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2013中学受験【29】 工学院大学附属中学校「挑戦・創造・貢献」

☆明治維新のときに大きなパラダイム転換が起きたのは周知の事実である。その表象は、法律の近代化、政治経済思想の近代化、産業の近代化となって現れた。しかし、歴史的に誰もが知っているように、近代の光ばかりではなく、影の面が噴出し、20世紀は大混乱の時代を乗り越えながら、近代のエントロピーは増大していった。

☆それゆえ、21世紀は、再び新しい近代の再構築が喫緊の課題であるが、糸口が見えない。いずれにしても、法律も政治経済もそして産業も新たなステージを模索している。それゆえ、そのパラダイム転換のインパクトの一翼である工学の新たな変貌に注目し、「変わる教育[29] 工学部が変わる 理系のパラダイム転換」を書いているわけだ。

Kogakuin

☆すでに「2013中学受験」シリーズで、工学系大学の付属中学である東京都市大付属中と芝浦工大中についてはご紹介した。ここで工学系大学の附属の中高で、最も伝統ある工学院大学附属中学について紹介したい。

☆今年、工学院大学は学園創立125周年を迎え、「学園125年史」を刊行した。これが537ページもの文字通りの意味でも圧巻で、読みごたえ充分である。

☆そして、発見も多い。創設者渡邉洪基は、明治4年に米国へ出発した岩倉具視使節団のメンバーである。このとき同行していたメンバーに山田顕義、津田梅子、そして通訳で新島襄が乗船している。そして、同年岩倉具視使節団より一足先に江原素六は、明治政府に米国に派遣されている。渡邉洪基をはじめ、みな≪私学の系譜≫の第一世代である。

☆渡邉洪基は、当時の帝国大学の初代総長で、そこから数えて現在の東大総長濱田教授は29代であるから、連綿と歴史は続いているわけだ。重要なことは、総長時代の東大はその前からあり、その当時は総長は総理と呼ばれている。その初代総理が加藤弘之で、こちらは≪官学の系譜≫のルーツである。

☆≪私学の系譜≫を明確に継承した総長としては、戦後教育基本法成立に尽力した第15代 南原繁、第16代 矢内原忠雄 がいる。かれらは官学出身であるが、≪私学の系譜≫の第二世代の内村鑑三の弟子で、その理念やイデーを教育に盛り込んだ。

☆時代は戻るが、渡邉洪基は、優勝劣敗型の近代化を推進した加藤弘之とは一線を画しつつも、必ずしも江原素六や新島襄のような反官学の立場はとらなかっただろうが、「忘れられた知の巨人」と呼ばれているところからも明らかなように、優勝劣敗型の近代化路線に与しなかったことと推察できる。

☆「学園125年史」は、≪私学の系譜≫とか≪官学の系譜≫とかの視点では書かれていないから、定かではないが、歴史は未来から評価される一面もあるわけだから、21世紀型教育という視点からはやはり≪私学の系譜≫に立っていたと思われる。

☆というのも、工学院の端緒は「工手学校」から展開されるからである。「工手」とは、いわゆる職人ではない。現場監督でもない。工学研究者でもない。土木政策者でもない。つまり、専門知でもなく政策知でもなく、今で言うなれば「創造知」である。

☆現場で創意工夫をしながら、職人や労働者とモノづくりの組織を運営していく役割である。日本の20世紀という近代産業を支えてきた縁の下の力持ちなのである。

☆ところが、21世紀はというと、この縁の下の力持ちが、ICTやネットという「縁」を活用し、知と人材と多様なリソースを結びつけ、新たなモノづくりの生態系を構築するクリエイティブクラスになるときが来たのである。

☆クリエイティブクラスとは、クリエイティブピープルとはまた違う。それ以上の役割を果たす。つまり、ジョブスやビル・ゲイツのように資金調達も経営もアイデアもトータルに世に訴求する人材であり、欧米では新たな産業として産業人口の40%くらいシェアするようになっているという。

☆リチャード・フロリダ(トロント大学の都市社会学者)によると、日本はクリエイティブピープルはたくさんいるが、つまり工手はたくさんいるが、まだクリエイティブクラスに成長していないと。逆に言えば、工手からクリエイティブクラスにシフトする時代がやってきているということであり、その広がりを実現するのが工学院だということだろう。ただ、リチャードフロリダの言うクリエイティブクラスとは、ピンとこない側面もある。むしろクリエイティブリーダーと呼んだ方がわかりやすいかもしれない。

☆ともあれ、工学院が実際に、グローバルエンジニアリング学部、情報学部、建築学部を次々と新設していることは、そのパラダイム転換を予告しているということだろう。

☆日本は少子高齢化であるが、一方で世界は70億人時代に突入している。そのとき都市は今のままではパンクしてしまう。新たな都市デザインが必要になるとは国連のテーマでもある。

☆政財官学は、グローバル人材という経済で活躍する人材育成に躍起となっているが、実際にはクリエイティブリーダーの育成も重要である。しかし、後者の育成プログラムは、工学的ツールが必要である。中等教育段階の実験室レベルのツールは、おそらく役に立たない。そういう意味でも工学院の中高一貫教育には期待がかかる。

☆工学院中高の校訓は「挑戦・創造・貢献」である。筑駒と同じである。20世紀末に中学が再開されたが、その経緯の中で、この校訓が確立されたようだ。その再開された中学の二代目校長が、城戸先生で、筑駒の副校長だったという理由もあるのではないだろうか。私の私立学校研究の活動は、1998年から始まるが、そのスタートである一泊二日のセミナーに参加してくださり、そのとき大いに教えを請うた。その後もファックスで、何度もゆるやかな私立学校の協働態形成のための趣意書の添削をしてくださったが、不肖の弟子として呆れられてしまった。しかし、今尚細々ではあるが、しつこく、≪私学の系譜≫を追跡する活動をしているのは、城戸先生との出会いなくしてなかっただろうと、125年史を読みながら感慨にひたった。

☆もうしばらく125年史を読んで、また感想を書きたい。

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