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大学にハローワーク

☆中國新聞(12/5/13)によると、

政府がまとめる「若者雇用戦略」の骨子案が12日、判明した。景気低迷に伴い就職難が続く大学生らを支援するため、全国的情報網を持つハローワークの出先機関を大学内に設けるなど行政と学校の連携強化を打ち出した。雇用機会均等の観点から就学支援や職業教育充実を挙げ、中小企業の人材確保支援、フリーター大幅削減の確実な達成も盛り込んだ。

 

野田佳彦首相と関係閣僚、学識経験者、労使代表らでつくる「雇用戦略対話」の下に設置したワーキンググループで骨子案を基に議論し戦略を策定。6月にも対話会合で正式決定する。

☆とある。「雇用戦略対話」の模様は、「政府インターネットテレビ」のサイトで見ることができる。ワーキンググループのメンバーは次の通り。

雇用戦略対話ワーキンググループ 名簿
平成24年3月19日
【労働界】
安 永 貴 夫 日本労働組合総連合会 副事務局長
仁 平 章 日本労働組合総連合会 経済政策局長
村 上 陽 子 日本労働組合総連合会 非正規労働センター次長
【産業界】
川 本 裕 康 日本経済団体連合会 常務理事
鳥 澤 加津志 株式会社 セントラル工事関東 代表取締役
西 村 幸 浩 株式会社モナ 代表取締役社長
全国中小企業団体中央会青年中央会監事
【学校関係者】
五十嵐 敦 福島大学総合教育研究センター
キャリア開発教育研究部門教授
上 西 充 子 法政大学キャリアデザイン学部准教授
吉 田 美 穂 神奈川県立田奈高等学校教諭
【雇用戦略対話の有識者】
樋 口 美 雄 慶應義塾大学商学部教授
宮 本 太 郎 北海道大学大学院法学研究科教授
竹 中 ナ ミ 社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
【若者雇用の専門家】
今 村 久 美 NPO法人カタリバ代表理事
大久保 幸夫 リクルートワークス研究所所長 内閣府参与
重 里 徳 太 学校法人重里学園 日本分析化学専門学校学校長
谷 口 仁 史 NPO法人スチューデント・サポート・フェイス代表理事
濱 名 篤 関西国際大学学長
藤 原 和 博 東京学芸大学客員教授
堀 有喜衣 (独)労働政策研究・研修機構 研究員
松 井 賢 二 新潟大学教育学部教授
【政 府】
大 串 博 志 内閣府大臣政務官
津 田 弥太郎 厚生労働大臣政務官
城 井 崇 文部科学大臣政務官
中 根 康 浩 経済産業大臣政務官

☆このメンバーの対話の中で、「就職弱者」という言葉が出てくる。「就職弱者」の支援だけではなく、グローバルな社会に対応できる人材育成とそのような雇用のマッチングが重要だという流れになっている。そのようなビジョンがあるので、雇用の多様化だとか、雇用時期の多様化、非正規の雇用問題、つまり雇用の質の問題などについて話し合われている。

☆「対症療法から中長期戦略」に転換して質の高い雇用を創出するというわけだ。大変重要であるが、大学にハローワークがはいることによって、日本が学校化社会であることをますます強めていく。

☆これはある意味、日本人の労働や仕事を防衛するカプセルセンターをつくるということでもある。それゆえ、今後外国人が日本の企業で働きたいということになると、日本の大学あるいは専門大学を通過してからということになる。これは少子高齢化の教育市場を守ることでもある。

☆特に高等教育機関は、どうしても首都圏に集中するので、各自治体の高等教育機関への入学を保障するには、各地域の中小企業へのアテンションを高める必要もある。そうすることによって、外国人も地域の大学に向かう流れをつくることができる。

☆また、高校からの就職の支援は、どうしても教員のマンパワーに頼ることになり、その力のスタンダードを作ることが難しい。大学とハローワークのコラボレーションがあれば、そこを活用するために、大学進学率をあげることも可能かもしれない。

☆学費はどうするのかという話がすぐにでてくるだろうが、それは中小企業がこの戦略によって大学に密に結びつくわけであるから、新しい現実的なスカラーシップが生まれてくるだろう。

☆いずれにしても、就職インフラの完備によって、首都に仕事が集中することを分散していこうということだが、それこそ地方分権の実質的な促進をねらう政府の戦略に一致する。しかしながら、ハローワークによる労働行政的なコントロールは中央が行っていくよということだろう。

☆そのことがよいかどうかは、まだまだわからないが、もう一つの政治戦略が関係していることは確かである。それはTPPの締結促進である。雇用戦略対話で、いろいろな提案や議論がなされているが、大学進学率を上げることが目標。そのためには大学と企業の就職の密接なつながりをつくり、大学の進路先教育力を支援しようということ。これによって、高校から大学に入学する率があがり、外国人の大学留学人数も増える。

☆こうして就職インフラが完成することによって、TPPによってグローバルな教育の自由化競争に耐えうるカプセルができるということだろう。

☆それから、もう一つ、社会保障の問題である。この就職インフラによって、社会保障の問題もコントロールしやすくなる。企業ごとによる終身雇用から日本の独特の学校化社会による終身雇用インフラをつくろうというのがねらいなのではないだろうか。

☆このような社会で働きたいという外国人は増えるだろうことを予想するのは難しくない。当時のブレア政権の「教育、教育、そして教育」という第三の道の実現がこんなところで実を結ぶとは意外であるが、リベラリズムの論理からいけば、そうなるのは当然なのかもしれない。

☆こうして成熟した市民に必要な教養が流れる知のインフラも整備される。問題は教養ではなく固定的なイデオロギーが流れないようにチェックする機能をどのように設置するかである。ワーキンググループを眺めると、それができるかどうかはわからない。

☆たとえば、メンバーである文部科学大臣政務官などは、大学の入学試験がAOや公募推薦の活用が50%を占めていることを、「残念ながら」と語っている。このような入試システムでは基礎学力が保障されないのだと。グローバルな社会に通用しない学習指導要領であるのに、そのシステムを基礎学力だというイデオロギーがここにはあると思うが、これは教育の自由化の障壁になるものである。文科省側からはATフィールドであるのかもしれないが。

☆必要なものは基礎学力ではなく基礎教養である。結局この就職インフラを正の組織にするのか負の組織にするのかは、そこに流す学力観である。そしてこの学力観は、初等中等教育段階の問題である。ここで学力観を間違えると、とんでもないことになる。間違えないようにマネジメントできるメタ認知機能を有したチェック機関はどこにあるのだろうか。

☆本ブログが支援している機関にそのモデルがある。そのことを政財官がどれだけ認識できるか。日本の学校化社会の行方はそこにかかっているのかもしれない。

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