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2014中学受験【009】 海城 2013年国語入試問題「物語」考

☆今春の海城の国語の入試問題の物語は、中学入試の物語の「問題の解き方」及び「ものの見方・考え方」のロールモデルになる。まず、登場人物が3人いるが、普通の物語と違い、登場人物の視点で展開する物語が二つ提供されている。

☆ちょっと時間的ずれがあるけれど、同じ時空にいながら、二人の内面がパラレルワールド風に描かれている。

☆つまり、物語の問題定番である気持ちの読み取りなどは、種明かしがされているようなものだといえる。だから、心情をどのようにたどればよいか、二人の内面を比較しながら読めば、そんなに突飛な推理が成立するわけでもない。

☆与えられたテキストの情報を取り出したり、マッチングしたりする「ものの見方・考え方」にふだんの学びの中で鍛えておけばよいわけだ。これは国語に限らずできる。

☆ともあれ、男子にとって、女子の心情を理解するのは、まだまだ難しい。いや永遠にわからないかもしれない。だから、種明かしをしてくれている物語は男子にとっては大いに助かるだろう。

☆しかし本当は、人間関係とは理解が難しい。であるから、世の中意思疎通のコミュニケーションがなかなかうまくいかないわけだ。男女に限らず、普遍的な問題なのである。だから、悩ましく喜びもある。文学はそこを表現しているわけだから、本来は気持ちの問題1つとっても、正解はないかもしれない。

☆それゆえ、海城の国語の問題は、文学的な質感を損なわずに、それでもある程度正解を絞れる物語を選択したわけである。ここに教師の質の高さがあると、受験生は読み取らねばならない。入学試験は学校の顔であるとは人口に膾炙されているが、入学試験は教師の力であると言うこともできる。

☆さて、「問題の解き方」だが、基本的には、「人物の行動→気持ち」という定番の行動と気持ちの連鎖を論理的に追っていけば出来る問題。

☆選択肢の作り方も、「人物の行動」とそれに反応する「気持ちの表現」の2つをチェックしていけばよいから、やはり物語といえども、論理的に攻略できる。

☆もう一つは、これは少し厄介であるが、メタファー(比喩)を読み解く力を必要とする。これは物語という文学的な性格からいえば、避けられない。ただ、詩ほど自由度はないので、ストーリーの展開を推理しながら読める習慣がついていれば、そのメタファーの意味がわかる。

☆問題に「日暈」が何を示しているのか問うものがある。日暈とは、太陽に薄い雲がかかったときにその周りに光の輪が現れる自然現象のことであることは、読み取れるが、もちろん、これは解答ではない。

☆見えにくい輪だし、すぐに消えてしまうかのようなものだ。これは登場人物のネガティブな気持ちを表しているかもしれないし、めったに見ることができない現象であるし、虹の橋とは違い虹の輪になっているのであるから、ポジティブな気持ちを表しているかもしれない。

☆物語は、前半はネガティブ、後半はポジティブにシフトしているから、後半にでてくる日暈の描写は、ポジティブな心情をたとえている。この程度の文脈の条件とマッチングできれば、選択肢はすぐに決定できるようになっている。

☆ところが、小学校6年生には、これは意外と難しい。

「行動と心情の反応」という「因果関係」

その前に「メタファーが喚起するイマジネーションの数々」つまり、「メタファーと体験」の「比較」

「文脈という全体視野と数々のイマジネーションとのマッチング」という「置き換え」

☆これらが「統合」されてはじめて解答が選択できる。難しいのは、1つの問いを解決するのに、「因果関係」「比較」「置き換え」という複数の「ものの見方・考え方」、つまり複眼思考を要するところと、実はこの複眼思考によって、数々のイマジネーションという主観の中から、1つを選択して客観化するという、共同主観を形成する「ものの見方・考え方」、次回の学習指導要領に取り入られようとしている21世紀型スキルの表現を使えば、「メタ認知」(図を参照)まで要求されるところ。

