社会科の授業で思考力育成 油井大三郎先生
☆今月11日(月)、アルカディア市ヶ谷私学会館で、油井大三郎先生の講演があった。現在、先生は東京女子大現代教養学部教授で、日本学術会議「高校地歴科教育に関する分科会」の委員長を務めている。
☆専門はアメリカ現代史で、欧米の歴史教育の思考力育成型授業のリサーチもされている。
☆主催は、一般財団法人 東京私立中学高等学校協会、東京私学教育研究所、文系教科研究会。
☆きわめて有効かつショッキングな講演内容だった。
☆というのも、大学入試問題が社会の知識暗記型に偏っているために、思考力育成型授業がしたくてもできないという内容でなかったからである。このようなステレオタイプの発想を公立高校が脱しようとしている情報が新鮮かつショックだった。
☆そしてゆとり教育も脱ゆとり教育もその手法は違っても、確実にそれらの背景にある社会科に対する考え方は、一貫して同じであることにも驚いた。
☆実際の手法がその考え方をくみ取れなかった反省として、ゆとり教育は脱ゆとり教育にシフトしただけで、その考え方を再びきちんと汲み取る手法を試行錯誤しているというのが、社会科の新しい学習指導要領の基本的な考え方のようなのである。
☆油井先生によると、現状の大学入試は、たしかに知識偏重のようにみえるが、通俗的な批判は、ものの本質を見えなくしてしまうとほのめかす。現状の歴史の大学入試問題のものの見方は知識を重視しているわけではなく、通史的な発想であり、ある意味要素還元主義的学習観であるにすぎない。この価値観をとやかく言うようなことは油井先生はしない。
☆そんなことをしたら、思考力とは何かという迷路にはまるからだ。
☆ただ、ゆとり教育以降は、通史的な発想ではなく、主題編成型、つまり関係総体主義的な発想、あるいは構成主義的な発想にシフトしている。しかし、この考え方をストレートに反映した大学入試がないのが問題であって、今の問題がどうのこうのということではないようだ。
☆にわとりが先か卵が先かはともかく、大学入試問題が構成主義的な出題になるのか、中高の授業が変質するのか、どちらも必要なことは言うまでもあるまい。
☆ただ、本当にショックなのは、この関係総体主義は、もともとは≪私学の系譜≫に由来するものである。公立学校が、ここまで学ぶとなると、私立学校のアイデンティティはどのように位置づければよいのだろう。
☆公立中高一貫校というシステム的に私学に似せる戦略が、いつの間にか思考様式まで私学に近くなっている。今後、私立学校のレゾンデートルはどこに求めたらよいのか。私学が大学合格実績に影響を受けて、公立化しそうになるときもある。
☆そんなときに、水面下で文科省は着々と私学の良いとこどりを、外面からも内面からもしようというのだろうか。
☆私立間の教育の質の競争は、公私の間にも広がるということか。子どもたちにとっては歓迎すべきことではあるが、財政出動は尽きないのか。考えさせられる研究会であった。
| 固定リンク
「教育イノベーション」カテゴリの記事
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(+1) 生徒の内なるトルネード(2018.06.27)
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(了) 教師力と先進的なティール組織(2018.06.26)
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(3) 知のトルネード(2018.06.26)
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(2) 知性と感性の空間(2018.06.26)
- 【八千代松陰】千葉から世界を変える(1)教育のキーワード(2018.06.25)
最近のコメント