生田先生 新しい地理を語る
☆中村学園新館Ladyで開催された柴崎俊子さんの祝賀会で、生田先生にお会いした。開成学園を辞められてから、国際地理オリンピックのブレインとして活躍されたり、駒澤大学で教科教育法を講義するなど、日本の社会科教育に、今もなお得難い役割を果たし続けている。
☆生田先生は、中高や大学で教鞭をとり、実際に授業やプロジェクト学習を実践した経験からこう語られた。
多くの大学で教員養成(教科教育)の段階で、すでに知識としての地理や歴史を詰め込まれています。改善を図れる、学校教育の「地歴」やその教科教育法の再組織化したいと思っているところです。
☆フランスで地理を研究されたご経験もあり、欧米では、地理と言う学びは「ひとつの学習課題から、その背景を知る学びであり、そのとき、日本の社会科教育のように、地理だ歴史だと縄張りを言いあうような無意味なことはしない」ということだ。
☆そして、いわば主題編成型の地理、あるいは社会、あるいは学びとは何かを試行錯誤できるのは、「大学の研究者ではなく、中高の現場にいる教師たちだと実感しています」ということだった。
☆さすがは、ヴィゴツキーの学習方法に造詣が深い生田先生である。結局学びとは、子どもが試行錯誤して、アカデミックな領域に近づき、ときに才能に恵まれた子どもがそれをぶち破っていくという過程である。その過程は、それぞれの子どもによって、異なるから、その異なる過程が描く軌跡の領域こそが、あの有名な「最近接発達領域」である。大学の研究者は、この領域を見逃し続けてきたのだと。
☆そして、この子ども一人ひとりの「最近接発達領域」を共に発見しながら学ぶには、はじめから最後までアカデミックな知識を注入し続ける講義形式の授業では、いかんともしがたいのである。
☆そこで、国際地理オリンピックの出題問題や大学の教職を望む学生のつくるプログラムに、「新しい地理の学び」を接続しているのである。
☆具体例として、テレビでもしばしばドキュメタリータッチで報道される「アラル海はなぜ小さくなったか」という主題編成型のプログラムシートを見せていただいた。そこには、
・地政学的位置づけ
・自然と経済の関係→文明の海洋史観
・近代化と戦争の関係
・冷戦と経済の関係
・生態系と国民あるいは市民の生活→文明の生態史観
・これらの関係総体を反映する河川の流入・流出量の経年変化データ、白い金の生産推移のデータ
☆などが埋め込まれていた。これはなるほど、地理だけの問題ではない。歴史や経済や自然科学の領域を越境する学際的なプログラムである。以前勤務されていた開成学園で地域学習を推進してきた生田先生の面目躍如のプログラムである。
☆そして、このような主題編成型タイプのプログラムは、生徒が他の現象や事象を学ぶときに応用できる。つまり学びの転移だ。これは、スプートニクショックの時に米国が編み出したブルーナーの構造主義的学習観である。すなわち、ピアジェ、ヴィゴツキー、デューイ、ブルーナー、シーモア・パパートという一連のコンストラクショニズムの系譜である。
☆もちろん、この原点は、3・11以降に蘇生したのと同質であるリスボン大地震のときに注目された啓蒙思想、特にルソーの思想に立ち返る。言語起源論がそれである。自然状態と社会状態をつなぐ言語がいかにして生まれたか。これは別角度から見ると、主題編成型の生田先生の新しい地理の学びそのものである。
☆フランス人、構造主義のレヴィ=ストロースが再発見したというから、生田先生のフランスでの学びともなるほど結びついている。ストラスブール第二大学は、歴史家マルク・ブロック大学とも呼ばれているが、ブロックのヨーロッパ中世史は、まさにルソー的だ。私の中世史観は、ブロックによるところが多い。
☆たいへん刺激を受けた再会であった。国際地理オリンピックは、日本でも行われるという。活躍されるこを大いに期待している。
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