変わるか教育[05] 一橋大の入試問題が示唆するコト
☆今年の一橋大の国語の入試問題は、現代文が2題に、明治の文語文が1題。一つは89年に転換した世界のパラダイムの全体が、89年前と以降の世界地図を見ると、俯瞰できるという地図を媒体とした世界認識論。
☆もう一つは、科学と宗教・哲学の関係について、そして三つ目は、椹木野衣さんの芸術論。
☆問題そのものは、せいぜい200字の要約が大きな問いで、他は記述とはいえ、読解問題。特に面白い点はないが、テキストのテーマは、一橋大のグローバル戦略が反映したものばかり。
☆実は英語も、オークションや市場経済がトピックになっているテキストが選択されているから、それは同じなのだろう。
☆これは、今さかんに文科省が注目しているIBのTOKプログラムが取り扱うテーマに対応してもいる。やはりグローバルリーダー育成を意識してのことなのだろうか。
☆このことは一橋大の帰国生対象の入試問題をみると、ある程度納得できる。今年の一橋大の小論文は、フェルナン・ブローデルの「歴史入門」(市場経済と資本主義の興亡史で、経済文化がベースの歴史)からテキストが提示されている。
☆それをきっかけに、まずは牧歌的市場経済と資本主義経済の差異を考察する。次に、その差異が生み出す、スペイン→オランダ→イギリス→米国→・・・と続くダイナミックな歴史の中心遷移について考察。最終的にはそのダイナミックな興亡過程を通して、政治的自由と経済的自由の諸関係を考えるという問題。問題視点のベースはすでに紹介している東大の帰国生対象の小論文問題と同じ。
☆一般生の問題とかなり知的作業の差がありすぎる。これでは、一橋大学が全学部・大学院を挙げてグローバルマーケティングだ、グローバルガバナンスだ、グローバルリーダーだと喧伝しても、一般生ではすぐについていくのは大変である。そこで、せめて読んでくるテキストだけでもTOKレベルをということなのだろう。
☆帰国生が大学受験のために日本に帰ってくるのは6月末あたりから。9月になると私大の帰国生入試があるから、それにむけての時間のゆとりはない。それでも小論文の基礎として、サンデル教授の正義論や医療倫理の本の読書会はする。それをベースに東大の帰国生の過去問を考えていく。東大の問題はテキストがなく、問いかけだけで、過去にさかのぼると、結果的に政治経済、法律、文化、国際関係、哲学など重要問題について一通り考えることになるのである。
☆早稲田や上智、慶応大に合格したメンバーは、東大や一橋を受験する準備を合格発表後から行うが、9月からは比較的時間的余裕がある。すでに私大に向けて基礎的問題関しては思考をめぐらしてきたからだ。そこで、アダムスミスとJ.J.ルソーについて書かれている新書の読書会と1689年、1789年、1889年、1989年、2089年というエポックで、グローバルな宗教改革・産業革命・大航海・市民革命・情報革命の関係について議論をしていく。5つの89年問題と呼んでいるが。
☆そのときサンデル教授の本はなかなか役に立つ。今回の一橋のブローデルの問題も、アリストテレスの交換の正義と配分の正義の未分化→分離→相乗関係→乖離などのフェーズに分けて歴史が動いていることを論じてきたことの応用だし、アダムスミスの国富論と道徳感情論の関係について議論してきたことと重なるからだ。
☆今回の問題はむしろ価格や利益の問題で、正義や道徳は関係ないのではないか?と言われるかもしれないが、正義や道徳という日本語訳が問題で、正義や道徳は、もともと商品の価格などの正当性の「基準」の話しなのである。
☆昨今の金融経済でも規制か自由かというのは話題であり、基準の公平性が常に問題になっているのである。
☆金や銀本位が変動制相場に変遷していく歴史は、遠く中世の都市経済→大航海時代→産業革命→・・・・と見通すことが出来るから、結局は今回の問題と同じわけだが、そういうことについても議論しているのが帰国生の国立大学の入試対策の学びである。
☆その同じ時期に一般生はどういう入試対策をしているのだろうか。説明するまでもないだろう。議論や読書会などしている暇はない。しかし、この数カ月の学びの差異が、大学に入ってから大きな格差を生むのである。
☆この格差が、ドメスティックな知とグローバルな知の格差に相関していることについて推測することは容易であろう。
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