図書館が日本の教育を変える
☆その図書館革命の啓蒙書が、上記写真の本。この本を読んで驚きなのは、高校生の思考力をどのように稼働させるのか、その方法がわかりやすく書かれている。
☆米国の図書館情報やメディアのリテラシーの方法論であるBIG6やカナダの探究モデルを参考にしながら、生徒の思考の発達段階というより最近接発達領域のスパイラル発達モデルに再構築して考案されている。
☆本書の図をアレンジするとこんな感じ。
☆本書の優れたところは、探究するということは与えられた課題から出発するのではなく、課題そのものを問いとして生み出そうというところから始まっているところだ。問いの生成部分に70%のページを割いている。これは驚愕・感銘・衝撃。
☆というのも20世紀型の教育は、問題も解答もすべて授業の中で教えられてきた。練習問題でトレーニングするが、それは解き方の記憶にすぎず、自分で考えるトレーニングをしてきたわけではない。まして問いを自分で考えるなんて!
☆21世紀型教育は、思考力に力点を置いているが、現在の21世紀型は、まだ20.5型教育で、課題そのものはやはり教師が与える。
☆これでは、モチベーションは内燃しない。どこから探求がはじまるのかというと、問いの探究そのものからはじまらなければ。そしてそれが思考の自由を保障する本当の学びの自由である。
☆つまり、20世紀型あるいは20.5型教育は、学びの自由を奪ってきたということが本当のところなのだ。図書館で本書のワークショップなどのアクティビティが行われれば、知の革命が起こることは必定である。
☆今文科省がスーパーグローバルハイスクール(SGH)100校に20億から30億円の予算をつけるという話が話題になっている。このSGHで行うことは、まさに本書の「問いかけの協働システム」である。イギリスのAレベル、IBのTOK、米国のAPコースの学びでもある。
☆凄いことかもしれないが、100校とは何事か!またも3%に満たない学校に補助金を出すという不平等政策ではないか。
☆ところが、公共図書館で「問いをつくるスパイラル」ワークショップをやれば、それは多くの生徒に思考力を身につける機会を用意することになる。
☆そんなことは学校図書館でやればよいという話かもしれない。しかし、この問いかけの協働システムは、ハードパワーではなく、ソフトパワーである。よきファシリテータやメンターが必要だ。
☆現状専任の司書教諭が少ない以上、公共図書館を知の革命拠点にするほうが現実的だろう。
☆ファシリテータやメンター、あるいはプロデューサーとしての司書教諭は兼任では役割を十分に果たせない。もし専任を雇おうとするとまたまた人件費がかかる。
☆ところが、公共図書館だと、退職した教師というすばらしい人材の協力を得られる。また、専任の司書教諭の知を結集して、本書がそうであるように、知のワークシートを形成する。
☆これは売れれば執筆者に利益がはいる。リーズナブルな配分をすればよいわけである。そして、それ以上の利益は、ワークショップファシリテーターにリーズナブルな配分をすればよい。
☆高齢者対策にもなるが、一番の目的は、世代間のコミュニケーションを生み出すハッピーなコミュニティの生成である。学びのコミュニティ、つまりソフトパワーのスパイラルな育成コミュニティが経済や政治のベースになる社会こそ成熟社会だろう。
☆それに自然秩序型経済。ゼロサム循環経済を生み出すには、現状の図書館システムでは職員が回すことはできない。税金ベースの予算を合理的に運営するのが職員の役割であるから、ソフトパワーの運営はボランティアベースのリーズナブルな配分による自然秩序型経済ベースでいけばよいのである。
☆このようなボランタリーなファシリテーターチームを運営するNPOも生まれてくる可能性も十分にある。
☆それに学びファシリテータは、専任の司書教諭のもとで学びのロールプレイの修業を積んだ図書委員も可能だ。
☆この「問いをつくるスパイラル」の本は高校生が対象だが、スパイラルなのだから小学生からはじまってよいのである。出発点は身近なものからでも、探究プロセスは変わらない。だから、低学年からでもできる。図書委員の活躍のチャンスがあるのである。
☆たとえば、キャンプ場にいくと(いかなくても自宅ででも)蚊やカナブンなどの羽音に悩まされる。多くの小学生がその体験をこの夏しているだろう。それとヘリコプターのプロペラの回る音を比べてみたらどうだろう。それは小学生でもできる。そして、そこから実に重要な問いが生まれてくるではないか。彼ら1人ひとりの問いの生成が始まるのである。
☆この比較のスキルについても、本書ではいくつか紹介されている。次元を変えてみる、樹系図を書いてみる。比較の階層構造を描いてみる。マインドマップを描いてみるなどなど。図がワークシートになっていれば、難しい言葉を発しなくても、子どもたちは自由に描ける。ワークシートが最近接発達領域になるようにデザインすればよいのだ。
☆小学校低学年の生徒とときどきマインドマップを描くけれど、言葉の連想と同じように楽しめる。描きながらいろいろな問いが子どもから投げかけられる。
☆大学入試に臨む帰国生の小論文のワークショップもときどきやるが、同じようにキーワードをマインドマップでどんどんかいていき、それを整理し、カテゴライズし、一般化して、何が問題なのかはっきりさせる議論をいっしょに行う。キーワードの次元が違うだけで、小学生も高校生も思考の手順は同じである。
☆ロサンゼルスのチャドイックスクールという幼稚園から高校までの名門プレップスクールを見学に行ったときに、この思考の対話のスパイラルを幼稚園から高校まで、同じキャンパスの至る所で行っていたのを思い出す。
☆この名門プレップスクールでやっていたことと同じ質感の学びのワークショップを公共図書館で行うことが、学校図書館や退職した教職員とコラボすることによって可能なのだ。まさに問いかけ協働システムそのものというわけである。
☆日本の公共図書館が積み上げてきた暗黙知を、ボランティアコミュニティが引き出せる。日本の教育のソフトパワーを全開させる時が来たのではないだろうか。
☆今まで、イギリスのパブリックスクールや米国のプレップスクールや、中国や韓国、イギリスのエリートスクールなどに集中していた学びの方法が、日本ではフィンランドと同じように、すべての生徒に開かれる。ただし、フィンランドと違うのは学校でではなく、公共図書館でというところ。
☆もちろん、ここにICTの活用があれば、子どもたちやファシリテーターはさらにエンパワーメントされるだろう。
☆ともあれ、本書の存在は図書館革命を予告していることは間違いない。
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