グローバル人材育成のための教育情報センター 上智大発 セミナーメモ
☆いずれにしても、文科省が登場ということは、この間のグローバル人材育成のコンセプトを政財官学で具体的に展開していこう、そのための支援センターということだろう。
☆小学校から大学、社会まで英語教育を広め改善に尽力してきた吉田研作教授がまず基調講演。「日本のグローバル化と外国語教育」というテーマ。
☆日本のiBTのアジアランキングをまず示して、いかに日本の英語養育の弱さが目立つか確認。英語だけではなく、IMD世界競争力においても、2011年は27位。いろいろな側面で外から見て日本の力は弱くなっているということがわかるはずと。
☆さらに具体的に英語力の実態をみてみると、ビジネス英語で、複雑な交渉ができる英語力を持っていない。一方、隣国はそこまで到達している。英語による発信力も強くない。
☆海外からの留学生も2004年をピークにどんどん減っているというグラフも提示。3か月以上の高校生の留学の数も減っている。文科省も高校生の留学に力を入れざるを得ない状況であるのを裏付けている推移。
☆しかし、根本的には留学したいというモチベーションの問題が重要。その意識が低いのも統計的に証明されている。中学生は、英語を勉強すれば、大学入試や就職に役立つと思っているが、英語をつかって仕事をする志向性は低い。
☆これについて、吉田教授は、さらにモチベーションの問題というよりも、英語力が弱いことによる自信のなさを示唆していると考えるべきだろうと。
☆ショッキングなことに、新入社員の海外勤務に対する意欲のなさのデータを披露。中学生から社会人まで内向き志向。それはやはり英語力に対する自信がないということだろうと。
☆英語ができれば、海外で周りの情報がわかる。しかし、たとえば、海外の飛行場で英語ができなければ、簡単な情報も取得できないから不安になる。その小さな不安がいろいろなところで膨らむわけだから、内向きになるのは当然である。
☆今回の講演では、グローバル人材の定義やねらいは、「グローバル人材育成推進会議」の報告書をベースにしている。今の時代のグローバル人材観を確認しておくことにとどめていたようだった。だから、グローバル人材とはクリエイティブクラスとは重なるが違う概念であるということには触れられなかった。セミナー参加者のニーズや意識のばらつきを考慮したのだろう。
☆ともあれ、よく言われることであるが、内向き志向を外向き志向に転換するには、大学入試や大学教育を変えて行く必要は確かにあると。
☆以上のような日本の英語教育の状況を改善するために、「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」を提出する予定。
☆タイワンのペアワークやグループワークは、日本とは違う。タイワンは、議論をしたり、自分たちの考えを根拠づけて語り合う。日本は、英語の決まり文句を互いに言い合って覚えているだけ。
☆ブルームの認知能力のタキソノミーでいえば、タイワンは高次レベルの能力を鍛えるのがタイワンのグループワーク。日本は低次レベルの能力をトレーニングすることをペアワークやグループワーク、コミュニカティブと呼んでいる。
☆英語教育改善とは、形式としての教育ではなく、能力の内容を高次化するというところに着目しなければ意味がない。そこが提言の肝。(しかし、第Ⅱ部のパネルディスカッションでは、この差は明確に意識されていなかったし、そのとき吉田教授はすでにいらっしゃらなかった。つまり、吉田教授以外の論者はまだ本質的なものを見ようとしていない。存在に帰還できない現存在の迷走といった実体が映し出されたのは興味深かった。結局最後は、理事たちの関係社の商品販促セミナーになっていたのは、実存的頽落であって、あまりに人間的な!)
