2015中学受験生のために【116】麻布の社会科の視点と背景
☆麻布の「衣錦尚褧(図書館通信2014年度第3号2014.5.28)」の巻頭文は、いつものように同校の教員による本の紹介であるが、今回は社会科教員の堀川禎一先生によるものだった。
☆堀川先生は、外部のインタビューに対し、時々回答しているから、ある意味麻布の理念や思想を代表しているのだろう。
☆もちろん、堀川先生は、麻布の教員はみなそうで、役回りが私にきただけですとお応えになるだろう。
☆たしかにそうだと思うが、たとえば、2007年2月17日の産経新聞で、麻布学園が全国学力テストに参加しない理由として、「授業が1日分減ってしまう。当校としては全国の学校と比較する意義を感じない」と語っていたりしている。
☆また、「New Education Expo2005」では、
「暗中模索の情報教育」として、2004年度に始めた高校2年の「情報C」の授業について報告した。ねらいは「情報の収集と発信」で、1学期は4~5の班に分かれて「バーチャルショップ」の企画を考え、それを発表して相互評価をさせた。この段階では、発表の形はパソコンでも紙でも認めた。夏休みに企画の練り直しと、情報関係の本の読書感想文の提出を指示し、情報のワークブックを学ばせて、休み明けに小テストを実施した。2学期はHTML文の理解と画像データの処理を行ない、バーチャルショップのホームページをつくらせた。3学期にはホームページについて、出来栄えや、データの出所、著作権問題などについて相互評価させた。
成績評価は「知識評価は中心に置かないで、2回の授業に1回のレポート、作品(ホームページ)の相互評価と教員評価、夏休みの課題の提出物、小テストの結果を総合した」と説明した。堀川教諭は「一番悩んだのは、情報という授業のコンセプトを伝え切れなかったことだ。生徒にもこの忙しい時になんで情報?という気持ちがあり、学習の動機付けに苦労した。教科『情報』を確立しなければいけないが、そのためには幅広い教科のサポートが不可欠だ」
☆と述べたようだ。全国学力テストは、知識と応用(思考)とあるが、実際には知識一色の問題。それゆえ、堀川先生は、麻布は、学際的な幅広い教科間のサポートを大切するし、それゆえ成績評価も知識偏重型ではない。それゆえ、土俵が違うテストに参加することはそもそも麻布の教育上矛盾であるというのであろう。
☆そして、「衣錦尚褧」でこう述べている。
(堀川先生はマックス・ウェーバーの『〔現代訳〕職業としての学問』(三浦展訳、プレジデント社)を紹介)「〔現代訳〕には「プレカリアート(不安定な雇用を強いられた人びと)」という用語が登場する。職業としての学問をめぐる経済状況は厳しい。当時のドイツでは、大学教師の仕事は無給の私講師から始まった。彼らは学生から聴講料を集めなければならなかったという。現代の日本では、大学院で博士号を取得しても研究者のポストに就くことのできない人(ポストドクター)が、全国で一万人以上いる。彼らは非常勤講師や任期付き研究員として働きながら、雇用の不安に怯えている。国や時代による違いはあれ、こうした状況が大きく変わることはないだろう。
学問の専門化が進行し、自分の研究の内容や意義を理解できる人がわずかしかいないとしても、日々の研究に専心することが大切である。ウェーバーはそれを「ザッヘ(日々の仕事)」への専心といっている。また学問的業績の意義は、新しい研究業績によって、自分の学問が古び、乗り越えられていくことを欲することにあるとも説いている。
☆ここは少しわかりにくいが、わかりにくいというより、堀川先生の想いのゆらぎがあるが、麻布の、つまり江原素六の精神が見え隠れする。
☆生きる意味を見いだす学問から専門的職業としての学問になってしまった近代、というより今、生きる意味を見いだす学問をやっていると自ら学生から食い扶持を回収しながらやらざるをえない。それではプレカリアート。でも、それは私立中高の教師のようであると。
☆しかし、職業としての学問も、職業=学問ではなく、プレカリアートを続けていると、研究の持続可能性が難しくなるから、研究の持続可能のための方法として職業があるのだから、それはそれで大切なのだと。
☆つまり自分の研究を追求するのに、中高も大学も経済生活の違いに過ぎない。大事なことは、研究や探究なのだ。
☆そして、その研究や探究は、生徒や学生と対話をしながら行っていくことに変わりはない。ただ、生徒と学生とは成長の違いはある。その成長の面倒まで見なければならないのは、中高の生徒。そこへの興味を持つかどうかは中高教員と大学の教員との差異はある。最近ではそうでもないようだが。
☆江原素六は、後者の道も可能だったのに、中高の運営に身を投じた。その覚悟が堀川先生の言葉から伝わってくる。
☆ともあれ、2015年麻布の社会科の問題のテーマに、職業や仕事の意義、未来への変化などがあるかもしれない。
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