私学人氷上先生の魂
☆とはいえ、ハンセン病の問題について出会ったのは40年以上前の話で、ハンセン病患者の方々の痛みを分かち合いながら、その歴史的な問題意識、日本近代社会の制度論的問題などについて、考えてこられた。
☆そしてハンセン病の問題から広く世界の痛みを感じ、その世界の痛みを解決するためにも、考える力を麻布生と共有することはいかにして可能なのか、教育において実践してきた。
☆近年の環境問題は、今まで予想もしてこなかった感染症があらわれ、それを巡る制度論的な問題、世間の認識問題、医療の技術的な問題、何より痛みを引き受けている患者の方々の生活や権利の問題など、ハンセン病の痛みは、ハンセン病を超えて普遍的な人間の価値観や生き方、制度論に関係する問いかけであることを、麻布生と共有してきたのである。
☆氷上先生は、手のひら理論と蛹期自己形成論の2つの軸で麻布の教育について語り、日本近代社会の歴史を3つの山脈で読み解くビジョンについて語ってくださった。
☆そしてこれらの理論とビジョンは、麻布教員時代とハンセン病歴史史料館の運営委員長としての今の両方を貫いていた。
☆麻布時代かかわっていた討論部の生徒は、夏になると今年も宮古島を訪れ、氷上先生と対話をし、宮古島の歴史と今をリサーチし、ハンセン病患者の方々と対話をした。
☆氷上先生はやりがいや夢を商品化し、社会化するのを一番警戒するため、生徒1人ひとりが自分で見聞し、体感し、何かを感じ、自分を見つめる時間を大切にしている。
☆読書や論文を探求の基礎とする麻布生は、実際の社会の痛み、1人ひとりの痛みのリアリティに触れ、自分のやるべきことを見つけていくいくようだ。
☆氷上先生は蛹期である中高6年間の成長は、外から見ていたらわからないだろうけれど、そのすさまじい魂の嵐を乗り越えて自己を形成していくものなのだと確信しているという。
☆麻布の生徒は、将来、それぞれの場でかなり重要なリーダーの位置を占めるようになっていく。そういう意味で、麻布はエリート養成学校だ。だから、エリートになった時、社会や制度が世界の痛みに届かないケースが山ほどありまた忘却されるような仕組みになっていることに気づけることが大事なのだと。そのためにも、中高時代に考える時間をたっぷり経験しておくことは極めて重要だという信念を持っている。この信念こそ、いわば手のひらづくりなのだよと。
☆大学への進学は、指の機能であり、それはそれで大切だが、総合的な力である手のひらをつくる教育が重要なのだと。個と類は統合される必要があるのだと。
☆しかし、時代は目先の機能や目的ばかりに目が行ってしまう。それでは、自己形成の重要な蛹期が過ごせない。蛹の期間がなければ、人は生きていけるだろうか。そんな歴史的危機を認識できる歴史観として、福沢山脈と漱石山脈、内村鑑三山脈の探究を提唱される。
☆日本におけるハンセン病の問題は、2001年になって、ようやく解決の糸口を見いだした。しかし、それは糸口に過ぎず、解決の道はまだまだこれからだ。しかし、そのことが今再び忘れ去られようとしている。宮古島で氷上先生が活動されるのは、そうならないようにしたいという強い意志があるからであるが、同時に、さまざまな問題が隠され合理的に処理されるかのような近代社会の危うさに常に目配りできるエリートの育成を今もなお続けているからでもある。
☆近代の超克、そしてそれに立ち臨むエリートの自己形成の教育。私学人の魂ここにあり。
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