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≪私学の系譜≫ ヴォーリズの意味[07]

☆今シリーズでは、ヴォーリズ→清水安三の流れをたどりながら、そこに多くの私学人がかかわっているのをみてきた。そして、その関わり合いを≪私学の系譜≫と呼んだ。

☆「系譜」と呼ぶと、直線的なイメージを浮かべるかもしれないが、ここでは、ヴォーリズの呼ぶように私学の精神としての細胞の分裂なのである。ボーリズや清水安三はクリスチャンだったから、その精神はキリスト教精神に由来するが、私学の精神はそれをも含む意味でのMFO(man for others)である。

☆そしてこのMFOを経済的に独立自尊の気概をもって普遍化するのが私学の精神の細胞であり、その細胞をあちこちに飛び火して生み出され関わり合うことが≪私学の系譜≫なのである。

☆かつて聖学院グループに招かれてスピーチをするときに、前々から聖学院の建物が一粒社ヴォーリズの建築事務所の設計だということが気になっていたので、その準備として近江に行って調べてみた。2009年3月のことである。

☆まずは近江兄弟社学園に隣接しているヴォーリズ記念館を訪れようとしたが、私の宿泊期間中NHKの撮影取材がはいっていて休館で、近江兄弟社学園の校長もその取材で忙しく私の訪問できる日には都合が合わないということだった。

☆そこで、近江の市立図書館に行ってみた。すると、そこにはヴォーリズ関連の図書の特設閲覧室があり、そこで情報を収集できた。今回このシリーズを書くときに参照したのは、近江兄弟社学園の元校長の佐々木伸尚先生の著書「今 生きるヴォーリズ精神」(晃洋書房 2005年)である。そのとき、ヴォーリズは内村鑑三と鈴木弼美と親しかったということも知った。自ら近江兄弟社学園を創ったが、その影響は内村鑑三を通して、鴎友学園女子に、鈴木弼美を通して、山形の基督教独立学園に及んでいる。細胞分裂型、あるいはハイパーリンク型の≪私学の系譜≫の広がりである。

☆ともあれ、聖学院が直接ヴォーリズと関係があったかどうかという点(とはいえ、聖学院の初代校長石川角次郎は、内村鑑三と同時代人であるから、どこかで接点があるはずである)ではなく、建築デザインには精神が宿るから、その精神と共鳴しなければヴォーリズの設計事務所が設計することにはならないはずである、それでは、その精神はいかなるものかと私に近江を訪ねさせることになったわけである。

☆そしてその≪私学の系譜≫の精神の細胞が聖学院でも生成されているのを確認したのである。しかし、2009年に訪ねて、いずれまとめようとしながら、まとまらなかった私に書いてみようと思わせたのは、今春就任した戸邉校長の存在である。

☆戸邉校長のことは就任以前から、聖学院の生徒から聞き及んでいた。というのもタイ研修というのがあって、そこに聖学院の生徒たちが毎冬訪れている。『タイ研修旅行』は、生徒たちには鮮烈な経験で、自己変革のきっかけになるほどだという。少数民族との交流や彼らの生活を支援するリーダーたちとの出会いは、多感な時期にいる彼らにとって大きな意味をもっている。

☆そのリーダーの一人に戸邉先生がいた。当時、戸邉先生は、聖学院の元中学部長で、メーコックファームをつくり、少数民族の子どもたちを支援したり、支援活動をする世界の若者のリーダーを育成したりしていたのである。

☆その支援活動の根本精神は、清水安三が中国で「工読女学校」を創設した時と同じである。そしてその根本精神に触れて自己変革にいたるのが聖学院の生徒だったのである。彼らの座談会のサイトから一部を紹介しよう。

川口君 ラオスで観光が済み、いざ船まで戻ろうとしたら、十数人の子どもたちが「お金をください」と懇願してきたんです。それはもうとても必死にお願いしていました。そのとき間違えてポケットから20バーツを出してしまい、そうしたら一斉にみんなが私のところに集まってきました。きっと私がお金をくれるだろうとカン違いしたのだと思います。そんな子どもたちのことをオチョクッタ形になってしまい、私は嫌な気分になりました。みんな必死にお願いしているのに、それに何もできない自分も嫌でした。

山口君 本当にショックでした。罪悪感みたいなものがこみ上げてきました。

秋田君 日本では見ることのない光景で、インパクトがありました。そして無力感にさいなまれもしました。

飯村君 ふだんは感じないけれど、エゴイズムを感じ、なんとかしなければと思いました。

山口校長 その痛みを感じたという体験は大切です。そこから何かが変わらなくてはというみなさんの想いも。神様も一緒にタイに行っていたのです。つねにあなたたちの顔を見ているのです。その先のみなさんの想いをもっと聞かせてください。

飯村君 たしかに本当にたいへんな現状だったのすが、その現状をなんとかしようとしている人や自分たちの文化の良さを世界に伝承しようというプロジェクトを実現している人たちに出会って感動しました。戸邉先生、アリアさんとかたくさんの人に話を聞くことができました。みんな自分の限界を作らない人たちで、尊敬しています。僕も、自分に満足しない大人になるということが大切だと思いました。そのためには「とにかく1つ夢を作る!!」ことだと思っています。

☆ここで登場している戸邉先生が、今春校長として就任したのである。タイで会った生徒たちも、以前のように戸邉爺と呼びながら、学べる聖学院で何かを強く感じているだろう。彼らの対話の中に、まさにMFOを経済的に独立自尊の気概をもって普遍化する意志を感じる。かくしての≪私学の系譜≫は今後も拡大していくのである。

☆普段はみることができない、その過程を垣間見ることができた瞬間、このことは書き記しておかねばと思ったのである。

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