正智深谷高等学校の挑戦
☆熊谷―深谷―本庄という高崎沿線の教育が新たなステージに移行する可能性がでてきた。その変化を生み出す拠点はどうやら正智深谷高等学校。そのことを話すには、少々埼玉県の学力向上政策を巡る特別な経緯についてみておく必要がある。
☆埼玉県教委は、2010年から大学発教育支援コンソーシアム推進機構(CoREF)との研究連携によって、「県立高校学力向上基盤形成事業」を開始した。この時点では、研究指定校は9校だった。それは今も継続しているが、2012年にはさらにインテルなども加わり、ICTを交えた21世紀型スキル研修も導入してきた。
☆それが、おそらく未来を拓く『学び』プロジェクトと発展し、平成28年度は、研究開発校は102校(県立高校97校 市立高校4校 県立中学校1校)にもなったのではないだろうか。
☆その目的は、埼玉県教委のサイトによると、「生徒のコミュニケーション能力、問題解決能力、情報活用能力など、これからの時代を主体的に生きるために必要な資質・能力の育成を目指し、『知識構成型ジグソー法』による協調学習の授業づくりを中心とするアクティブ・ラーニングに関する研究に取り組む」とある。故三宅先生といっしょに開発してきた「知識構成型ジグソー法」が根付いているから、2010年からははじめたころの目的が継続しているということだろう。
☆その当時の目的とは、故三宅先生が中心的に牽引していた「大学発教育支援コンソーシアム推進機構(CoREF)」との研究連携により、次のように共有されてきた。
(1)多様な高校生に対応し、学力向上を目指した新たな授業形態と改善の方策を提言
(2)学習者の視点に立った、自ら学ぶ意欲をはぐくむ教材の研究・開発
(3)授業改善を推進する中核教員の養成
☆つまりは、「学力向上」の授業環境改善・教師の養成が目的だった。そこに2013年あたりから、2020年大学入試改革の話や学習指導要領の改訂の話が重なってきてしまったという経緯がある。しかし、三宅先生の「知識構成型ジグソー法」はアクティブラーニングとしてそのスタイルは確立していたから、渡りに船だったのかもしれない。
☆そして、わざわざ「知識構成型」という文言を重視しているのは、本当は、その言葉を反転させればわかるように、「学力向上型」という意味が隠れているのではないだろうか。この学力向上の意味は2010年当初の意味を変えていないだろう。結局は、2020年になっても私立大学のほとんどが現状の入試を変えようとしないと想定して、そこに照準を合わせた学力向上をねらっている。
☆なぜか?1つは、偏差値とか大学合格実績で、埼玉の上位10校と言えば
大宮高校 公立
浦和高校 公立
慶應義塾志木高校 私立
早稲田大学本庄高等学院 私立
栄東高校 私立
浦和第一女子高校 公立
立教新座高校 私立
淑徳与野高校 私立
春日部共栄高校 私立
西武学園文理高校 私立
☆というイメージが今もあるのだが、このグループでは公立学校が30%しか占めていない。それゆえ、まずは大学合格実績をあげようという目的があるのだろう。
☆それともう一つは、公立間格差をそう簡単になくすことができないが、最重要課題の生徒の自己肯定感やモチベーションの低下は優先的に解消しなくてはならない、そのために「知識構成型ジグソー法」を採用したいということではなないか。
(同校のニュージーランド研修帰国後の事後学習のシーン。アクティブラーニングが行われたいた)
☆もともと三宅先生が米国で学んできたジグソー法は、米国の学校の人種の多様性による様々な問題、特に対人関係の閉塞感を解決するために研究されてきた授業方法である。それを多様性の問題より知識格差の問題がメインである日本の教育文化の事情にアレンジする形で三宅先生は独自に開発した。そして、その研究開発の協力団体が埼玉県教委だったということだろう。
☆当然この背景には全国学力調査テストなどもからんでいるから、どうしても「学力観」が現行の大学入試問題を解ける学力となってしまう。しかし、ここにきて、世界標準に合わせた≪higher order thinking≫までレベルをあげる2020年大学入試改革に、埼玉県の公立高校は戸惑い始めている。