☆ともあれ、その本質的な肝を大前提として、吉田教授は提案された。
1 英語教員指導力強化のため、実際の授業を収録したDVDを作成・配布・・・。
2 国際性を育てるために必要な英語によるコミュニケーション能力や国際感覚の育成などに取り組むスーパーサイエンスハイスクールの取組を推進する。IBレベルの教育を行っている学校の取り組み推進。(大事なのは、あくまでIBレベルの内容であり、IBのディプロマそのものを実行するわけではない)北軽の私立学校の例などを挙げる。
3 外部テストの活用(学習指導要領の改訂に合わせて大学入試の内容も変える。たとえば、外部テストを導入する)
・TOEFL/IELTS
・TOEIC
・英検
・GTEC for Students
・TOEFL Junior
・アカデミック英語能力判定試験(TEAP):上智大学が英検協会とコラボして開発。
4 Multilingualism 移民の人は、日常生活から仕事、教育のあらゆる場面で英語ができなければ生きていけない。つまりいくつもの「母語」が存在する状態の中で必要な言語力。このような言語習得環境を意識する。
5 Plurilingualism これは母語としてではなく、仕事として必要。英語は道具的なものに過ぎない。
☆この違いを意識しなければ、英語教育のねらいがズレるということだろう。Multilingualismという発想の英語のテストが多い。これでは、挫折する可能性が高い。そんなに簡単にネイティブ並みの英語力など身につかないのだから、道具観的英語力でよい。その考え方がPlurilingualismで、最近ヨーロッパはこの傾向。日本もこれをモデルにするのが得策ではないか。それが自信を持てる契機である。この違いを意識して英語教育を考え直していきたい。
☆あくまで国際共通語としての英語とこだわっている。実際、カンボジアで英語を教えているのは、この発想の実践。ネイティブスピーカーよりも同じアジア人で、英語習得に成功した人材から学びたいというニーズがあるということ。
☆この吉田教授の発想とそれを実践している英語教育プログラムは、生徒や学生の英語学習観を変え、エンパワーすることだろう。今後このセンターの活躍に期待したい。
☆基調講演の2人めは、GEIC理事でワールドクリエイティブエデュケーションCEOの後藤敏夫氏。テーマは「世界を席巻するIB教育」。後藤氏はシンガポールを拠点にグローバルにビジネスを展開している。そこで、シンガポールから見たグローバル教育を語る。グローバル資本主義で日本がいかに負けこんでいるかというリアルな事態を前提にしているから、教育関係者には新鮮だったのではないか。
☆世界ではIBディプロマを取得している学校が多いのに、日本はその3%くらいしかシェアできていない。文科省の方がんばってくださいとエールを送っていたが、こういう言説は教育関係者でないがゆえに、ストレートに言えるのだろう。そういうシーンも新鮮だった。
☆今年9月21日(金)、こどもの城研修室で、一般財団法人日本私学教育研究所主宰の「グローバル人材育成教育研修」が行われたが、そのときにすでに後藤氏は同じ趣旨の講演を行った。そのときと同じように、日本の英語教育という枠を超えて、教育の危機に警鐘を鳴らす。
参照記事)→グローバル人材教育研修会[04] IB vs. BC ②
☆日本の教育に比べ、IBディプロマの優位性は、デュアル・エンロールメント。日本の高大連携という脆弱な制度とはまったく違う。なぜ日本では、IBやAP、Aレベルのようなデュアル・エンロールメントが出来ないか?
☆後藤氏は丁寧に話をされていたが、そこよりもシンガポールのダイバーシティがいかに大学やビジネスにおいて経済力に大きな影響を与えているか、それに比べ日本はモノトーンで、経済力を衰退させているという話で危機感を煽る話に移ってしまったので、残念ながら本質は少し表に顔を出したが、すぐに隠れてしまった。オシイ。現存在は、存在への道を拓く重要なキーなのであるが、自らのパスワードを知らない。実存の中でそのパスワードを探しながら、道に迷う。経済競争という他者への配慮が、存在の関心を減退させる。存在の故郷に帰還できずに頽落してしまいがち。それがまた実存の辛さであり人間らしさである。
☆グローバル人材とは、そこを軌道修正する光と自らなることである。クリスマスを迎えるに当たりそんなことを考えながら聞いていた。
☆それはさておき、IBレベルの教育でよいとする文科省。実は、IBディプロマを取得するのではなく、そのレベルを取り入れるという、まさに長崎の出島で、西洋文化を和洋折衷した方法論を採用することによって、最も大事な要素を、日本の教育制度の都合に合わせて取り除いているのだ。そのことが明らかになったのは、参加した意味が大いにあったというものだ。かくして日本の教育に育てられる現存は実存の中でもがき悩み自信喪失という不安を回避できないまま、みせかけの安心という壁の内側で、存在を見失うというリスクを負うのである。
☆吉田研作教授はそこに警鐘を鳴らし、自らもカンボジアで学生といっしょに新しい英語教育を行っている。あたかも迷走する現存在を存在に導くかのように。がしかし、多くの日本人には、関係者も含めて、存在の響きを聴くことができないようである。何せ世界経済の中で勝ち抜くぞという優勝劣敗発想の騒音が大きすぎるのである。。。。。。
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