2013中学受験【11】 開成の存在理由②
☆高橋是清は幕末から戦争前夜まで生き抜いた。新しい国づくりの中で、国家と官僚と経済と教育の総合的な知力をフル回転させた。すべてのベクトルはぶつかり合っただろうが、それでもその中から一筋の道を見いだそうとしていた。
☆開成は戦争を、決して一つの思想で迎えたのではない。高橋是清の思想は、公正的経済だったに違いないが、その基準は百家争鳴で、混沌としていた。それを一つにしようという意志は高橋是清にはなかったに違いない。それぞれのベクトルが大きなベクトルをいずれつくるといいうのが、近代経済学の基本思想だからだ。
☆その絵図は、戦争当時の開成にも色濃く映し出されていた。強い官僚と軍隊こそが近代国家群の中で生き残る道だと青年町村金五は主張した。一方で町村の同級生にそんな国家は死滅するのだとポストモダニズムよりもずっと先を見てていた戸坂潤がいた。
☆町村は警視総監となり、戸坂は特高に捕えられ、獄死することになる。戸坂は自ら京都学派をプロデュースしつつ、西田幾多郎や田辺元の戦争に無力な観念論を批判した。戦後田辺元は、その批判に自ら懺悔道を書き応えた。これは、3・11以降に再び再検討され始めている未来の哲学でもある。
☆すぐ後輩には、田中美智太郎がいる。吉田茂、小泉信三とともに戦後の新たな道を拓くことになる。
☆町村金五のように国家の神義性に捕らわれた人材、戸坂潤のように神義性を否定した人材、田中美智太郎のようにロゴスに道を拓いた人材。高橋是清はどのような人材を夢見たのだろうか。その答えはまだ出されていない。
☆今ではリバタリアンかコンサバティブな価値観の持ち主がほとんどの開成の生徒だろう。彼らは神義性なき合理的官僚国家をも念頭においていないかもしれない。自己の道の成功だけが重要なのである。
☆正岡子規や秋山真之のように時代に翻弄されつつも、一筋の日本の歩むべき道を見いだすことよりも、いまここで自分が成功するという自己実現こそが優先される時代だ。それを是とするか、それを否定するか、それとも新たな道を創造するのか。
☆町村金五と戸坂潤が開成時代に青春の言論を交わしたような雰囲気はあるはずもない時代だが、開成の文化遺伝子の不易と流行に一縷の望みを持ちたいではないか。
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