- 麻布の使命(2016.11.17)
- ≪私学の系譜≫中村紘子の大賀ホールコンサート(2015.08.16)
- ≪私学の系譜≫面目躍如!私立学校初任者研修北海道地区研修会始まる。(2015.08.06)
- 聖学院が御三家を超える時が来た(3)(2015.07.18)
- 聖学院が御三家を超える時が来た(2)(2015.07.18)
最近のコメント