☆幸い、これは選択肢問題だからなんとかなるが、これを記述せよとなると、超難問になる。だから、海城の物語の問題をていねいに考えていく。練習する時には、選択肢問題を記述問題にしてしまう。すると、桜蔭、麻布、武蔵、栄光、筑駒以外の学校の物語の問題はこわくない。

☆記述の問題であるが、これは2種類の問題が出されている。両方とも要約問題で、記述の基本フォームは共通している。

Aだが、Bなので、Cである」

☆もうお分かりの通り、これは物語に限らず説明的文章の要約でも同じ。このようなフォームを提示すると、「問題の解き方」、つまり受験テクニックを示しているように見えるが、そうではない。

AだがB」の部分は「比較」

BなのでC」の部分は「因果関係」

C」の部分は「結論」「トピック」

1つの記述式問題は、フォームの「Aだが、Bなので、Cである」をすべて活用する。もう1つは、フォームを考えたうえで、「C」の部分だけを解答する形式。

☆なぜこうなるかというと、フォームを全部使う記述式問題は、解答の手がかりが、傍線の直後にあるので、それを要約すればよいので、考える時間と記述する時間のバランスが良い。つまり細部を考えて、要約ということ。

☆もっとも、解答の手がかりを、2つの会話文にするか、直後の会話文だけにするかで微妙に違う。直後の会話文だけからつくると、「AだがB」の部分がパラドックス型になり難しい。2つの会話文になると、文としては複文になるが、内容的にはABの並列型の比較になるだけで、そう難しくはない。

☆つまり、立体的な思考になるか、平面的な思考になるか。前者は「メタ認知」で立体思考。後者は与えられた情報のスキャンと置き換えという「認知」レベルの平面思考。おそらく、作問者は、後者を考えていて、この問いの段階では、平面思考で、まずは物語の転換する流れを確認しておきたかっただけだろう。

☆もう1つの記述式問題は、最終問題であり、オチあるいはもしかしたら主題をまとめるにもかかわらず、30字以内。「AだがBになった」を30字以内にまとめるのは困難だから、優先順位を考えて「Bになった」と解答すれば意外と楽だが、同じ行為のときの気持ちの違いに「留意」してというのがアダになり、「AだがB」を30字以内にまとめようとして書けなかった生徒もいるだろう。

☆この「留意」という他校ではあまりみない条件が、海城らしい。つまり、ここは海城受験生のみの対策。一般には、ここは60字以内で「AだがBになった」ができればよいと思う。

☆では海城はトラップをしかけたのか?そうではない。むしろ逆である。同じ行為だが、気持ちが変わったというのは、物語全体を読まなければわからない。先ほどの記述は、細部を考えて、要約する問題であるが、この問題は全体を考えて要約する問題だから難しいのである。それで、ヒントを与えたわけである。

☆実は先ほどの記述式問題も、ヒントがあった。「水沢の言葉の中から2点読み取り」と。一般には、「本文中の言葉を使って」とするのだが、本文中の言葉の中でも、さらに特定の登場人物の会話文に絞り、しかも2点要約のポイントがあることまでヒントとして提示している。

☆だから、海城の対策としては、このヒントが何を意味するのか過去の問題を解きながら調整しておく必要はある。しかし、どうやって?

☆それは塾の先生に任せた方がよいだろう。塾の先生方だと、どこまで考えるかは、「子どもらしい」「小学校6年生らしい」というセンサーが働くから、「ものの見方・考え方」=「思考力」は、「知識→理解→応用→分析」のレベルできっちりブレーキをかける。

☆海城の問題は、「知識→理解→応用→分析→少し総合」というレベルまでいく。しかし、「少し総合」の部分は、選択肢問題の消去法や記述式問題のヒントによって、特にトレーニングしなくてもできるようになっている。

