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広尾学園の奥行きの向こうに[了]人気の秘密

☆広尾学園の勢いある人気。その秘密はエンロールメントストラテジであるが、その手法は80年代後半に静かに入ってきた手法ではない。この手法でしっかり人気を獲得し、ある一定の不動の地位を獲得しているのが渋谷教育学園である。その後、その手法については、それ以上でも以下でもないから、エントロピー増大組織であることは否めまい。

☆広尾学園は、95年以降の手法であり、最近の大学でIRと呼ばれている手法である。この手法を使うには、ICTが生徒の学校生活、自宅学習に血液のように循環していなくてはならない。多くの私立中高一貫校では、その発想がないし、かりにあってもコストの関係で二の足を踏む。市立の横浜サイエンスハイスクールが、教育の論理にそれを実行し、成果をあげ、世の中から注目浴びている。しかし、公立ゆえ、経済の倫理は不要であるから、意外と参考にならない。やはり広尾学園の研究が必要であるが、あれだけ、情報公開がされている広報活動がされていながら、肝心の部分はしっかり公開されていない。まったくもってさすがは戦略的である。

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☆しかしながら、インターナショナルクラスのシラバスと本科の英語のシラバスを比較すると、その秘密がおよそ推測できるのだ。たいていの場合は、ICTというと、PC、電子ボード、iPadを十全に活用することだと思われている。実際広尾学園のサイトでも、あらゆる教育活動で、生徒1人ひとりが所有し活用している。

☆だから、この感覚は決して間違いではない。しかし、ここは言論の自由を遊説していた板垣退助である。共に活動した麻布の創設者江原素六である。彼らの言説は、意識していたかどうかは、わからないが、J.J.ルソーの影響を否定できないから、パロールとラングである。なんでソシュールをはじめとする言語学に影響を受けた現代思想なのだ、時代が違うではないかと問われそうである。

☆実は現代思想に影響を与えた言語学の基礎もまたJ.J.ルソーの「言語起源論」にある。パロールは、思いの情熱ほとばしる言語。ラングは構造を冷徹に構築するロジカルな言語。この図式はすでにルソーが論じ、この言語の構造ベースに自然状態と国家が重なるのだ。広尾学園の広報活動で前面に露出されているICTの活用は、パロール的な記号として戦略的に大いに活用されているが、ラングの部分がもちろんあるのである。

☆そのことを意識しないで広尾学園に倣っても、パロール部分のICT活用のみで、教育活動の循環は起こらない。教育活動と循環しない、あるいはリンクしない、あるいは有機的に結合しない広報活動は、すぐにエントロピーはピーク。

☆では、ラング部分のICT活用とは何か?それは情報公開されていない。企業秘密なのだろう。知っているのは、当然学内関係者。教師、受験生、保護者のみである。しかし、インターナショナルクラスのシラバスと本科のシラバスを比較すれば、おおよその推理が成り立つ。というのは、インターナショナルクラスのページでQ&Aが公開されているが、その中に、つぎのようなものがある。

Q:海外の大学を目指す為の対策は何がありますか?

A:高校では、SAT対策・TOEFL対策も取り入れています。海外指定校としてカナダにあるマウントアリソン大学があり、その他の海外の大学も指定校として準備を進めております。

☆21世紀型教育を行っている学校やその教育に興味がある保護者はピンとくるだろう。ETSのサービスを活用しているのだと。すると、ICTを活用してIRが確かに可能になる。

☆インターナショナルクラスのシラバスの特色が象徴的に表現されているのが、学校案内の次の写真のページ。

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☆これを見て、ピンとくるかどうかが重要。学びの方法論と教授法の論理とプロジェクトチーム型組織というのが読み取れるだろうか。英米圏の大学を目指すならこの3要素が必要であり、この3要素の循環を裏付けるのがパロールとしてのICTのみならすラングとしてのICTのシステムである。

☆この3要素×ラングICTがあるから、学校が自前で、海外大学のキャリアガイダンスができる。たいていの学校は、これらが揃っていないから、生徒が自分で探して、苦労して海外大学に行くか、エージェントや√Hのような予備校を介して行くかなのである。開成、麻布、海城も海外大学を模索しているが、結局のところ生徒が個人でさっさと自分の力でやってしまう。だから、海外大学進学の道が大きなベクトルにならない。

☆ともあれ、広尾学園の場合は、この3要素×ラングICTが構築されているから、インターナショナルクラスの中3と高1のシラバスのパラダイム転換が起こるのである。中3のシラバスにはこう書いてある。

Students will be practicing the four skills of English: reading, writing, listening and speaking.

☆これは、まだ教授法のパラダイムである。ところが高1になると、

Activities in class will be content driven and the methods in which the content is studied will be wide ranging from teacher centered lecture style classes, to group activities, to individual research and study activities.

☆つまり教授法から学び法へのパラダイム転換が、シラバスの中で起こっているし、生徒自身も探求の姿勢の転換が起こっている。このシーンは、説明会やけやき祭、サイトを見れば見ることができる。しかし、このパラダイム転換が持続可能であるには、ラングとしてのICTの活用が必要なのだ。そんなシステムが本当にあるのか?それは、高1のシラバスからいよいよ登場してくる次の評価方法の文で明らかになる。

Assessment in the class will consist of both formative and summative assessment; formal and informal. Students’ skills of reading, writing, speaking and listening will each be assessed each term through written essays, tests, presentations and participation in group discussions and activities.

☆シラバス上は、本科のシラバスは、教授法が中心だし、summative assessmentが中心である。この差異が広尾学園の奥義なのである。

☆おそらく20世紀型教育のレンズでは、インターナショナルクラスは、パロール的なシラバスで、実質は本科がベースになっているのだろうという理解不足になる。

☆実質は逆である。きちんと本科とインターナショナルクラスの差異が明快だからこそ、生徒がそれを意識し、本科の生徒もインターナショナルクラスと同じような英語のレベルを目指すのである。

☆それを目指せるのは、パロールは明快な差異があるのだが、ラングとしてのICTシステムは同じだから可能なのである。現象の違いは、ストイックに軽んじるのではなく、むしろそれぞれのパトスを楽しむのが広尾学園。しかし、ミッションはラングとしては同じものをシェアしているのである。多様な個性と同じ教養をアイデンティティとして持てるシステムが広尾学園。

☆この美しく凄まじい言語構造のパワーを見抜いている中学受験塾は、SAPIXだけである。中学受験市場の活性化について、よく話題になっているが、広尾学園の奥義とそれをみぬく教務力を有しているSAPIXの頭脳をリサーチする必要があるだろう。

☆もっとも、いくらインタビューしても無理だろう。広尾学園の教務力とSAPIXの教務力が共鳴するところは、東大や麻布や開成とそっくりな模擬問題を、知の構造の内的連関まで読み切って作成する力があることであり、この力に挑戦したことのない情報屋がいくら取材しても、パロール以外に何も見えないだろう。どこかの偉い塾の総帥が、能書きはいらないと怒鳴って終わりだろう。だから、マーケットはフリーズするのだが。。。

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