☆従来の学力観に合わせた自分たちのアクティブラーニングと≪higher order thinking≫のためのアクティブラーニングとでは、似て非なるものであるということを最も理解できるのは、おそらく未来を拓く「学び」プロジェクトのメンバー当事者だろう。
☆しかしながら、当面2024年までは、大学入試改革は新学習指導要領本格実施の時期に合わせて緩やかに動くから、2010年当初の学力向上を目的としたアクティブラーニングで行けるとも思っているだろう。
☆そういう意味で、埼玉県の高校全体では、大学合格実績競争という情勢は変わらないだろう。
☆しかし、それでは結局生徒の自己肯定感の向上は達成できないだろう。優勝劣敗という教育も経済に根底に流れている右肩上がり成長神話の意識は変わらない。
☆ところが、今回のTHEの世界大学ランキングで980位までみていくと、豊田工業大学、千葉工大、芝浦工大、東京電機大、東京都市大などが初めてランキング入りしている。特に豊田工業大学は、351位から400位のレンジにはいっており、ランキングに入っている国内大学の中では7位である。いわゆる早慶上智MARCHを振りきってしまっているのだ。
☆この情勢は、現状の偏差値で大学を選んでいると、とんでもないことになる兆候を示唆ししているかもしれない。これはAI産業社会到来で生まれてしまった産学ギヤップを、大学がイノベーションを起こしてなんとか埋めようとしている創意工夫の顕れであるが、AIや遺伝子工学のイノベーションを起こそうとしない大学は、このギャップを埋められない。
☆そのような大学は2020年に改革しようなどと思っていない。高校にとっては、今まで通りの学びで、そこに合格させられるから、これまた自分たちが変わろうなどとは思いもよらない。しかし、それでは、その生徒たちの卒業時の仕事は保障されない。
(御影堂は、専修念仏によって新しい自分が生まれ出ずる精神空間であり、その瞬間にGrowth Mindsetされる。確かな自己肯定感が生徒の全身に染み渡る)
☆それでよいはずがない。平安時代から鎌倉時代へパラダイム転換した時代に多くの庶民を導いた法然上人だったら、こんなときどうしただろう。加藤校長は、法然上人と向き合い、様々なしがらみや軋轢を、払拭した。そのとき、新しい自分が生まれ出でたのであろう。加藤校長は、世の大学や県教委がどうあれ、周りの私学がどうあれ、右顧左眄せずに、まず自分たちが変わるということが法然上人の思想を素直に受け入れることだと覚醒した。
(渋沢栄一翁は、江原素六、福沢諭吉、新島襄と並ぶ≪私学の系譜≫第一世代)
☆それゆえ、2020年大学入試改革を行う国立大学やイノベーティブな世界ランキング入りしている世界標準の大学に進学できる大学進学準備教育をやろうと。
☆それにはC1レベルの英語を学べる環境、≪higher order thinking≫をトレーニングできるPBL型アクティブラーニングの構築、新しい学びのプロトタイプとしてのスポーツ科学などを構築しようと決断したようである。
(正智深谷高等学校の校舎のファサードも赤レンガ。≪私学の系譜≫の重要な意味がここにはある)
☆実は法然上人と専修念仏によって向かい合い、しがらみに取り囲まれ凍てついた自分を解き放ち新しい自分を生み出していくプロセスは、今グーグル―をはじめシリコンバレーなどのAI産業の人材育成研修に取り入れられているマインドフルネストレーニングと相通じるものがあるのだ。
☆STEM教育からSTEAM教育と進化し、成長思考(Growth Mindset)が重視されているのも、実は第4次産業時代に対応する重要なアクティブラーニングのプロトタイプでもある。
☆しかも、東京駅の丸の内駅舎を見ればわかるが、あの赤レンガは≪私学の系譜≫の第一世代渋沢栄一が創設した深谷の工場から調達された。現在の金融資本主義とは全く違う道徳経済合一説の資本主義をデザインした渋沢栄一生誕の地であると同時に、実際に今まさに希求されている理想のクリエイティブ資本主義の源である地から正智深谷高等学校が立ちあがろうとしている。歴史的文化遺伝子が継承されたということだろう。今後が大いに楽しみではないか。
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