☆ところが、桜蔭、麻布、武蔵、栄光、筑駒は、「知識→理解→応用→分析→総合→評価(自己決定)」まで突破してしまう。それゆえ、きっちり海城対策をすると、このような学校の国語問題は太刀打ちできないという感覚を生徒が持ってしまう。

☆それで、海城は、入学後「知識→理解→応用→分析」から「総合→評価(自己決定)」にジャンプするプログラムをたくさんつくっている。また帰国生入試は、はじめから「知識→理解→応用→分析→総合→評価(自己決定)」の「ものの見方・考え方」を有する問題にしているから、帰国生30人が、そのようなプログラムでリーダー的な役割を果たすことが期待されている。

☆もちろん、東大・早慶・MARCHは、今のところ「知識→理解→応用→分析」までで解けるので、海城の従来の教育に問題はないはずなのだが、どうして帰国生入試のような問題を出すのか?

☆それは2018年から大学入試改革が本格化し、「知識→理解→応用→分析→総合→評価(自己決定)」まで要求されることを見据えていたからである。というのはどうやら違う。もちろん、見据えているし、時代は着実にそちらに向かっている。

☆しかし、海城はもう少し独自の発想で、入学後「知識→理解→応用→分析」から「総合→評価(自己決定)」にジャンプするプログラムをたくさんつくっている。

☆それは、人間形成をするには、認知領域だけではなく、精神領域、身体領域すべてを行わねばならないからだ。

☆なんだ、知育・徳育・体育ではないか。当たり前だし、公立だってやっているのではないかと言われるだろうが、問題は、知育は知育、徳育は徳育、体育は体育と縦割りになってきたことだ。

☆その証拠に、日本の初等中等教育の現場では、「教科横断的」とか「クロスカリキュラム」という発想は嫌われてきた。これは、実は「総合→評価(自己決定)」の教育が明確なプログラムとして学習指導要領に位置付けられず、情熱的な現場の教師が暗黙知としてなんとかやってきたことなのだ。この認知領域の「総合→評価(自己決定)」の思考力がなければ、知育・徳育・体育は有機的にリンクしない。

☆現場の教師の暗黙知の力でなんとかやってきたのである。ところが、この暗黙知は経験値がものすごく影響するし、受け継がれていくには、学習する組織がないと断絶してしまうのである。

☆ここに現代の教育現場での解き難い問題が噴出することになっているのでないかという教育の危機を海城は直感したのである。解き難い問題は、昨今のニュースからだけでも予想はつくが、現場ははるかに凄まじい。

☆この問題は、開成も入学後に噴出する。なぜなら、「総合→評価(自己決定)」の暗黙知が継承されていないからである。中学受験までは、ここまで学んだ受験生が入っていくが、入学後、東大の問題を頂点としてしまうので、「知識→理解→応用→分析」のレベルの授業がきっちり行われてしまう。それで、いつしか「総合→評価(自己決定)」の部分は在校生任せになってしまっている。

☆それをなんとか保っているのは、ようこそ先輩の講演。同窓力が成せる業だろう。しかし、それもだんだん薄れていく。同窓が若くなっていくからだ。

☆だから、海外留学経験者の英語教員を採用し、ハーバード大学へというグローバル進路に切り替えようとしている。ある意味、海城の帰国生入試と同じ発想である。もっとも、開成の場合、「総合→評価(自己決定)」の暗黙知をもった隠れ帰国生がいっぱいるのだが。

☆今日本語IB200校構想の話がでているが、IBの場合は、10の学習者像からも明らかだし、実際にIB教師は、ブルーム型の「知識→理解→応用→分析→総合→評価(自己決定)」を評価の一助として参照している。

☆東大ではなく、グローバル教育に射程を延ばせば、自ずと「総合→評価(自己決定)」の部分もトレーニングできる。開成はそう直感している。海城はそこを暗黙知から形式知化しようとしている。この差が、将来どうなるのか、興味深い。

参考図)

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