« 2013中学受験【42】 かえつ有明の勢い増す | トップページ | 2013中学受験【44】 栄東 アクティブラーニング »

2013中学受験【43】 2人の栄光出身者が語るクリエイティブクラスの知

☆日経ビジネスONLINE(2012年12月13日)の記事≪災害に直面する日本が生み出した「仮の住まい」とは?世界遺産・下鴨神社で『方丈記』から考える(1)≫がおもしろい。脳科学者養老孟司さんと建築家隈研吾さんの対話編である。

☆両人とも栄光学園・東大出身。あまりに有名だからこれ以上プロフィールを紹介する必要はあるまい。おもしろいのは、解剖学や脳科学と建築学が同構造の考え方や価値観で語られているところである。それは東大で研究して帰結したというより、おそらく栄光時代に養われたベースに違いない。

☆栄光の中学入試問題を見れば一目瞭然であるが、とにかく横断的というか学際的な知性を問う問題がベースである。難しい知識を入試問題に並べることはないが、知識と知識のリンクの広がりと深さはすさまじい。当たり前のことや先入観をひっくり返したり打ち砕き、新しい価値観や考え方が拓かれていく思考のプロセスを大事にしたすてきな問題である。

☆入試問題は学校の顔とは栄光のためにあるようなものであるが、その名の通り、6年間の教育は、学際的なものなのである。イエズス会の伝統的なリベラルアーツのシステムである。だから、その学際的な結びつきやリンクが見えない青春時代には、理不尽だと思うことも多いのだと、どこかで養老孟司さんが語っていたのを憶えている。

☆栄光出身者の2人の学者が対話をして、自然や社会そして精神が要素還元主義的な機械論ではなく、生物的分子化学的循環としてつながっているという発想は、研究の結果ではなく、価値観である。要素還元主義的な科学者もいるし、関係総体主義的な科学者もいる。両者は研究対象や手順が同じであれば、価値観は違っても協力できるのである。それが科学であり、科学コミュニケーションの重要なところだ。

☆だから、今回の様に同じ価値観をベースにそれぞれの研究領域に進んでいるというのは、意外と意外なのである。このような生き方に関するベースは、思春期時代に構築されたと考えるのが自然のような気がする。我田引水、独断と偏見というような誹りをうけるかもしれないが、このブログはもともとそうなのだからご容赦いただきたい。

☆また枕が長くなったが、さて、話の発端は、今年は鴨長明が『方丈記』を執筆してから800年。下鴨神社の境内摂社である河合神社の神官の子として生まれた鴨長明は、その晩年、約3メートル四方の庵「方丈」で暮らしていた。その方丈の現代版を建築家の隈研吾さんが、世界遺産である下鴨神社の敷地内に建てたというところから。

☆隈研吾さんは、ETFEというプラスチックの一種の特別な透明の膜を木の棒で挟んで、磁石で固定しえt方丈を作成した。このETFEは、ヨーロッパの新しい駅舎では、天井などに使われているし、ETFTをダブルで使って、間に空気層をはさむと、ガラスよりも熱性能がいいということ。それに木の棒には北山杉をつかい、シンプルな人工的な佇まいでも、目を閉じればよい香りがして、テクノロジーと自然が精神と融和するということのようだ。

☆このテクノロジーを生んだ社会とそれを巧みに必要とする自然と人間の精神の循環を、方丈記の思想や平家物語の価値観、福岡伸一さんの「動的平衡」の発想に共通項として見いだしていく対話篇はスリリングである。

☆そして、この発想こそ1963年に大地震があって、何万人もの人が亡くなったマケドニア復興に大いに貢献したのだと隈研吾さん。その地震の復興の時に、国際コンペで日本の丹下健三が当選した。広島に原爆が落とされた後、広島の平和記念公園を作ったのが丹下健三だったからという言うことだが、街の大きな構造も、駅も、丹下健三のマスタープラン通りにできているのに驚いたようだ。

☆この丹下健三の発想は、弟子の黒川紀章さんの活躍で「メタボリズム運動」というムーブメントとして広がったと。メタボリズムというのは、今で言う、肥満のお腹のことではなく、生物の新陳代謝を意味する。

☆ここにきて、あらゆるものは流れゆく。にもかかかわらず不変に見えるというパラドキシカルな自然と社会と精神の循環について対話は昇華していくのである。≪私学の系譜≫の面目躍如たる対話である。

☆というのも不易流行という言葉の意味そのものの話でもあるからだ。不易流行とは、不変の部分と変わる部分ととらえられがちであるが、すべては変わりゆくがその姿は変わらないということなのである。

☆隈研吾さんは、東京駅の駅舎の事も話題に出した。今回復元されたのだが、東京駅は今までもずっとどこか工事がされており、体質改善されてきているのだと。

Pc100379

☆それをうけて、養老孟司さんは、生物の細胞も同じであり、人間の細胞もどんどん新陳代謝して新しくなっていく。すべてが新しい細胞で入れ替わる。しかし、一人一人の人間のアイデンティティは存在している。不変かどうかはわからないけれどと。

☆不変なるものは死滅し、変わりゆくものは生を息吹く。この考え方は実に自然である。養老孟司さんは、さらに丸山真男の古事記と日本書紀の研究を引合いにだし、両方に使われている言葉のうち最も多いキーワードは「なる」という言葉で、これは新陳代謝の循環の発想の原点であるという考え方を披露。

☆このような学際知の蓄積が栄光にはたしかにある。クリエイティブクラスの金脈は、栄光のような私立学校に埋蔵されている。この金脈はお金ということではない。価値あるものということである。

☆隈研吾さんは、丹下健三の原爆と地震による被災地を復興する知を世界に役立てるために奔走している。もちろん東北の被災地にも復興尽力をしている。今はさらに、アルバニア、コソボ、マケドニアという紛争地帯をリサーチし、クロアチアに行ってきたということだ。あの辺の国々がこれからEUに加盟していくという動きの中で、どの国が一番先に入るかの競争をしているのだが、EUに入るには街並みや建築を整備していかなければならない。そのアドバイスをしに行ってきたようだ。

☆EUの動きは、ユーロ危機の話ばかり注目されるが、そもそも20世紀のあの二つの世界大戦からヨーロッパがどのように復興していくかというテーマがベースである。その戦争は自由・平等・博愛を生んだ近代の自然や人々をズタズタにしてきたヤヌスの側面から生まれてきた。

☆その矛盾は、今もいろいろなところで爆発している。ヒロシマ―フクシマはその矛盾に立ち臨む出来事として、クリエイティブクラスの知性は問い返しつづけ、復興の知恵を生み出していく。隈研吾さんや養老孟司さんのように。

|

« 2013中学受験【42】 かえつ有明の勢い増す | トップページ | 2013中学受験【44】 栄東 アクティブラーニング »

中学入試」カテゴリの記事