変わる教育[23] 聖学院インパクト
☆もともと潜在的にあるいは暗黙知として聖学院に有った「教職員と生徒の学びの思考システム」が有機的につながり、学院中にそのリンクが広がり深まっている。その思考システムのベースは、礼拝で世界の痛みを聴き取ることから始まる。ついに「聖書講話」に姜尚中氏が登場し、そのインパクトを学内外に発するところまできた。
☆このインパクトは「凄すぎる」。たしかに、近代官僚国家の正当化理論を日本近代ナショナリズムの基盤とした加藤弘之や法律進化論者たちと袂をわかった石川角次郎が初代校長として就任した聖学院のことだけはある。サイード的な近代批判の思考をもった姜尚中氏を招いたというのは、石川角次郎の精神を確認しようという覚悟だからであろう。
☆100年前の日本と今の日本は、優れて近代の問題であるナショナリズムの問題を克服していないというという点で同根である。戦後≪私学の系譜≫が叩いたはずのスキャパニーズ体制は脈々と続き、プチナショナリズムがネット内に溢れている昨今。姜尚中氏の講話は、あまりにインパクトがありすぎなのである。
☆なぜこのような世界の痛みを引き受けられるのかというと、それはすでに述べたようにサーバントリーダーシップというメンタルモデルと思考システムが顕在しているからである。その証拠の一つに、聖学院ではタイ研修旅行を実施している。そのプログラムや参加した在校生の座談会については、同校サイトで見ることができる。同校サイトの更新率が高すぎて、見つけるのは苦労するかもしれない(私にとってはネットサーフィンは楽しいのだが)ので、ご紹介しよう。
☆さて、このタイ研修の報告書が記念祭(文化祭:11月2日・3日)で販売される。売り上げは、世界の痛みを引き受けている青少年のために使われるそうだ。担当の伊藤先生いわく。
「聖学院中高タイ研修旅行」の報告書の編集をほぼ終えました。 レポートや感想文の他に、戸邉先生の講演やメーコックの子どもたちの紹介、旅の雰囲気を伝える紀行文など、いろいろな記事を載せました。 ボリュームも内容も、去年の報告書の2倍の出来です。
記念祭で販売し、収益をタイのメーコック財団に寄付します。 記念祭にお越しの際は、校長室と展示発表会場(本館4階)にお立ち寄りください。この写真はアカ族の村にホームステイしたときに撮影したものです。私も子どものころは、こんなにまっすぐにレンズを見つめていたのでしょうか?
この村には電気が通っていません。けれど、小さな太陽光パネルが入ってきて、少しだけ電化しています。アカ語しか分からない村人が多いなかで、ある生徒が泊まったお家にはiPhoneがあったそうです。国籍を持たない人も珍しくないのに、オーストラリアへ行ったことのある人もいました。小さな村の中に、大きな格差があるようです。
☆生徒と教師が、痛みをシェアしつつもクリティカルシンキングを忘れない。それが聖学院の思考システム。グローバルなサーバントリーダーを輩出する学校の教育の質である。この質は、先述した聴くトレーニングだけではなく、書く行為によっても担保されている。文章化システムとして、学校全体で取り組んでいる。これについても、同校サイトで発信されている。
☆聴く行為、書く行為とくれば、対話としてのチームワークの行為システムがあるはずだと想定したくなるだろう。何せ21世紀型教育を標榜している聖学院であるのだからと。そして、おっしゃる通りなのである。
☆論より証拠の一つが、たとえば数学の教え合いという協働学習(CLクラス)。学び合うというだけではなく、教え合うのである。未来の同窓力にもつながる小さく大きなインパクトを生む思考システムである。
☆文章行為やCLクラスのように、勉強面だけではない。上記写真も同校サイトで発信されているものであるが、記念祭の実行委員会のミーティングの様子である。プロジェクトマネジメントの手法を取り入れて、協力して自分たちで思考し、ビジョンを共有しリアルな市場計算をして企画を遂行しているのである。静電気で壁につくホワイトボードシートを貼りめぐらし、壁を思考の窓に変換している様子は、新しい思考システムの象徴でもある。
☆とにかく聖学院の男子生徒は、プレゼンが大好き。説明会のたびに、自分たちの学校の教育活動をプレゼンするポスターセッションを実行している。世界の子どもたちとダイバーシティな未来とつながる教育環境について受験生に呼びかけるのある。
☆その呼び覚ます声からは、サーバーントリーダーが有するパッションと冷静な知性の響きが伝わってくる。言うまでもなく、これは姜尚中氏のような本物知識人と共鳴するものである。この未来の人材を育成するための「チームワークとコミュニケーション」(そこからイノベーションと寛容性というグローバルリーダーに必要な資質が生まれてくるというのは世界の知性のコモンセンスである)の授業を体験できる。毎回学校説明会で「思考力セミナー」が実施される。ぜひ体験されてはいかがだろうか。
P.S.それにしても、聖学院のサイトを拝見するだけで、教育のWHATのみならず、教育のWHYも感じ取ることができる。ほとんどの学校サイト、特に大学サイトはそうだが、WHATの羅列サイトがあたかも情報をオープンにしていると思い込んでいる見識のなさの中で、聖学院中高のサイトは質といい、更新頻度の高さといい、肝が据わっていなければこんな表現はできない。教育を変えよう、社会を変えようという能書きWHATは満載だが、WHYが全く書かれていないものが多すぎる。
なぜそうなのか?簡単である。もともと教育の質がないからであろう。ドメスティックで金太郎アメの学習指導要領や就活基準に便乗している教育では、その質の違いを表現することは不可能なのである。
したがって、聖学院中高のサイトに学ぶコトは、サイトの仕掛けではない、そこで発信される教育の内容やその背景という質そのものに学べというコトに尽きる。シンプルに言えば、覚悟に学べというコト。
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