変わる教育[20] ハーバード流講義形式授業!
☆エリック・マズールハーバード大学教授(物理学・応用物理学)が、20世紀型の講義形式がいかに情報伝達だけで、参加している学生に好奇心をインスパイア―できていないかを、講義形式の授業ワークショップで証明した。
☆関西FD連絡協議会、共同ワーキンググループの行う新任教員研修プログラム 「カンジュニ」でもあったので、意欲に満ちた現場の先生が、教員免許を持っていない物理学の教授に21世紀型講義を学ぶというのが実にパラドキシカルだった。
☆文科省の教員の資質向上を教員によってしようというプログラムとは大違いである。教員が教員によってというのは、それは沼にはまった人が、自分の髪の毛をひっぱってなんとか救われようと欲しているようなものであると実感。
☆それはともかく、ハーバード大学の教授は学生から評価を受けるし、講義の数が勝負である。したがって、講義が学生の好奇心をインスパイアーしなくてもよいというわけにはいかない。またある程度出席数を維持しなければならないから、PBLのような少人数型の学びをやることはできない。
☆20世紀型は講義形式、21世紀型はプロジェクト・ベースド・ラーンニグ(PBL)と言っていられない。形式は20世紀型講義形式でも、教師と学生の関係はPBLのようなインタラクションがなくてはならない。さて、このパラドクスをどう解くか?
☆それを講義形式の授業ワークショップで見事に解いたのがすばらしかった。
☆しかし、本当は、名講義というのは、昔から内的インタラクションが大いに作用していて、受動的に情報を伝達されているだけではなかった。したがって、マズール教授の本当の意図は、一人だろうが、ペアだろうが、チームだろうが、グループだろうが、集団だろうが、内発的モチベーションや思考が働くことが重要で、少人数スタイルかそうでないかは全く問題ではない。20世紀型教育のアポリアを21世紀型教育でもさらに包摂してしまう罠を明快に示してくれたのである。
☆逆に言えば、20世紀型講義形式に、21世紀型教育のエッセンスを内包することも可能であることを示唆してくれたのである。
☆それを証明するためにクリッカーを活用した。それがワークショップということ。なんだ協賛企業の販促セミナーだったのか、と思ってはならない。21世紀型教育は、教育の「論理」と経済の「倫理」が両輪なのである。これもまた興味深い仕掛けだった。というのも、20世紀型教育は、教育の「倫理」vs経済の「論理」という対立構造だったが、それを「倫理」と「論理」を入れ替えることによって共生を図ったのであるから。
☆さて、マズール教授は、参加者にまず、自分が得意なことをメモさせた。そして次に、それはどのように体得させたのか自己分析させた。そのうえで、次のような画像を見せた。
☆そしてクリッカーで選択ボタンを押すように指示した。すると、画面に1の試行錯誤や3の練習、4の徒弟主義などがぐんと高くなり、2の講義を選んだ参加者は圧倒的に少なかった。マズール教授は、かくして教え方としては効果のない講義形式の教え方を私たちは毎日していると。会場はドッと反応があった。
☆これで、今回の目的は達成された。たいへん長時間の研究会だったが、エッセンスはこの瞬間に共有できた。インタラクションのないはずの講義でインタラクションが起こったことが見える化された。
☆おおクリッカーということになりそうだが、いいや違う。この講義はクリッカーがなくても同じようにできる。しかし、そのインタラクションが内面に起きているのが、クリッカーという媒介=メディアがなければ映し出されないということなのである。
☆外から見ているだけでは、インタラクションが起きているかどうかがわからないだけなのに、講義形式の授業は20世紀型であるというのは、教育の「倫理」ではあっても、教育の「論理」ではないのである。それゆえ、マズール教授は、こういうのだ。
☆しかし、マズール教授は科学者である。見えないことを見える化するための証拠を示すという意味でテクノロジーは重要なのだと。その証拠の一つにMITメディアラボがリサーチした学生の日々の生活における皮膚電気活動の反応のデータを示した。
☆黒の線で囲んである時間帯はテレビをみているとき。赤で囲んでいる時間帯は講義を受けているとき。両方とも脳波は活性化していない。たしかに、多くの場合、どうやら講義形式の授業は一方通行的に情報伝達だけが行われていて、インタラクションではないということも事実である。
☆したがって、テクノロジーやイノベーションを巧みに活用すれば、油断して伝達型の講義形式になることを回避できるということだろう。
☆しかし、ここで最も重要なことは、脳を活性化するトリガークエスチョンの制作なのである。結局マズール教授は、ソクラテス型の問いを創発できるかどうかであると。
☆なるほど、今騒がれているIB(国際バカロレア)やそれに相当するイギリスのAレベル、アメリカのAP(アドバンス・プレイスメント)の問いの本質と通じるのである。問いのグローバルスタンダード。これが勘所である。
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