グローバル人材教育研修会[03] IB vs. BC
☆その違いとは、カナダがグローバリゼーションの新たな経済の風を読んで、教育もその風に乗せたというベクトルとスイスのIB本部が、インターナショナリゼーションからグローバリゼーションに乗り換えるかどうか模索しているビジョンベクトルとの違いである。
☆今回のBC(ブリティッシュコロンビア州カリキュラム)の海外への拡大は、ある意味オープンソースの発想である。しかし、IBはグローバル人材教育における他ブランド淘汰戦略の発想である。
☆2008年のリーマンショック以降、グローバリゼーション市場は新たな方向に舵をきっている。それは、それぞれの国のソフトパワーを協力し合ってフレキシブルに市場を創出していこうという動きだ。
☆一方、アップルとサムソンの知的所有権の争いに象徴されるように、ブランドを守りながらブランドを拡大していく淘汰戦略も熾烈である。
☆前者を共創戦略、後者を淘汰戦略と呼ぶことにするが、この両戦略の違いは、実際には知的所有権を保守することに違いはないが、共創戦略は、コアの部分が変わらなければ、あとは自在に変わってもよいという柔軟な対応をするのに対し、淘汰戦略はブランドをライバルと協力してつくるという発想はない。あくまで市場シェアで優位に立たねばならない。優勝劣敗の発想が基本にある。
☆ところが、ブランドはコストがかかる。とくに教育のようなソフトの場合、もともと万民に平等にそして自由に与えられている基本的な権利が教育であるから、ブランド商品を販売していく市場とは質がまた違う。
☆だから、IBは、カリキュラムやテキスト、その学びの方法論、評価法についてはオープンではない。とくに評価法については評価している教師もわからないようにできている。高品質、高インパクトが教師によって流出しないようにできているのである。
☆高品質とはもちろん、教育や学びのレベルの高さとコンテンツが基本的にヨーロッパの文化教養そのものであるということ。高インパクトとは、IBの高校カリキュラムであるDPのハイスコアを取得すれば、世界ランキング50位以内の大学に進学できるチャンスが大であるということ。
☆しかし、この高品質と高インパクトを同様に持っている教育があったとしたらどうなのだろう。それはともかく、その一つが、今回おそらく本邦初公に紹介されたBCカリキュラムである。IBはもともと世界をターゲットに作られた機構であるのに対し、BCは文字通りブリティッシュコロンビア州の教育である。
☆それなのになぜ高品質、高インパクトなのか?それは、カナダは人口が少ない先進国である。そしてもともと多民族の資質がある。それゆえ、バンクーバーを中心に、中国や韓国からの企業が進出し、すでにグローバル都市だったということなのだ。東京もグローバル都市であるが、何せ官製であるから、そこが大きな違いである。それはともかく、BC州にはブリティッシュコロンビア大学という世界ランキングも高く、留学生で満たされている大学もあるから、グローバル人材教育の拠点でもある。
☆国家が前面に出るのではなく、欧米の伝統的な発想である市民社会が創出しているグローバル都市とグローバル大学が、その流れの中でBCカリキュラムを世界とシェアしようというのは必然である。それがBCカリキュラムの共創戦略なのである。
☆それに対しIBは、はじめから世界のノーブレスオブリージュというエスタブリッシュな人材をグローバル人材と想定して動いてきたグローバル教育、いやインターナショナルな教育なのである。本部がスイスにあるというのが、何より象徴的だし、機構ができたのは、日本の高度経済成長期でもあるということからそれは明らかだ。
☆淘汰戦略も改善を何度も迫られただろう。しかし、89年以降経済を支える柱にサイバー空間が加わった。ブランドアイデンティティの変容が迫られる大きな転換期にIB機構も直面したわけだ。
☆そこで、IB中国バージョンやIB日本語バージョンなど発行する事態になってきている。しかし、基本的にブランドアイデンティティは、リアルスペースで保証していく。日本の場合、IB認定校の教師は、たとえばシンガポールまで研修を定期的に受けにいかねばならない。
☆ところが、BCはランゲージ・アーツ(英語)の教師が、認定校に来るのである。あとは、ひと・もの・かね・情報が自由に行き来するグローバル経済の利点を柔軟に活用する。
☆グローバリゼーションは、高品質・高インパクトのサービスをリーズナブルなコストで、ステークホルダーの都合に柔軟に対応するコミュニケーション能力を稼働させるということなのである。ジェイムス博士が「柔軟」という日本語を多用していたのはそういうことなのだろう。
☆淘汰戦略と共創戦略という二つの経済潮流のうち、文科省が前者の優勝劣敗教育カリキュラムに与したのは、あまりに想定内ではないか。
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