広尾学園の奥行きの向こうに[04]
☆広尾学園は、言うまでもなく私立学校である。したがって、エンロールメント・ストラテジを遂行している。つまり理念やビジョンを重視しながらも、生徒を集める現実的マーケティングも行っている。最近では30%の大学でIRというものをやっているが、広尾学園ではすでに実現している。もっとも、私立中高一貫校でエンロールメントストラテジやIRをやっているところはほとんどない。ここに広尾学園のように勢いがある奥義があるにもかかわらずだ。
☆ともあれ、したがって、教育の理論と経営の倫理の両側面から見ていく必要がある。それは受験生やその保護者もそういう見方をしなければ、自分の子どもを守ることはできないだろう。この秋、そのトレーニングを広尾学園で、しておくとよいのではないだろうか。
☆たとえば、国語のシラバスであるが、オンライン・シラバスを同学園サイトでみると、なんだか大学進学実績の成果を上げるプログラムになっているように見える。しかし、学校説明会や文化祭「けやき祭」、教育空間のつくりをみると、20世紀型教育の結末である個人主義的成果主義ではなく、21世紀型教育の典型である他者のために貢献する高邁な精神を養うリベラルアーツがベースになっていることがわかる。
☆日本の教育はお金は汚いものであるというマルキスト的思想がまだぬぐいきれないから、世間も教育は経済とは無縁のものだとマインドセットされている。しかし、それは20世紀型教育である。軍事権力と経済が結びついた化石燃料型社会において教育がシェルターになってきたのだ。これは3・11以降、日本のみならず世界が反省している。
☆21世紀型教育は、経済と知性が結びつく社会(不思議なことに教師の多くが好きなイマニュエル・カントは、「永遠平和」で「お金」こそ平和であると言っているのだが・・・)で、それが平和をもたらすという教育で、教育も蚊帳の外ではない。安心安全なマーケットがあって、その利益が共通善によって公平に配分される社会には、軍事力はなくならないかもしれないが、メインストリームから退く。軍事力が軽減される社会は、もはや化石燃料の覇権をめぐる戦争やテロの社会を20世紀と比較にならないほど抑制する。もちろん戦争やテロが全くなくなるかと言うと、そうはならないだろうが。
☆だから、広尾学園を21世紀型教育のレンズで見るならば、国語のシラバスは、現代思想を中心に大学入試に対応できるようになっていると同時に、その入試問題の思考力のエッセンスを抽出し、それをディベートやプレゼンテーションに活かしていると認識するのが肝要なのである。
☆MARCH以上の大学が理由もわからずブランド名というだけで、進学させたいという永遠の未来にいる大衆がマーケットを作っている以上、その市場を無視するわけにはいかない。しかし、神奈川の栄光学園がいつも言っているように、そういう大衆富裕層や学歴エリートの子弟をノーブレス・オブリージュとしてのリーダーに変換するのが私立学校であるという使命を広尾学園も共有しているのである。何せ、江原素六と遊説していた板垣退助の学校であるのだから。
☆もっとも、中学受験生のうち20%から30%は、はじめから21世紀型教育志向だから、年々21世紀型教育を理解している意識の高い受験生や保護者が広尾学園を志望しているという。
☆この世界同時的経済危機において、中学受験生の数が減っている(大本営発表のように微増だとか微減だとか業界で語っているが、そんなことを言って、市場活性化の戦略を練り上げないと自分で首をしめるのに)わけであるが、そのうちの8,000人は、だからこそ、なんとか21世紀型教育を実践している学校を探しているから、広尾学園の人気の勢いは増すばかりだ。広尾学園には2,000人ぐらい受験するだろうが、8,000人の中の2,000人であり、まだまだ人気は続くだろう。
☆受験市場の中にわかりやすく21世紀型教育をアピールし、その実は≪私学の系譜≫の理解者8,000人を発掘しているわけである。マーケティングの世界では、これは、クオリティリサーチの方法論と呼ばれ、それにもとづいてデータマイニングを行っている起業家精神がサバイブの道を開いている。そしてこれが世界が熱望してるグローバル高度人材である。
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