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私塾市場の変化[06] 啓明舎の意義

読売オンライン(2016年6月7日)に後藤卓也氏の記事「第1志望校合格は成功の第1歩?」が掲載されています。後藤氏には、一度お会いしたことがあります。一部の大手進学塾による御三家独占化となった中学受験市場=塾歴社会化現象について見識を拝聴したかったので、首都圏模試センターの北氏と山下氏に機会をつくってもらいました。

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(読売オンラインサイトから)

☆学習塾には大手予備校と私塾があると思っているのですが、後藤氏が運営している啓明舎は、経営権は大手予備校に属し、塾としての役割や意義は≪私塾の系譜≫です。

☆大手予備校は、各教室の責任者や講師の独自の力量というより、教務の本部がつくったテキストや模擬試験の偏差値の2つを使って、いかにきめ細かく指導するかというところに主眼があります。

☆心あるスタッフは、子どもの状況をみて、そこに合うようにテキストの内容をコーディネートしますが、それは例外的で、あくまで偏差値に合わせて、テキストの配分やスピードをコントロールするという意味で面倒見がよいという感じになりがちです。

☆啓明舎は、あくまで子どもの状況を受け入れ感じ取り、その状況を善き状況に進むように、テキストや宿題、何より後藤氏をはじめとする講師の方々の問いかけが生み出されます。

☆しかも、1つのクラスの授業は、算数と理科を担当する講師、国語と社会を担当する講師という2人3脚で運営されています。世にいうアクティブラーニングの教科横断的発想というものは、すでに啓明舎設立の時から行われているわけです。

☆だから、御三家に合格する受験生も、その生徒に合った学校を目指す受験生も集まってくるのです。2人3脚ですから、子どもの学力や精神的な状況の共有もできるし、何より、ものの見方感じ方という高次思考の構造の特徴をつかめます。

☆偏差値というのは、いわば受験勉強の体験値を示す指標です。御三家クラスの子どもの受験勉強の体験値はこのくらいだから、それをクリアできるかどうかという指導になります。

☆しかし、後藤氏は、そのような量的リサーチのみならず、子どもの学力や精神的な構造を質的にリサーチします。だから、御三家レベルの子どもの学力や精神的な構造が不十分な受験生に、的確なサポートができるわけです。

☆ところが、この構造の発達や成長というものは、外から脳みそに手をつっこんで、柱をたててあげたり、骨組をつないであげたりするわけにはいかないのです。

☆あくまで本人の意志の問題で、自己決定が必須なのです。ですから、その強い意志が芽生えるまでは、自らの人生の道は開けません。

☆だから、今回の後藤氏の記事にでてくるAくんのエピソードのように、御三家クラスの学校には合格しても退学し、その後もそれを繰り返し、専門学校に行きつくのですが、そこが結局自分の学びとマインドの構造構築の足場であることに気づき、外からみていたら、大逆転ホームランを打った成功を成し遂げるというようなことがあるのです。

☆啓明舎はやはり≪私塾の系譜≫です。後藤氏は、偏差値という量的リサーチにのみ拠って受験指導をするわけではないからです。

☆質的リサーチによって、子どもの学力とマインドの構造を見通し、その構造に見合った学校選択をシェアしていきます。今その構造が未熟な場合、その構造を6年後見事に自ら組み立てる意志をもてるような学びの環境を有している学校を探します。

☆さりげなく、質的リサーチと言いましたが、このスキルを習得するには、かなりの専門的な学問の素養が必要になります。残念ながら、日本の学部レベルではその素養は身につきません。

☆博士課程や海外留学という経験が重要になります。後藤氏のプロフィールはまさにその典型です。≪私塾の系譜≫は、この豊かな教養が大前提のようです。

☆したがって、大手予備校が、そのようなスタッフを標準化できないこともあり、≪私塾の系譜≫から離れるのは当然です。

☆しかし、ここまで述べてきて、鉄緑会やサピックスを振り返ってみると、両社とも、経営は大手教育産業や大手予備校ですが、塾そのものは啓明舎さながらなのです。では、両塾は、≪私塾の系譜≫なのでしょうか?これは、≪私塾の系譜≫のパラドクスですね。

☆おそらく両塾の講師のプロフィールも後藤氏のような経験値が並んでいるでしょう。となると、たぶん、世界市民的見地に立っているか、優勝劣敗的見地に立っているかの違いがあるのかもしれません。前者は≪私塾の系譜≫で、後者その外皮をかぶっているだけ・・・。いやいや、急いではいけません。もっとリサーチしてみる必要があります。

☆この辺については、北氏や山下氏と再度対話をしてみたいと思います。いずれにしても、≪私塾の系譜≫と≪私学の系譜≫は、そのDNAのルーツは同じような気がしています。

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