森有礼のヤヌスの幽霊が今も支配する文科省
☆東京私学教育研究所の所長清水哲雄先生は、3冊目の「「加速する教育界の変化 資料3」を編集された。この混迷した教育改革論議の世相の中、極めて重要な探究である。
☆そして、そこに「森有礼の教育改革と儒教主義~森有礼と元田永孚・西村茂樹との交渉を通して~」(囁長順著)という研究ノートが収録されているが、それを送っていただいた。
☆本報告を読むと、国粋主義者に襲撃されて亡くなった森有礼は、実際には近代教育の思想をつくったのではなく、あくまで当時の欧米諸国と肩を並べるために、民主主義と憲法、そして教育の法整備というツールをつくっただけで、その内容は、儒教主義者である元田永孚・西村茂樹と葛藤・融和・妥協を繰り返し、結局は、現在のイノベーション主義者と伝統主義者の二項対立の政治的エンジンを造ったというのがわかる。
☆1989年に明治憲法が公布されたときに、襲撃されたのであるが、それは森有礼がイギリスやフランス思想の法整備に加担したわけだからではないようだ。
☆たしかに、当時から森有礼vs元田永孚という対立が世論的には目立っていたが、実際には互いにいいとこどりをしていたようだ。
☆実際、フランス思想やイギリス思想の影響下にあった学制、教育令は、森有礼が文部大臣だった時期に、明治憲法のベースになった、当時のドイツ的な啓蒙君主制の発想に転換されている。
☆森有礼死後も、その勢いはますます強くなり、法典論争は、ことごとくフランスベースの発想を打ち砕いている。社会的進化論、法律進化論が大勢を占め、東大と官僚がそれを推進した。
☆つまり、天賦人権説を排除し、ドイツの法実証主義者サヴィーニの考え方が支配した。
☆サヴィーニは、当時のドイツの啓蒙思想的法理論のベースであった、カントやヘーゲルの思想や哲学を、法律の世界から一掃した。つまり国家論のなかから一掃した学者である。
☆森有礼は、明六社を創立し、その中の加藤弘之らと協力しながら、富国強兵を正当化する教育制度、今の小学校から大学までの基本型をつくったのである。
☆しかしながら、その明六社という日本初の学会のルーツには、福沢諭吉や箕作麟祥がいた。彼らは、啓蒙思想を守ったし、福沢諭吉に到っては在野で≪私学の系譜≫をつくった。
☆実は、ここで重要なのは、現在の公立学校の教育の議論は、常に森有礼vs元田永孚の二項対立しかテーマになっていないということなのだ。
☆本当は、≪(森有礼vs元田永孚)vs福沢諭吉≫という構図が明六社や明治維新に立ち戻れば露わになるが。1989年森有礼死亡のときから議論される教育の改革は、≪官学の系譜≫内でのヤヌスの顔にすぎないのである。
☆今自民党が憲法改正草案の中で、前文の中から「人類普遍の原理」という文言を天賦人権説の蒙昧として排除することを提案しているところは、まったく森有礼のヤヌスの幽霊がいまだに支配していることを示唆している。
☆結局は、近代国家づくりのための技術は輸入したが、その内実は儒教主義の道徳国家でありつづけるということなのである。
☆戦後教育基本法で、再び啓蒙思想的な発想=リベラルアーツ的発想が取り戻されたのであるが、第一次安倍政権で、それは否定され、改正され、第二次安倍政権では国家道徳が如実に復権してきた。
☆戦後教育基本法の成立に寄与した偉大な人物は、多くは福沢諭吉、江原素六、新島襄、内村鑑三、新渡戸稲造の弟子たちであった。
☆しかし、今は森有礼、元田永孚、西村茂樹、加藤弘之などの思想はツールにすぎず、悪法も法であるという法実証主義者の系譜が欲しいままに権力をふるう時代に突入している。14日の総選挙では、その路線がさらに加速化する。
☆私立学校は、福沢諭吉のようにどこまで「痩せ我慢」ができるだろうか。もはや≪私学の系譜≫は、21世紀についえるのだろうか。
☆思想を捨てたマイクロソフトやピアソンなどの21世紀型スキルが浸透せざるを得ないのだろうか。
☆エジソンやマズローも自己実現はさらにその先に禅の道があるという感覚を有していたが、それにシンクロしていたジョブスの遺産アップル社は、その感覚を持続可能なものにできるのだろうか。
☆現状でも、もちろん公立学校とは違い、思想を継承した≪私学の系譜≫ベースの21世紀型教育やグローバル教育を実践しようという私立学校はある。そこが、未来からの留学生が乗る宇宙船になることを期待する以外に誠の道はないのかもしれない。
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