学校選択の季節 <2>
☆前回「学校選択の季節」で、私立学校の質の違いは7つの視点でみてみるとわかると述べた。今回はそこをウダウダ述べてみよう。
☆建学の精神は、基本man for othersの内容が多いが、中には武蔵や桜蔭のように個人の才能が前面に出るところもある。もちろん、利己主義ではない。まずは一身独立して国家は独立するということだろう。国家から考えるのではなく、個人から考えるだとしたら、かなり新しい感覚だが、そこをとらえ返しているかどうかはわからない。
☆この両校は、基本生徒自身が考えるから、学校の教育影響力はあまりないかもしれない。学校が無関心ということではもちろんない。生徒が学校を超えてしまうのである。これは筑駒にも似た感覚がある。
☆先進性という点では、なんといってもサバイバルスキルを育成しているかどうか。サバイバルというと自分のことしか考えていないように思えるが、そうではない。いかなる事態が起きても、動揺せずに、仲間を光の方向に導けるリーダーシップ、チームワークを組み立てる力、メンター力、コミュニケーション能力のこと。このようなサバイバルスキルを育成するプログラムを明快に持ているところはどこかということ。
☆多様性という点では、国際交流や留学生の受け入れということもあるが、学校の外の機関や人材との交流・コラボレーションを意味する。排他的でないということか。
☆柔軟性というという点は、実際にはみえにくい。かなり内部の問題だからである。ただ、出会った教師と話してみて、定義にこだわったり、言葉尻にこだわったり、要は言葉を拓くことができない教師が多いと柔軟性の雰囲気がおそらく学内にない。一見関係ないことも、リンクできる地頭がある教師が多い学校はたしかに雰囲気がよい。
☆このリンクができる思考をメタファ思考とかレトリック思考とかいう。大学入試ではおそらくタブー。論理的思考だ!と柔軟でない話になる。しかし、麻布学園のようにメタファも論理的に読み取れるとさらりと言えてしまえる柔軟な教師がいる学校は、やっぱり魅力的じゃないか。
☆社会性は、意外とわかりやすい。ウェルカムの心、おもてなしの精神、ホスピタリティがある学校とそうでない学校とでは、学校の成長速度に大きな違いがでている。社会性に満ちている学校の代表格といえば、もうすぐにわかるだろう。
☆国際性というのは、実はわかりにくい。国際教育をやっているのだが、グローバル教育はやっていないということがあるからだ。この差異を知るにはどうしたらよいのだろう。一つは6ヶ月以上の留学の制度があるか。英検なら1級、iBTなら80以上、IELTSなら5.5以上のスコアを取得する生徒が毎年複数存在するとなれば、グローバル教育の片鱗がみえる。
☆海外大学に毎年5人以上進学していれば、グローバル教育がおそらくあるだろう。
☆決定的なのは、IBのディプロマのプログラムの一つであるTOKという哲学授業が行われているかどうか。それは英語でも日本語でもフランス語でもよい。つまりリベラルアーツ!この哲学対話ができなければ、語学のスキルが優れていても、ナチュラルなグローバル人材にはなれない。企業や官僚におけるタイトルグローバル人材にはなれても。もっともそれで充分であるかもしれないが。。。
☆責任感とは、≪官学の系譜≫に対し≪私学の系譜≫を前面に対峙できるかである。偏差値や大学進学実績を、公立高校と競い合ているようでは、優勝劣敗という≪官学の系譜≫を後押しするようなものである。序列をつくって、格差を広げてということに対しては、≪私学の系譜≫としては、権利のための闘争を知的にしかけねばならないだろう。
☆そんな学校はあるのか?江原素六の系譜、福沢諭吉の系譜、ヴォーリズの系譜、内村鑑三の系譜、新渡戸稲造の系譜、石川角次郎の系譜の学校は、今でも闘っている。
☆ただし、≪私学の系譜≫は社会主義的民主主義あるいは社会主義の立場はとらない。新自由主義の極みに達してしまう資本主義でもない。芥川龍之介の時代は、このどちらかの発想しかなかったから、龍之介は苦悶した。大親友の偉大な法哲学者恒藤恭にどんなに社会の構造について夜を徹して話してもらっても、龍之介はしっくりこなかった。それで自殺したかどうかはわからない。
☆しかし、≪私学の系譜≫は、明治時代当初から、新しい民主主義、新しい資本主義を模索している。実業家経済学者であるシルビオ・ゲゼルの考え方がヒントかもしれない。13世紀中世ヨーロッパの都市経済の公正価格問題の考え方にもヒントがあるかもしれない。ここはシュンペータ―も触れている。
☆先見性とは、最近で言えば、2030年には現在の仕事の65%はなくなると言われているのだから、「職業選択」のキャリアデザインではなく、「職業創造」のキャリアデザインをやっているということだろう。リクルートのキャリアガイダンスという雑誌がおもしろいのは、90%は「職業選択」の話題満載だが、10%はきちんと「職業創造」の論考を忍ばせている。先見性はその10%にあるのだ。そういう意味では、グローバル教育とイノベーション教育ということ。
☆グローバル教育については、先に触れたので、ここではイノベーション教育について少し触れよう。すぐにICTとなるが、それは結果的にそうであって、アイデアの革新ということ。知識の創造ということ。このためにICTを利用しているかということ。Moodle活用してますという話題がでたら、これは相当本格的にICTを活用している可能性がある。
☆しかし、Moodleをどのように活用しているかだ。「CEFR」の規準で生徒が自己評価できるようにしていますなんて回答がでてきたら、本当に先見性がある学校だと思う。そんな学校はまだ1校しか知らないが。
☆さて、ここまでの質の違いの話は、あくまでゆるやかな理念共同体としての私学間の話で、質の違いのどれを選択するかは、志向性/嗜好性の問題である。しかし、もう一つ質の違いがある。それは、ゆるやかな理念共同体の質の差異は共通の時空での話であるが、時間軸に沿って質の違いを考える必要もある。この時間軸に沿って質の違いを考えるとゆるやかな理念共同体ではなく、「未来を拓く私学か」「未来に抵抗する私学か」という明確な差異が顕在化してしまう。
☆これについては、まずは、明日のフォーラムでゆるやかな共同体としての私学の質感を感じていただいてから、考えてみることにする。気づきがまずは大事であるので。
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